低予算映画で奇跡を起こしたヒットメーカーにハリウッドが惚れた

公開日: 2017/05/12

2017年3月中旬、ロサンゼルスで開催された米バラエティ誌主催の映像業界関係者向けのカンファレンス"MASSIVE The Entertainment Marketing Summit"から、企画の面白さでスマッシュヒット創出を続けているBlumhouse Productionsのブラム氏と同氏をサポートするユニバーサル・ピクチャーズの幹部がヒットの裏側を語ったセッションを4回に渡ってレポートします。本記事は、第一回目です。

パネリスト紹介

2017年から話題になっているスマッシュヒットのホラー映画、『スプリット』及び『Get Out』。これらに共通しているのは、プロデューサーのジェイソン・ブラム氏が率いるBlumhouse Productionsとユニバーサルのコラボレーション

クラウディア・エラー（ インタビュアー ）：
ヒットの仕掛け人にお越しいただきました。間違いなくハリウッドで最も成功したプロデューサーの一人であるジェイソン・ブラム、そしてユニバーサルのマーケティングを率いるジョシュ・ゴールドスタインとマイケル・モーゼスです。

このお三方は、最近の大ヒット映画2本でタッグを組んでいます。現時点（2017年3月22日）での興行収入が2億5000万ドルを超えるM・ナイト・シャマラン監督の『スプリット』（日本公開2017年5月12日）と、1億3000万ドル以上のヒットとなったジョーダン・ピール監督の『Get Out』（日本公開日未定）です。

ジェイソンのプロダクションであるブラムハウスは、ユニバーサルとの間に10年契約を結んでいます。でも、ユニバーサルは何があっても絶対にこの契約を更新することでしょう。ジェイソンは先ほど触れた2本以外にも『パージ：大統領令』や『呪い襲い殺す』といった非常に収益性の高い映画を製作しているのですから。パラマウントであのメガヒット作『パラノーマル・アクティビティ』を手がけたのもジェイソンです。言うなれば、ジェイソンは人を心の底から震え上がらせることを仕事にしているのです。

どのようにプロジェクトを進めるのか

まずプロデューサーのブラム氏に非凡なアイデアがあって、スタジオマーケティング部門のトップである二人（ジョシュとマイケル）だけが製作・予算含めてすべての決断を下す

ジェイソン・ブラム（ Blumhouse Production プロデューサー兼創業者／CEO ）：
私たちは従来型のプロデューサーとは、大きく異なるやり方でマーケティング部門と仕事をしていると思っています。面白いことに、私たちの映画には今私の隣に座っているお二人からゴーサインが出ているようなものなので、リリースにあたっての要件や約束事を求められることがありません。意図的にそうしてもらっていることであり、私の戦略の一部でもあります。

プロセスとしては一緒に試写を観ますが、製作費の5倍にもなる「2000万ドルあるいは3500万ドル程度の、宣伝費をかけてみようと思う」と言うかどうかは、ジョシュとマイケル次第です。脚本や映画の元となるアイディアに対して、早い段階でマーケティング部門から貰うコメントや感想などのフィードバックも極めて重要です。そこで「ぜひ公開したい」という評価を得られなければ、公開できないからです。

しかしプロセスに関して強調したいのは、とにかく私たちの映画のマーケティングにゴーサインを出すのも管理するのも、全部この二人の裁量であるということです。すべての決定権は彼らにあります。共同作業である部分は大きいと言えます。お互いの意見をきき、私も考えを伝えます。その中には良いものも悪いものもありますが、最終判断は私の隣にいるお二人にゆだねられていますから、私たちの映画のヒットは、多分に彼らの力によるものなのです。
 

マイケル・モーゼス（ Universal Pictures ワールドワイド・マーケティング部門共同プレジデント ）：
これは際だったパートナーシップだと思っています。この仕事に長い間関わってきましたが、ホラー映画の中にはありがちなパターンのものも多いのです。しかし我々はありきたりなものに取り組んだことはないです。

映画を観て「なぜ？」と触発を受け、アイディアを提示され、目が覚める思いがして、「これは使える。」と思うのです。そしてエネルギーが沸いてくるのを感じます。映画の元になるアイディアを目にするだけですが、ジェイソンは他と一線を画す、本当にダイナミックなアイディアを提案してくれていると思います。

『Get Out』 『スプリット』をヒットに導いた宣伝の取り組み

低予算映画だから何もやれない、ではなくて、低予算映画だからこそなんでもやれるという発想の転換

クラウディア・エラー（ インタビュアー ）：
ジョシュ、あなたが指揮したプロモーションの中心に据えたのは何だったのですか？ ホラーやスリラー系の映画をマーケティングする際に中心にする要素は何で、他のジャンルのヒット作のマーケティングとの違いは何なのでしょうか？
 

ジョシュ・ゴールドスタイン（ Universal Pictures ワールドワイド・マーケティング部門プレジデント ）：
ジャンルに関わらず、映画のマーケティングは映画の元となるアイディアから始まります。しかし、そのアイディアの市場性をふくらませるのはマーケターなのですが、ジェイソンの独特なところは、超低予算と言っていい厳しい予算で映画製作をすることです。私たちが通常扱う作品とは大きく異なります。

ここまで予算が低いと、自由に慣例を破って普通と違うやり方ができるのです。『スプリット』や『Get Out』の場合は特にそうですが、映画の中にあるアイディアのうち最も広範囲のターゲットにアピールできるものは何であるかの判断の組み合わせが肝要なのだと思います。

ここで、『Get Out』を複数のターゲットに対して訴求したことについて少しお話ししたいと思います。私たちは映画のアイディアを煮詰めて、広告で表現しました。同時に私たちは自由に今までやったことのないものを試せると考え、前例のないほどデジタル寄りのアクションをとって全く異なるターゲットにアプローチし、新しい方面で可能性を切り開いたのです。

 

マイケル・モーゼス（ Universal Pictures ワールドワイド・マーケティング部門共同プレジデント ）：
まったくその通りで、製作、そしてマーケティングのどちらにおいても自由度が高かったのです。非常に気持ちよくのびのびと仕事ができました。敷かれたレールはなく、毎回違うアクションを試みました。

ジェイソンがその自由をくれたのですが、ジョシュが言うところの「寄る辺ない」やり方を示す例を２つほど上げさせていただきます。弊社だけでなく業界全体を見回してみても、これほどTVよりもデジタルメディアを多用したキャンペーンはなかったと思います。

＜（2/4）低予算映画の企画と宣伝における革新と実験 に続く＞

 ハリウッドでのヒット研究 - 『Get Out』『スプリット』レポート

• （1） 低予算映画で奇跡を起こしたヒットメーカーにハリウッドが惚れた
• （2） 低予算映画の企画と宣伝における革新と実験
• （3） 『Get Out』の事例：ヒットの裏の戦略は？「人種差別×ホラージャンル」に娯楽性のある斬新なコンセプト
• （4） 『スプリット』の事例：「コンセプトメーカー」シャマランのカムバック

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