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技術革新が映画館にもたらすインパクト
公開日: 2018/03/02

グローバル映画興行市場のトレンド ~CineAsia 2017カンファレンスレポート(3)~

この連載は、2017年12月中旬に香港で開催された、世界各国の映画興行・配給関係者が集まるコンベンション「CineAsia 2017」内のカンファレンスICTA(International Cinema Technology Association)主催のセミナーのレポートです。
日本を含むアジア各国映画興行市場の特色、世界の映画興行のトレンドについて、20世紀フォックスのカート・リーダー氏が語ったセッション内容を5回に渡りお届けします。

※本記事で触れているサービス内容はカンファレンス開催(2017年12月)時点の情報です
 

スピーカー:
カート・リーダー(Kurt Rieder)
20世紀フォックス(Twentieth Century Fox)アジアパシフィック劇場配給担当上級副社長

最新の映画館の状況をご紹介しましょう。現在のトレンドはどうなっているでしょうか。まずテクノロジーについてお話します。

伸びる“プレミアム”形式と進む“自動化”

近年、どの市場においても「プレミアム」とされる形式が伸びています。これは映画館側にとって、追加料金を設定したり、全般的に値上げをしたりする理由になります。また、“映画館でしか得られない体験を提供することで、海賊版に走ったお客様を再び呼び戻す効果も考えられます。最近の映画館では、自動化されたプロジェクション機材が用意されています。ほとんどの映画館の天井部分には、支配人のオフィスから操作できるプロジェクターが設置されているのです。

また、多くの国では、実に多様な形式の発券機が採用されており、最近では売店も一部自動化されています。映画館の運営会社が、お客様にオンライン購入を推奨し、注文しておいたポップコーンやコカ・コーラを取りに行く際には、優先レーンを利用できるように計らったりしています。

シンガポールの映画館内にあるマクドナルドの券売機には、すでに自動化されているものもあり、これはまさにマクドナルドが今後取ろうとしている方向性なのです。特にシンガポールでは人員削減が進んでいて、今後は注文を券売機で行うスタイルを主流にと考えているようです。

映画館で活用できるAI、最初は清掃業務から

次にAIです。周知のように、様々な業務がロボットにとって代わられています。規模の点では、特に中国とインドでその傾向が顕著です。映画館の運営会社は、どのように利用できるでしょうか? まずは清掃業務から始まるのではないかと思います。

シンガポール・チャンギ国際空港の清掃ロボットは、充電のための休止以外は昼夜休まず稼働しています。この1台で3~4人のフルタイムのスタッフの仕事をこなしているでしょう。携帯をチェックすることもありませんから、とてもまじめな従業員だと言えます。意志を持つ掃除機が開発されるまでは、映画館の運営会社ができることはこのくらいでしょう。サムスンのオートボットは、シートの下の手の届きにくいスペースの清掃には非常に有効です。

プライシング: 大幅ディスカウントや消費者の行動に基づいた価格設定

ここで、価格の話に移りましょう。「大幅なディスカウント」については皆さんもご存知ですが、私が問題視している「大幅ディスカウント」とはどのようなものなのかと言うと、映画館の運営会社がマーケットシェアを獲得するためにディスカウントすることです。この方法では、シェアは取れますが、収益は横ばいか集客状況によっては低下する場合もあるでしょう。そして競合は焦って同様のディスカウントを行います。すると、それによってシェアはまた元に戻り、全ての会社の収益が低下することになります。そして最初にディスカウントをした運営会社は「ディスカウント幅が小さすぎた」と考え、また価格を下げます。これは業界のためにはなりませんし、なによりお客様も混乱します。

 

定期購入サービスとは、アメリカで行われている大幅ディスカウントの形式です。定期購入サービスの中でも、今のところムービーパス*はアジアにまで広がりを見せていますが、北米における『ジャスティス・リーグ』の興行収入のうち、ムービーパスによるものは1.8%です。ムービーパスの収益源はチケット販売ではありません。データの販売です。それが彼らのビジネスモデルなのです。*ムービーパス…月額約10ドルで毎日1本の映画を劇場で鑑賞できる定額パスのこと)


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可変価格設定は、多くの地域で様々な方法で行われています。そのほとんどが席種か席の位置に応じたものですが、劇場チェーンによっては購入日または時刻に応じて、ブロックバスター価格設定を実験的に適用しています。また変動的価格設定に関していうと、この手法は目新しいものではありません。ライブの興行主にとっては通常の手法です。必ずしも席の位置に応じたものではなく、基本的にはアルゴリズムと機械学習機能に基づくものです。

 

消費者の行動に着目することで、全ての消費者を同じように扱った場合よりも高い価格を受容してもらうわけですから、別の見方をすれば、パーソナライズした価格設定とも言えます。ですから、基本コンセプトは、“支払う心づもりvs確定させたい気持ち”となります。我々の業界で言うならば、売りたいという気持ちがチケットの最低価格となります。支払う心づもりとは、土曜の夜7時に『スターウォーズ』を観るのにいくらなら支払ってもいいと消費者が考えるかです。これが、我々の業界の提供する価値です。

 

旅行の情報収集サイトが、このような考え方をしており、そして、そういったサイトはどんどん進化しています。ここで誤解されているのは、このビジネスは価格設定を透明化して、顧客にとっての価値を提供していると思われている点です。実際には、利用者からできるだけ多くの収益を上げることが目的です。ですから、お得なホテル料金のことで奥さんと相談しようとPCから離れると、戻ってページを更新した頃には30~40ドル高い価格のプランしかなくなっているのです。

 

あなたの行動は見張られています。いつ根負けしてOKを出すかもバレています。IPを、そして会員番号を追跡しています。少々怖くもありますから、意識してログインのたびに違うIPを利用しましょう。さもないと、今どこにいるのかも筒抜けになってしまいます。

<(4)非連続な変化と映画興行 に続く>

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