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第1章 宣伝戦略の今 「1:ヒットの鍵を握る映画のイベント化」
公開日: 2018/06/08

特集:スタジオトップマーケターによる基調ディスカッション 第1章(1)
massive2018

 

映画のマーケティングに携わる者は、いかにして確実に成功を収められる宣伝計画を立案するのでしょうか。そして、成功する配給戦略とはどのようなものなのでしょうか。”MASSIVE The Entertainment Marketing Summit”で行われた基調ディスカッション“Film Studio Keynote Conversation”では、各スタジオのマーケティングのトップが、具体的な作品の宣伝施策を例に貴重な経験の数々を披露しました。

 

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シリーズ初回は、映画をイベント化することの重要性をトップマーケターが解説。ワーナー・ブラザース配給の『レディ・プレイヤー1』が、いかにしてイベント化を推し進めたのかといった具体的な例も披露されました。さらにSNSの台頭によって起きた宣伝方針の転換の難しさにも言及。「宣伝戦略の今」に注目です。
※本記事で触れられているサービス内容はカンファレンス開催(2018年3月)時点の情報です

モデレーター:
クラウディア・エラー(Claudia Eller)
バラエティ(Variety)誌共同編集長

パネリスト:
ボブ・バーニー(Bob Berney)
アマゾン・スタジオ(Amazon studio) マーケティング/配給 プレジデント

ジョシュ・グリーンスタイン(Josh Greenstein)
ソニー・ピクチャーズ(Sony Pictures) シアトリカル・マーケティング/配給 プレジデント

パム・レヴィン(Pam Levine)
20世紀フォックス(20th Century Fox) ワールドワイド・シアトリカル・マーケティング プレジデント

ブレア・リッチ(Blair Rich)
ワーナー・ブラザース(Warner Bros.) ワールドワイド・シアトリカル・マーケティング プレジデント

リッキー・ストラウス(Ricky Strauss)
ウォルト・ディズニー・スタジオ(The Walt Disney Studios) マーケティング プレジデント

 

 モデレーター
今日の映画市場が直面している最大の課題は、いかにして消費者に居心地のいい自宅の居間を出る気になってもらうか、ではないでしょうか。しかし、これはますます難しくなってきています。エンターテインメントの選択肢は無数に存在し、自宅にいながら楽しめるストリーミングサービスをはじめ、多数のデバイスが消費者の関心を奪い合っているのです。

本日はハリウッドの映画製作会社からマーケティングのトップの方にお集まりいただきました。皆さんは手練れのマーケターであり、これまでにない課題に立ち向かっていらっしゃいます。そこでまずは、わざわざ映画館まで足を運びたいと思わせる宣伝戦略において重要なものは何かお聞かせください。

 

 

 

劇場公開を重視するAmazon Studios、作品の「イベント化」を重視

 

 ボブ・バーニー(アマゾン・スタジオ)
取り扱う映画の多くはインディーズ映画ですが、わざわざ足を運んで観たいと思ってもらえるよう、映画をイベント化することを重要視しています。しかし、我々は劇場公開のほかに、配信も行っています。そのため、配信顧客に対する訴求も考えなくてはなりません。

とはいえ、私のグループの関心は何といっても劇場公開にあります。そのため、誰もが観たがるようなキャストの育成や起用にも努めています。ドラマ性だけで訴求するのは難しいですからね。とはいえ、『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』に関しては、コメディを絡めたプロモーションを展開し、キャストだけが理由ではない集客に成功しました。

 

 モデレーター
劇場公開に注力している点が、ネットフリックスとは明らかに異なりますね。

 

 ボブ・バーニー(アマゾン・スタジオ)
おっしゃる通り、我々は従来型のウィンドウ(劇場公開)にこだわっています。

 

 モデレーター
私が思うにヒットのポイントは2つあると思います。まず、ボブの言ったイベント化です。今日の世の中で成功する映画は何らかの意味でイベント化が可能なものだけではないでしょうか。最近の『ブラックパンサー』のような巨大イベントはもちろんですが、比較的小さなイベントでも構いません。

そして、もうひとつは文化的共鳴だとみています。『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』は少し特異でしたが、『ワンダーウーマン』『ブラックパンサー』には、文化的共鳴があったわけです。

 

ディズニーの魔法? 「作品の質が今ほど大事な時代はない」

 

 モデレーター
リッキー、ディズニーには何か秘密があるのでしょうか。

 

 リッキー・ストラウス(ウォルト・ディズニー・スタジオ)
秘密と言えるものは何もありません。成功を約束してくれる方法があればぜひとも知りたいところです。ここにいる我々は、課題の多い作品に取り組んできました。そして、その中には成功を収めた作品があるはずです。

それらは良い作品だったからですが、今ほど作品の良し悪しが重要視される時期はないと思っています。魅力的な人なら恋人ができやすいし、良い映画であればマーケティング活動は簡単なはず。重要なのは、作品の質そのものなのです。

 

 モデレーター
確かにそうですね。以前は必要とあれば作品の打ち出し方を若干変えて、ある意味、作品の本質を分かりにくくすることも容易でした。しかし、SNSやRotten Tomatoesなどの影響で、そういったことはできなくなっています。それを踏まえた上で、リッキーのポイントは今の時勢の核心をついているといえますね。

 

 パム・レヴィン(20世紀フォックス)
まさにその通りです。私は海外マーケティング出身なのですが、以前は国内よりもかなり遅れて海外公開をしていました。そのため、アメリカ市場でうまくいかなければ、コンセプトや時にはタイトルを変更して仕立て直したものです。

 

 

 

 

宣伝メッセージの一貫性が映画のイベント化を推し進める

 

 モデレーター
ブレア、あなたはスティーブン・スピルバーグ監督の『レディ・プレイヤー1』のロンドンプレミアから帰国されたばかりですね。監督の名前はマーケティングにどれほど役立ったのでしょうか?

 

 ブレア・リッチ(ワーナー・ブラザース)
我々の宣伝活動のかなりの部分を費やして、スピルバーグは単なる映画製作者ではないことを強調しました。彼が映画ファンの人生に果たした役割や、彼を媒介として思い出すノスタルジーなどを訴え、それが作品を取り巻くストーリーの重要なパートになりました。

我々はいかにしてストーリーを語るかという話をしていますが、私が思うにそれはSNSやトークショーといったものではありません。総合的に扱わなくてはいけないのです。ばらばらにキャンペーンを行うのではなく、如何にしてひとつひとつの活動を結びつけて扱うかといった考え方が重要なのです。パブリシティとデジタルとTVで別個のアプローチをとっていた時代もありましたが、もうそんな手法は通用しません。

そこで、スピルバーグ監督の協力を得て、『E.T.』『未知との遭遇』『インディ・ジョーンズ』シリーズなどに触れた情報を出し、そこからのつながりを醸成しました。情報に触れた人たちは、自分の人生における彼の存在、また彼が語る純真な子ども時代のノスタルジーとの間に、つながりを感じたのです。そして、そこからさらに広がっていきました。

 

 パム・レヴィン(20世紀フォックス)
ブレアが触れた点の中に、私も今日のトピックに関して重要だと思うポイントがあります。プラットフォームまたはメディアの重要度によって若干調整はするものの、複数のプラットフォームにまたがって同じメッセージを発信するということです。一貫性とクリエイティビティのある宣伝が重要であり、それが映画をイベント化する上で大切なことなのです。



<第1章 宣伝戦略の今 「2:タレントパワーは健在か」に続く>


 

スタジオトップマーケターによる基調ディスカッション

 

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