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VODビジネスにおける著作権侵害・海賊版の問題点は
公開日: 2017/03/03

VOD(動画配信ビジネス)の未来~アメリカの現状~(4)

2016年のAFM(American Film Market)において開催されたカンファレンスでは、”Future of Video On Demand”というテーマのもと、映像コンテンツのプロデューサーや配給会社、配信プラットフォームのキープレイヤーたちが、どこで利益が出ているのか、どのように稼いでいるのか。それぞれの立場と現状をもとに議論したものまとめた第四回目。

 

モデレーター:

ブルース・アイゼンDigital Advisors 代表 )

 

パネリスト:
スティーブ・ニッカーソンBroad Green Pictures /ホーム・エンタテインメント部門代表 )
エリック・オペカCinedigm /デジタル・ネットワーク部門EVP )
へニー・パテル AT&T Entertainment Group /ビデオ・マーケティング部門VP )
メイヤー・シュワルシュタイン( Brainstorm Media代表 )

著作権侵害・海賊版の問題点は?

ブルース( モデレーター )
海賊版の問題を懸念されている方はいますか?

メイヤー( Brainstorm Media 代表 ):
もちろんです。例えば、YouTubeは海賊版の一掃にかかりましたが、いまだにたくさんの長編映画を見つけることができ、もぐらたたきのような状態です。YouTubeにはコンテンツ・マッチ機能がありますが、人々は少しコンテンツに手を加えて、逃れているのです。

Googleが海賊版排除に力を入れていますが、次から次へと投稿されます。ただ、Googleの海賊版一掃が大成功すれば、人々はVimeo(動画共有サイト)やその他の違法サイトに流れるでしょう。

私は今、個人的に「Kodi Box」を注視しています。「Kodi Box」は、海賊版視聴がとても容易にできるソフトウエアで、テクノロジーに疎い人でも、すべてプレインストールされたボックスをつなぐだけで、Netflixコンテンツを見ているような感覚で閲覧することができるのです。今はまだ小規模なものですが、拡大しているため、注視しているところです。

私たちは日々、消費者に、私たちの仕事には価値があるということを理解してもらう努力をしなければならないと思います。どのような形であれ、料金を払うことに前向きになってもらうためです。私たちがリリースするコンテンツが無料視聴可能なものであるべきと言う概念は、最終的にはコンテンツ製作に関わる全ての人々に不利となるため、健全ではないのです。

とにかく、よりよいコミュニケーションをすることが大切なのです。また、違法サイトや違法商品を見つけやすくしているサービスに圧力をかけることで、海賊版利用を防ぎやすくなるとも思います。

こうした試みは海外の一部の国々では実践されていますが、米国ではまだ十分実践できていません。海賊版対策は、違法視聴する人の数だけでなく、私たちの仕事の価値にも影響を与えるものであるため、真剣に取り組む必要があると思います。

大半の人が良心的ならば海賊版の蔓延は事業者が消費者ニーズを満たせていないことの証左?

スティーヴ( Broad Green Pictures /ホーム・エンタテインメント部門代表 )
海賊版防止は重要だが、一方で消費者は本来お金を払ってちゃんと見たいという意志を持っている人が大半。海賊版がはびこっている背景には、消費者のニーズを事業者が満たしていない事実があることも忘れてはいけないと思います。一方で、コンテンツ・クリエイターや製作者、配信者にとって重要なのは、今の世界を理解することです。消費者の多くは良心的なのです。人々は基本的に、便利なアクセス方法があり、正しい価値を手に入れられるのであれば、コンテンツ・クリエイターと合法に取引することを好むものです。多くの場合、海賊版を“悪”とは言い切れないのです。

海賊版を生み出しているのは、ウィンドウ戦略によって1ドルでも多く儲けようとするコンテンツ・オーナーたちの制限です。ウィンドウ戦略によって消費者のニーズを満たす施策が限定的になり、その中で海賊版が消費者の需要を満たしているケースも多いと考えます。

私がワーナーにいた2000年、調査のために中国を訪れた際の発言によって、解雇されかけたことがありました。「中国政府が同時期に上映できるアメリカ映画の数を12本と制限しているなかで、(海賊版は)私たちの誰も満たすことができていない市場ニーズを満たしているにすぎない」といったときのことです。

コンテンツの蔓延と、消費者独自のアクセス方法については、いい面もあるのです。人々が、コンテンツを見たいときに見たい方法で見ることを求める世界において、もしこちらが供給できないのであれば、彼らは二者択一を行います。製作・配給・興行側に利益をもたらさない「違法な手段で見るか、「作品のことを忘れる」か。どちらにしても、マイナスです。

SVOD(定額制動画配信)は海賊版ではない。だが似たようなもの?あるいはむしろコンテンツの価値を維持している?

ブルース( モデレーター )
先ほど、メイヤーさんが、業界全体として私たちの仕事の価値を人々に理解してもらう努力が必要だとおっしゃっていましたが、そういった意味で、月額8ドルなり100万ドルなりを払えば、あとは何でも無料で見られるというSVOD(定額制動画配信)は、海賊版ではないものの、似たようなものではないでしょうか?何らかの形で、私たちが製作したコンテンツの価値を下げている合法なプレイヤーもいると思うのです。

メイヤー:
月額を支払う有料会員が多くいるプラットフォームの場合、相当な収入があり、プログラミングに十分な金額をかけることができるので、そのサービス全体のなかで、個別コンテンツの価値が低下することはありません。計算上、各会員が1つのコンテンツに支払う額は1セントかもしれませんが、それはリリースの順序を正当化するものでもありますよね。なぜ、劇場公開が最初にあり、その後、TVOD(レンタル型動画配信)、SVODと続くのか?それは、映画館で映画を見る料金が一番高く、TVODでは少し安く、SVODではさらに安くなるからです。

私たちは、各ウィンドウにおけるコンテンツの価値を守るために、ウィンドウを守ろうとするのです。こうしたウィンドウ戦略が商品の価値を下げているとは思いません。結局のところ、米国にはコンテンツを求めている競合サービスがたくさんあり、とても健全な市場となっているため、私たちは恵まれていると思います。

世界には、そうではない国もあるのです。私たちはこれからも、良質なマーケティング方法を用い、適切な価格で、コンテンツを発信するためにいい仕事をしなければならないのです。

エリック( Cinedigm /デジタル・ネットワーク部門EVP ):
普通に考えて、月額5~6ドルで数百万時間分のコンテンツにアクセスできていたら、1本のコンテンツに5ドル払うことをためらうこともあるかもしれません。でも、本当に、本当にそのコンテンツが欲しい場合、どのウィンドウ・パターンにおいても、早く見たいがために、高い料金を支払うことをよしとする人々は存在すると思います。今すぐに、少しでも早くに見たいのであれば、多く払う。待てるのであれば、少なく払う、という

スティーヴ
消費者製品の受容曲線ということですよね。早期視聴者はプレミアムを払い、第二視聴者はプレミアムよりは安い料金を払い、後期視聴者はプレミアムを払わないということ。何度も話しているとおり、すべてのコンテンツが同じように作られているわけではありません。私が勤めていたメジャー・スタジオでは、年間2000本もの長編映画を取り扱っていたのですが、ビジネス計画を立てる際、2000本中200本は、エバーグリーンな作品として分類していました。その200本も、その他の作品も、視聴者にとって、それぞれ違う価値があったのです。

<(5)EST(動画配信販売)の可能性 に続く>

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