記事

エンタテイメントビジネスにおけるビッグデータ分析の考え方と現状
公開日: 2016/11/02

メディアとエンタテインメント界におけるデータサイエンティストの台頭(1) - rise of data scientist in media -

昨年ロサンゼルスで開催された米Variety誌主催の映像業界関係者向けのカンファレンス"Variety's Big Data Summit"において、「メディアとエンタテインメント界におけるデータサイエンティストの台頭」というテーマで語ったセッションのレポートの第1弾。

ウォルト・ディズニー・カンパニー、レジェンダリー・エンタテイメントなどの映画製作会社やゲーム製作・販売企業においてビッグデータを扱うデータサイエンティストらがパネリストとして登壇し、ビッグデータの取り扱いと必需性、そして可能性について語った。マーケティングにおいて看過できないビッグデータにまつわる現状を、大手メディア企業の実例とともに知ることのできる機会は少ない。第一回目は、第一線で活躍するパネリストらのビッグデータの考え方と現状についてレポートする。

 

モデレーター:

トッド・サプリー ( PwC エンタテインメント&メディア/パートナー )

 

パネリスト:
マット・マロルダ ( レジェンダリー・エンタテインメント/チーフ・アナリティクス・オフィサー )
ジョン・コーレン ( エレクトロニック・アーツ/プリンシパル・データ・サイエンティスト )
トーマス・ブラウン ( LAギャラクシー/ビジネス・オペレーション、ディレクター )
ウェイン・ピーコック ( ウォルト・ディズニー・カンパニー/アナリティク・インサイツ&ビジネス・インテリジェンス、ヴァイス・プレジデント )
ジェリマイア・ハモン ( ABCテレビジョン/プリンシパル・データ・サイエンティスト )


ビッグデータの分析に関して最も間違った考え方とは?

スポーツ観戦チケット価格の最適化や座席の構成を担当するスポーツアナリティクスの指導的存在であるLAギャラクシーのビジネス・オペレーションディレクターであるトーマス・ブラウンは、「組織はなんらかの技術を持つ人材を(ビッグデータを扱う部署に)採用する傾向にあるが、重要なのは組織がなにを必要としており、採用した者がどこにハマるかということ」だと婉曲的に話す。

世界各国でコンピューターゲーム販売・提供をしているエレクトロニック・アーツのプリンシパル・データ・サイエンティストであるジョン・コーレンは、「企業は顧客を理解していると考えがちだが、実際には把握していない。我々はユーザーとの接点から得たデータを示し、ビッグデータの必要性を訴えている」 。

ハリウッド版ゴジラ(GODZILLA) やダークナイトシリーズで知られるレジェンダリー・エンタテインメントのチーフ・アナリティクス・オフィサーであるマット・マロルダは「分析が問題を解決する魔法の杖であるという考え方は間違いだ」という。「しかし、問題を解決できるわけではないが、ビッグデータを分析し、その結果に基づき解決法を見出すのは新しい試み」だとその必須性を説く。

ABCテレビジョンのプリンシパル・データ・サイエンティストであるジェリマイア・ハモンは、「多くの企業が、膨大な書類やデータを持ち歩くことで満足を覚えるという、ビジネスの運営能力や知識に関して間違った安心感を抱いている。これは大企業にありがちな考え違いだ」と指摘した。

ビッグデータとはなにか?

現在、多くの企業が、ビッグデータ、そしてSNSから自動的に発見・抽出した感情をより効果的な戦略構築に役立てようとするソーシャル・センチメント・アナリシスに興味を持っている。ではそもそもそのビッグデータとはなにか?

「ビッグデータという言葉にはたくさんの意味がある」とABCテレビジョンのジェリマイア・ハモン。「構造化データ、ソーシャルデータ、デジタルデータ。私の場合それは、顧客、つまりは私の仕事に関わる観客から操作的に収集したデータに他ならない。スタジオではそれらを観客を理解し、コンセプトの成果を把握することに利用している。またそれをもとに今後のビジネスを予測可能なものにしていくことにも利用し、取り組んでいる。しかし、データそのものに価値があるわけではなく、それをもとになにを導き出すかが重要なのだ」と答える。

データの収集方法はそれぞれ

データは、各々のユーザーまたは観客から、ほぼ直接収集している。では、解析に適するデータをどのように得ているのか?

映画のゲーム版も多く発売しているエレクトロニック・アーツは、自社のプラットフォームでゲームを楽しむユーザーから直に行動データを取っている。同社のプリンシパル・データ・サイエンティストであるジョン・コーレンは、「収集した膨大なデータを、我々がやるべきことに合わせて適切な情報に変換する。それはプレイヤー1人1人の体験をより良くすることであり、彼らの環境に合わせて調整できるように取り込んでいく」のだと言う。

ABCテレビジョンは、視聴者とダイレクトな関係を持っていないが、ソーシャルメディアがデータのソースとなる。「ソーシャルメディアではユーザーの様々な意見が出るので、当初データの本質を掘り下げるのは難しかった。我々はスタジオが伝統的な手法で集めたダイレクトなカスタマーデータも応用し、掘り下げるが、できるかぎりダイレクトなデータにアクセスするため、他社とも提携し、ビジネスに適応させていく方法を探った」とジェリマイア・ハモンは語った。

ソーシャルデータを迅速に消費しているのは、レジェンダリー・エンタテインメント。様々なプラットフォームとつながり、何十億ものツイートをサーバーに保存し、非構造化データを構造化データに変えるために多くのコンテキストに基づいた分析を行っている。 「デジタルキャンペーンでのデータやマーケットデータも利用し、最終的にクリエイティブな面で最適化するセグメントのコンビネーションは、約1万に絞る。そこで得た多くの情報は、他のキャンペーンチームとも情報交換する。一種の自然発生的データであるこれらは、他のキャンペーンでの利用も可能なインフラとなる」。

分析をスタートさせる糸口となるのは?

ではその膨大な量のデータに当たる際、どこに糸口を見つけ、スタートさせるのだろうか?

レジェンダリー・エンタテインメントのマット・マロルダは、「スタジオはまず、どうすれば理想のレベルとプロセスを維持しながら、もっと経費を押さえ、効果的に広告の効率を上げることができるかという問題を抱えている。もうひとつの問題は、我々が製作するコンテンツについて、どうすればもっと賢くなれるかということ」という。マット・マロルダは、この2つの問題点を解決すべく解析をスタートさせた。その過程で、より効率よく効果を上げるには個人からの情報を得る必要があることに気づいたのだという。「ターゲットをより個人に特化して作る必要があることが分かった」。

ウォルト・ディズニー・カンパニーのアナリティク・インサイツとビジネス・インテリジェンス部門のヴァイス・プレジデントであるウェイン・ピーコックは、ダイレクトな消費者と観客のインサイト・アナリティクスのチームの統括として、ディズニースタジオで分析を担当し、ビジネスコンテキストと技術を提供する。

「我々も同じような道をたどった。スタジオ側にとって、重要なのは、データを分析することで消費者、つまり観客をより理解すること。なにが彼らを消費に駆り立てるのか。物理的な方法とデジタルの両方を使ってそれらのデータを集めた結果、マーケティングは効率化され、我々のスタジオにとって、ビッグデータのソースはより価値があるものになった。ターゲットに対してどれほど賢くなれるか。観客の心に響く、より良いコンテンツを作ることができるか。消費者向けアプリケーションの中で、どうすれば観客の好みを理解し、観客それぞれに個人的な体験を与えることができるかなどからスタートした」

LAギャラクシーのトーマス・ブラウンは、「スポーツチームにとっての大きな問題は、どうすればもっとチケットが売れるのか? どうすればもっと多くの席を埋められるのか? ということにつきる」という。トーマス・ブラウンは、そこからビッグデータの解析をスタートさせた。「もちろん問題は他にもあるが、我々のビジネスの大部分は観客席を埋めること。データを分析することで、チケットを買わない観客のことを理解し、どうすれば彼らにもっとチケットを売ることができるのかを考えた」。

◆ ◆ ◆

次回は、それぞれの目的に合わせて、どのようにデータを解析していったか、その過程でどのようなことを行っていったかを、具体例とともに紹介していく。

メディアとエンタテインメント界におけるデータサイエンティストの台頭 レポート

レポート・データ解説