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データの役割と価値:「リアルタイム」と「クリエイティブ」
公開日: 2017/06/08

ハリウッドマーケティングリーダーが語る「映画公開の最新理論と実践」 (2)

<連載>ハリウッドマーケティングリーダーが語る「映画公開の最新理論と実践」

 “Studio Roundtable: The Art and Science of Opening a Film”

ハリウッドマーケティングリーダーが語る「映画公開の最新理論と実践」の2回目です。スピーカーやセッションの概要は、連載1回目(大ヒットを生み出す「イベント化」と「ライフサイクルマーケティング」)をご覧ください。

データはありとあらゆる動きから収集し分析、リアルタイムで戦略に生かしている

サラ・チャザン(モデレーター)

データに関して疑問に思っていることがありますので、お話を伺いたいと思います。
宣伝活動において、リアルタイムデータはどの程度実施内容に影響を与えるのでしょう?どんなツールを使って成功評価の基準やKPIとされているのでしょうか?また、リアルタイム性については、今学んだことが将来の実施内容にどの程度影響するのですか?


デボラ・ブレット(バイアコム)

先ほどのJP(ワーナー)の話のポイントは、非常に大切なことです。ファンダンゴバイアコムとこういった場でパネリストとして同席するということがまずボーダーレスですよね。

我々はリアルタイムデータをクレジットカード、映画のチケット購入、ありとあらゆるSNSでの動きから収集し、ソーシャルアナリティクスで人々の反応を捉えます。そして、それらを利用して消費者を分析し、プラットフォーム横断での展開と統合を検討して、予告編やCMのオンエア配分を決定します。フェイスブックやスナップチャット、ツイッターからの情報に合わせて、リアルタイムでオンエアターゲットや予告編/CM内容を変更するのは、我々にとって新たな経験でした。

行動データは消費者のニーズを捉えることができ、そこからの学びを予告編制作やターゲティングの精緻化、効率化につなげる

ミーガン・クロフォード(CAA)

この2年ほどの間に、行動データがより強力なSNSのツールになってきたと思っています。この分野に強い会社は数多くあり、そのうちの何社かはこの場にいらっしゃるものと思います。誰かが推測した消費者のニーズを聞く代わりに、実際に確認できるようなものです。彼らの選択を目の当たりにできるのです。ソーシャルメディアでの宣伝活動のある一部を利用してTVでのプロモーションを調整できれば、大きなインパクトがあるはずです。
 

デビット・オコナー(ユニバーサル・ピクチャーズ)

我々の映画に『スプリット』という作品があるのですが、その宣伝活動においてテストを行ないました。従来型の30秒、または45秒のCMと、映画の一シーンを長めに見せたものを比較するというものでしたが、結果は後者の方にずっと好意的で強い反応がありました。そこで学んだことを『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』に活かして、映画のワンシーンを長めに見せるCMを多く流しました。
これは一例に過ぎませんが、我々はデータを取り情緒的反応を確認して、次の宣伝活動に活かすよう努めています。
 

ジョナサン・ヘルフゴット(オープン・ロード・フィルムズ)

これまで映画会社での調査と言えば、メッセージを精緻化することが目的であり、メディアの使い方や消費者へのリーチの仕方を改善するためではありませんでした。今のような技術がなかったためです。

新たなデータや調査の可能性の良いところは、どのようなメッセージや素材を使用すべきかがわかるだけでなく、今までにないほど効率的なターゲティングが可能になることです。これは大きな違いにつながります。

データはクリエイティビティに関する洞察

JP・リチャーズ(ワーナー)

私は一日中データを見ていますが、実に面白い。社内でデータを取るようにしたのは私であり、私はデータを非常に重視してきました。

我々の映画は、何を伝えたくて、宣伝活動のメインメッセージは何なのか?それをいかに宣伝やコンバージョンに活かせばいいのか?映画館に足を運んでもらうにはどうすればいいか?これに関しては、かなりいい仕事をしていると自負しています。データ分析はクリエイティブ検討プロセスに他なりません。それはクリエイティブ判断のための情報であり、知識であり、そしてリアルタイムにもたらされるものだからです。

我々が出す素材すべてに関して、あらゆる方面から入ってくる情報に逐一目を通します。“検索ボリュームであればグーグルから、動画視聴の状況やユーザーの反応であればフェイスブックからデータを取ります。これは、業界屈指の優秀かつ積極的なパートナーとの協働作業です。

最近のワーナー・ブラザースは、データ主導の企業へと変貌しており、デジタルメディアによる宣伝活動はすべてデータを基にしています。すべてのソースからの情報をリアルタイムで確認し施策の成否をモニタリングし、うまくいっていないものについては解決策を講じます。包括的に物事を見ることができるので、ワーナー・ブラザースではあらゆる部門でデータに基づいた話をすべきだとしています。

“何かがうまくいっていると思えば、我々はすぐに広告部門のクリエイティブにそれを活かす策を提案するよう指示し、それをデジタルメディアでの宣伝活動にさらに活かします。こうして経験値を積み重ねることで、一作ごとにより大きな成功を収められるようになるのです。情報収集・活用とインサイトこそがプロセスの中で欠かせないものであり、我々の宣伝活動の質を高める戦略の基となるのです。

< (3)テレビは見なくなっている?デジタルVSテレビの議論に意味はあるか に続く >

 ハリウッドマーケティングリーダーが語る「映画公開の最新理論と実践」シリーズ

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