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米ワーナー・ブラザースおよびインデペンデント配給会社の事例
公開日: 2016/12/09

データによるコンテンツ・ビジネスの革新 - the transformation of content through data (1)

デジタル化によってコンテンツ制作過程やプラットフォームを通じた提供プロセスには様々な新しいプロセスが生まれている。この中でのコンテンツを観客に届け満足してもらうためのデータの役割は何か。

 

Variety主催のBig Data Summitにおける”The Transformation of Content Through Data”というテーマのもとのパネルディスカッションにおいて、ハリウッドメジャー幹部やプラットフォーム企業の技術リーダーらによる現状報告と、彼らが実体験から得たより良いデジタル・ストーリーテリング体験を観客に提供するための方法論が展開された。

第1回目では、ワーナー・ブラザース のコンテンツ管理・配給部門SVPのスーザン・チェン および米ソニー・ミュージック・エンタテイメントの傘下にある The Orchard の映画配給部門を取り仕切るポール・デイヴィッドソン が語ったそれぞれの会社の取り組みについてレポートします。

ワーナー・ブラザースの場合:
自社アーカイブコンテンツをメタデータで復活させるデジタル・アーカイブ戦略

映画のメジャースタジオであるワーナー・ブラザースでのスーザン・チェンの仕事は、「スタジオ内、または世界でコンテンツを保存・転送する方法や、コンテンツの配給・配信、他社とのコラボレーション・ツールを含め、コンテンツに関わるすべてのデジタル技術を監修しています」。

 

「データ活用という点では、ワーナー内でも皆それぞれの見解を持っている」というワーナーのスーザンは、「我々が注目しているポイントのひとつは、自社コンテンツに豊富なメタデータを提供すること」だと話す。
 

「ワーナーの素晴らしいところは、膨大な知的財産のライブラリーを持っているということ。顧客が欲しているものとリンクさせながら様々な情報を掘り下げることにより、今までならアーカイブ行きとなっていたコンテンツのライフサイクルを延ばすことに成功しています。消費者にリーチする方法は無数にあります。

 

そのため、我々は、自社コンテンツの5%である新作のリリースだけに集中するのではなく、お蔵入りになったりライブラリーにあるような95%の作品を、どのように生かすかということを重視しています。歴史的データの多くには実際に、消費者と作品のつながりを知るためのヒントが隠れているものです。ワーナーは創立90年ほどを迎えており、豊富な財産を持っています。我々は今、自社のリソースを効率よく活用する方法を見つけることに集中しています」。

 

ワーナーは今、すべてのアーカイブ・コンテンツにタグ付けし、何らかの分析を行おうとしているのだという。


「それは我々のデジタル・アーカイブ戦略でもあります。デジタル・フォーマットの面では、コンテンツをデジタル・フォーマットで保存し、それによって映画のシノプシス以上のものを獲得していくという一石二鳥を狙っているのです」とスーザンはいう。

The Orchardの場合:
映画の公開間際ではなく、製作出資・権利獲得段階からデータを重視する

アグリゲーターとも呼ばれる世界的な音楽・映画・テレビ配給会社であるThe Orchardでのポール・デイヴィッドソンの仕事は、「エンジニア・チームを擁して構築したダッシュボードをもとに、インディペンデント・フィルムメイカーやコンテンツ・クリエイターにそのデータを提供し、我々の見解とコンテンツ自体のパフォーマンスをもとに、できる限りリアルタイムなインサイトを与えています」。


ポールは、「我々、配給会社にとってカギとなるライフサイクルとは、映画を獲得した後、劇場をはじめ、ありとあらゆる補助的なチャンスを生かして配給するところまでとなります。我々が重要視しているのは、取り扱う作品のフィルムメイカーやコンテンツ・クリエイターたちが持つユーザー情報量とソーシャル力です。彼らがすでに、自分たちのファン層を把握していて、YouTubeチャンネルやフォロワーのメールアドレスや、フォロワーやファンが住んでいる地域を知っていたとしたら、とてもいいスタートを切れるのです。


多くの会社は、作品のデジタル・リリース日や劇場公開日に焦点をあてがちですが、我々は、リリース日よりずっと前から始まるライフサイクルに焦点を当てています。我々にとって重要なのは、ある映画を獲得したと発表した瞬間から、FacebookやTwitterなどソーシャルネットワーク上でその情報に食いついた人々の情報です。我々はすべてをトラッキングし、映画のクリエイティブな素材をリリースするときには、それを見た人々がどこに住んでいるかを確認します。


最終的にこうしたすべてのデータをまとめ、劇場公開、または劇場・デジタル同時公開をする前に、適切なマーケット、適切な劇場を対象とすることができるのです。映画に関心のあるすべての人々のデータをプロデューサーに提供することにより、効果的に観客を獲得することに注力しています」。


もうひとつの重要なポイントは、「コンテンツのパフォーマンス・データをクリエイターとも共有すること」だという。インディペンデント配給会社はクリエイターに情報を与えないため、多くのコンテンツ・クリエイターが、何が起きていたのか知るまでの6~12カ月ほどをブラックホールの中で暮らすようなもの。


「我々はクリエイターに、iTunesやGoogleにおけるパフォーマンスを自由に見られる機会を与えています。2週間分のデータを分析して予測的アルゴリズムを築けば、フィルムメイカー自身が、自分の映画が今後5~7年間で稼ぐ収入の最低・中間・最高額を導き出すことができるのです。我々は自社で築いたダッシュボードの透明性を徹底するとともに、データ活用のスピード性を重視し、“リアルタイム”であるよう努めています」。


消費者エンゲージメントとは、コンテンツ・クリエイター自身との関係性であるということでもある。


「たとえば、アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門をはじめ多くのアワードを賑わせた、キャスリン・ビグロー監督のメキシコとその国境におけるカルテルについてのドキュメンタリー映画『カルテル・ランド』。全プラットフォームにおける一斉デジタル・リリースの4週間前には、フィルムメイカー側がダッシュボードにアクセスし、国境にある州の人々にリーチできているか? 漏れているエリアはどこか? といったことを把握していました。フィルムメイカーやプロデューサーとして、まだエンゲージしていない人々に確実にリーチするため、現行の宣伝計画をいかに調整し、変更したらいいのか、できる限りリアルタイムに近い形で対応することが可能となったのです」とThe Orchardのポールはいう。


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次回は、コンテンツの制作やリリースのタイミング、アルゴリズムの考え方について、同セッションのコンテンツ製作から配信・配給、観客ニーズの評価にいたるまで、コンテンツに関わるすべての面を網羅する、バラエティに富んだ顔ぶれのパネリストが考えることをご紹介します。

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