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Twitterデータがエンタテイメントビジネスにもたらす可能性
公開日: 2016/07/08

Big Data Summit:「データがエンタテイメントビジネスのエコシステムにもたらすインパクト」

昨年ロサンゼルスで開催された米Variety誌主催の映像業界関係者向けのカンファレンス"Variety's Big Data Summit"で米国Twitter社のデータ戦略担当がTwitterデータを事例に、「データがエンタテイメントビジネスのエコシステムにもたらすインパクト」というテーマで語ったセッションのレポートです。

 

インタビュアー:

Janko Roettgers (米Variety誌のシニアシリコンバレー特派員)


スピーカー:

クリス・ムーディ(VP Data Strategy, Twitter)

Twitterデータ活用のキーワードは「イベントより日常」「事後より事前」

Twitter社はエンタテイメント事業者にとって高い関心の的であるが、Twitterから得られる膨大なデータを企業はどのような形で有効に活用できるのか。
  
Twitter上では、ある話題が突如、「雷のように」爆発的なツイート件数をもたらすことがある。たとえば音楽ビジネスにおいては、グラミー賞が発表されているようなとき。Twitter社のムーディ氏は、Twitterは、こういったイベントの話題度の物差しとしても有効だが、実はむしろ、Twitter上の「人々の普段の日常会話」から多くのビジネス上のヒントが得られることを指摘した。

例えば、耳目を集める音楽関連のニュースやイベントごとがないときであっても、人々は音楽について常日頃、多くのことを語っている。朝起きて、寝るまでの間、音楽について多くのツイートをしている。こういった会話にはマーケティング施策のヒントが多く隠れている。

大きな事案への反応は突如、そしてあっという間に起こってしまう。むしろ、日々のTwitter上の会話から、顧客を理解し、製品、競合や関連する事象をじっくり分析し、施策に活かすことが可能である。Twitter社のムーディー氏は大きなイベントに対する爆発的な話題の喚起を「雷」と表現したことに対し、日ごろの人々の会話を「太陽光エネルギー」と表現した。
 
◆◆◆

ムーディ氏は、Twitterデータ活用のもう一つの観点として事案の「事後計測・評価」よりも、むしろ、何かの兆しや顧客の心理・行動の「事前計測・評価」によって革新をもたらしうるとした。

ランキングや興行成績のデータ追跡が重視されてきたエンターテインメント業界は、長年データに基づいて運営されてきた業界だとしたうえで、今後、データから「兆し」を読み取り施策に反映させることにイノベーションの可能性があるとした。ムーディ氏は、その事例として、ワールドカップの放送番組を挙げた。

 

「昨年のワールドカップ期間中にブラジルのグローボは、閉会式まで視聴者を盛り上げるためのセカンドスクリーンを用意しました。誰も予想していなかったのは、セカンドスクリーンから視聴者のインサイトを深堀り・抽出して、オンエア内容に反映していたことです。例えばスペインの試合で監督に対する否定的なコメントが多いことがセカンドスクリーンのアプリからわかり、特に――深掘りして見えてきたのですが――監督が決めたスタメンの評判が悪かったことが明らかになりました。試合中にそのデータを解説者に流し、その結果彼らはオンエア中のコメントを変更しました。監督の決定に関して8分間も多くコメントがありましたが、先ほどのデータがなければそういう流れにはならなかったはずです。」
 
さらには、映画業界においても、Twitterのデータ分析結果をキャスティングに反映させたりなどの興味深い取り組みがあることに触れ、「エンタテイメント業界においても、事後になってから測定するよりも、施策実施前に、事前に分析し活用するというもっと進んだ方法で活用できれば、もっと大きなビジネスチャンスを手中に収められると思います。」として締めくくった。

他業界での事例:
アイスクリームマーケティングと金融業界の予測モデル

モデレーターのRoettgers氏から、他業界における先進的なTwitterの活用事例を問われ、ムーディ氏は「最高の会社には最高の製品があり、最高の製品を持つ最高の会社とは顧客を理解している会社のことです。企業にとってTwitterの最大の利点は、どのようなオーディエンスがいて彼らの関心事は何かを理解する助けになることです」と前置きしたうえで、二つの事例を挙げた。

  • ユニリーバ/アイスクリームの事例

ユニリーバは自社のプレミアムアイスクリームブランドについてのツイートを知りたいという理由からツイートの分析を開始。「インフルエンサー」分析ではなく、幅広くアイスクリーム全般について調べ、いくつか興味深い点に気づいたという。
 
「例えば、月曜や火曜にアイスクリームの話をする人はいません。水曜に少し話が出始め、週末が近づくにつれ会話がどんどん盛り上がっていきます。シンプルかつどうでもいいインサイトに聞こえますが、実際には何百万ドルもの価値のある発見でした。月曜や火曜にアイスクリームを買わせようとしてもアイスクリームの話を持ちかけても、ただお金を無駄にするだけである可能性が高いことを示唆しているからです。
 
もっと興味深い発見があります。アイスクリームの購入と天候に関連があることはユニリーバも知っていました。『晴れて暑い-アイスクリームを買うに違いない』と考えがちでしょう。しかし、彼らは他にも要素があるのに気づいたのです。人がアイスクリームを買う話をするのは、週末に雨の予報が出ている時なのです。週末に雨が降ると思うと、面白い本とアイスクリームを用意して寝っ転がってゆっくりしたい、という会話がなされているのです。」
 
こうしたことは、ユニリーバにとって新たな発見であった。このインサイトをもとに、ユニリーバはまったく新しい対話をしかけたり、プロモーションなどを打ったりできるようになったという。

  • 金融業界の予測モデル

金融業界は、データがすべてであり、扱いを熟知している。では金融業界は、Twitterデータをどのように活用しているのか?
 
金融業界は市場が動くきっかけになりうる兆候を探す。Twitter社のデータでは、主要なメディアがある事象を取り上げる15分前にTwitterにそのトピックが現れることがわかっているという。金融業界のある企業はTwitterデータ分析を6~7年前から行っているが、彼らが重視しているのは、Twitterのリアルタイム性。金融機関にとってはスピードが重要なのである。

またこの金融機関は、過去ツイート履歴分析や全量過去データ分析に取り組みたいと依頼してきたという。ある事案に直面して、何百万ドルという資産の取引をしようとする金融機関は、慎重であり、過去データに基づくモデルを重視する。
ムーディ氏はこういった金融機関によるTwitterデータの活用のたとえとして次の事例につき話した。

「中国の鴻海の工場で火事があったとします。その金融機関の担当者はメディアより早くその事象について把握します。そしてそれはどういう意味を持つかすぐに判断する。鴻海からパーツの供給を受けている企業はどこでしょう?もちろんサプライチェーンのロケーションは無数にあります。では、どうしたらいいのか。こういった問いに対して答えられるように、
金融業界の担当者は、過去に中国からのサプライチェーンに問題があった時は何があったのか、自分たちのモデルがどう予測して、実際には何が起こったのかを振り返ります。こうしてモデルの精度を高め、究極的にはリアルタイムで即時予測する分析レベルを目指すのです。」

◆◆◆

ムーディ氏は、こういった事例を紹介したうえで、こういった取組がエンターテインメント業界でも増えるのではないかとした。Twitter社の分析チームも時を遡って偶発性をモデルに組み込むことに長けてきており、「この映画の興行成績は?このドラマはどう受け入れられているのか?俳優は?」といった問いに対して、正しいとわかっている要素を加味して、Twitterデータを活用してリアルタイムで素早く決定を下せるモデルを作ることが可能となっているようである。

課題と展望:
Twitterは企業によるデータ活用を促進し世界のあり方・ビジネスに革新をもたらすことを目指す

セッション中、ムーディー氏は「Twitter上では1日あたり250億ものアクティビティが起こっている」ことに何度か触れた。膨大なデータである。ムーディ氏は、Twitterは世界最大のフォーカスグループとして顧客のインサイトを提供しうる点を強調した。また、データはこれまでも膨大に存在したが、いま人々がビッグデータを話題にしている理由は、データが何を示しているか理解しうる状況になってきたからだという。そのデータを処理・分析する技術の進歩により、インサイトを抽出するためのツールが登場したことが大きい。さらには、Twitterはソーシャルメディアの中ではコンテンツをよりオープンにしているプラットフォームである。こうした点を踏まえて今後の展望として、ムーディ氏は以下のとおりセッションを締めくくった。

「我々は、より多くのエンゲージメントデータを出しつつあるところです。何が好まれているかどうかだけでなく、クリック人数や動画の閲覧人数などのデータを提供することも重要なことです。我々は、そういったデータをより多く出すようになっています。こういったデータが重要であることは以前からわかっていましたが、ようやく優先順位を高くし全社的に取り組めるようになりました。既に素晴らしい傾向が見え始めてはいますが、今後のTwitterデータが世界のありかたを変え、あらゆる局面でビジネスの決定に利用されることは間違いないと思っています。エンゲージメントデータ分析から得られるインサイトにより、顧客をより深く理解することは、ビジネスに新たな成長をもたらすでしょう。

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