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データシェアの課題とサードパーティの存在
公開日: 2019/09/06

特集「第2のデジタル革命と映画マーケティングの変化」 Vol.4
第2章 データシェア
データシェアの課題とサードパーティの存在

 

配給会社と興行会社のトップが「第2のデジタル革命」=デジタルマーケティングについてディスカッションを行う本特集。第4回は映画鑑賞者データをめぐる配給会社と興行会社間におけるデータシェアの課題に迫るとともに、サードパーティやGAFAといった新興勢力の存在は興行会社にとって商機なのか、それとも脅威なのかという問題に踏み込みました。

 

※本記事で触れられている内容は2019年6月時点の情報です。

 

《目次》

 

鑑賞者データが導く効果的な宣伝手法

 

 モデレーター
配給会社と興行会社の良好な関係がどのようなものか分かる、素晴らしい事例でした(参照:「Vol.3 データシェアがもたらす新たな可能性」)。

一方で、データシェアに関しては、もっと面倒な状況が散見されます。典型的な例としては、興行会社が映画鑑賞者データを自身の財産ととらえ、自身のメリットのみにつなげようとすることが挙げられます。このような状況になると配給会社は、「興行会社はデータを収入源にするのではなく、チケットの販売促進のツールだと考えるべきだ」と感じるようになります。 ダンカン、あなたはどうお考えですか?

 

 ダンカン・クラーク(Universal Pictures International社)
データ保護は最近の技術開発に関わる重要なポイントであり、少々やっかいです。私の意見は、ジェーン(・ヘイステイングス Event Hospitality & Entertainment社)とは少し異なります。我々がパートナーとしてしっかりと協働しなければ、Googleなどのデータ収集自体を事業としている企業に支配される側になってしまうリスクがあると考えています。こういったことはそもそも我々配給会社だけでは手に負えないのです。

私やロンドン本社を始めとする全世界のチームは、様々な情報を収集しています。しかし私たち配給会社は、チケット購入の現場にはタッチできません。購入意欲を高めるための施策は打ちますが、消費者は我々からチケットを購入するわけではないのです。

私はこれまで興行会社に対し、「データをシェアしてください」とお願いしてきました。このことによってもっと効果的な宣伝活動を行えるようになれるのです。

このデータを利用する際、映画が公開される前に、消費者がどのような広告を見ていたのかを知ることは重要ではありません、どのマーケティングメッセージがチケット購入を喚起したのかがデータ活用によって理解できるようになることが重要です。そして、そこから注力すべき宣伝手法が導き出されるのです。

我々はどの広告が効果的かを見極めるために調査に何カ月も費やすことが、しばしばあります。しかし結局のところ、効果的な広告を判断する最善の指標は、購入を喚起できたかどうかであって、その広告に対して「良い」や「まあまあ」といった評価ではありません。もしフルに開示された情報を組み合わせることができれば、情報を隔離し保護するよりもずっと効果的な活用が可能になるのです。

 

 

 

サードパーティの存在意義

 

 モデレーター
イギリスとメキシコの市場には、ひとつの類似点があるように思います。主要な興行会社が映画鑑賞者との直接的な接点を保持したいがゆえ、配給会社と映画鑑賞者をつなぐサードパーティによるプラットフォームの成長が見られないことです。これは興行会社にとって配給会社との関係性を良くするものでしょうか、それとも制限するものでしょうか。アレハンドロ、あなたのご意見をお聞かせください。

 

 アレハンドロ・ラミレス・マガーニャ(Cinépolis社)
サードパーティの存在理由は、新たな付加価値を生み出すことです。単にビジネスプロセス上で付加価値の奪い合いをしているだけであれば、それは無意味です。例えば、市場が細分化されている国であれば、情報を集約し消費者がどこでどの作品を鑑賞したいかの判断を後押しするアプリの提供が、付加価値につながるかもしれません。

ただ、一般論ですが、自分たちで充分対応できる場合には、データを秘匿し、手数料を要求するサードパーティがいない方が、配給会社にとっても興行会社にとっても望ましいと考えています。

事例は数多くあると思いますが、誰もが知っている事例はアメリカの「MoviePass」ではないでしょうか。MoviePassは 定額制モデルの導入を試みたサードパーティでした。しかし、興行会社の方がより効率的で効果的、そして長期的に同様のモデルを運営できるはずのものだったように思います。サードパーティが付加価値を与えられることがあるのは確かです。ポイントは、彼らが付加価値を与えられるのか、価値を壊してしまうのか、または価値を食い合ってしまうのか、だと思います。

 

配給会社、スタジオ、興行会社間でのデータ共有

 

 モデレーター
GAFA(Google、Amazon.com、Facebook、Apple.inc)と呼ばれる新たなタイプのサードパーティが登場しています。これは我々にとって商機になるでしょうか。それとも、映画鑑賞者との直接的な関係構築の点からはむしろ脅威と考えるべきでしょうか?

 

 ティム・リチャーズ(Vue Entertainment社)
いずれ分かるでしょう。興行会社は最もお客様に近い場所にいます。ですから、我々は顧客を把握しなければならず、そのために最善を尽くしており、また実際に把握している自負もあります。わずか数年前とは様変わりしており、今では膨大な情報を手にし、それを活用しています。最近では、データマイニングを実施し、適切に利用できるようにもなっています。

過去5年で大きく変わったもうひとつの点は、配給会社、スタジオ、興行会社の関係です。データをシェアすることでこの三者ともメリットを享受しています。ジェーン(・ヘイステイングス Event Hospitality & Entertainment社)と同じく、我々もデータをそのまま提供することはありません。データから読み取れるものを提供します。それこそが利用価値のあるものだと思っているからです。

今後の展望については非常に楽観視しています。サードパーティの話が出ましたが、我々はGoogleや各種SNSと密に連携しています。新作の予告編映像をまずFacebookでご覧になるお客様は大勢いらっしゃいます。それは素晴らしいことですが、どのプラットフォームでご覧になるかではなく、ともかく観ていただくことが重要です。どこで観たとしても、日を、週を追うごとにわくわくしていただきたいのです。

 

 

第2のデジタル革命と映画マーケティングの変化

 

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