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Netflixが賞レースに参戦する意味
公開日: 2020/03/25

Netflixが描く映画業界の未来
~Netflix映画部門トップ基調講演~ 第4回
Netflixが賞レースに参戦する意味
~「優れた作品」であるために~

 

2019年12月にロサンゼルスで開催されたカンファレンス“Variety's INNOVATE”より、Netflix映画部門トップ、スコット・ステューバー氏による基調講演“Keynote Conversation with Netflix Films' Scott Stuber”をレポート。

『アイリッシュマン』や『マリッジ・ストーリー』など自社製作作品を劇場公開し、アカデミー賞をはじめとした賞レースに参戦しているNetflix。連載第4回はNetflixにとっての劇場公開、そしてアカデミー賞の意味合いに迫ります。スコット・ステューバー氏が抱く、自社製作への思いとともにご覧ください。

 

※本記事で触れられている内容は2019年12月時点の情報です。

 

《目次》

 

劇場公開における問題点を深く理解

 

 モデレーター:クラウディア・エラー(米Variety紙編集長)
結局のところ、なぜNetflixは劇場公開を重視するのでしょうか。映画製作者への配慮ですか? それとも賞レースに参加するため? または箔づけでしょうか? 教えていただけますか。

 

 スコット・ステューバー(Netflix映画部門責任者)
理由は様々です。多くの場合、劇場公開は作品にとって最も有効な提供方法です。映画館には最高の鑑賞環境が整っていますから。『アイリッシュマン』や『ROMA/ローマ』のような映画らしい大作では、映画館での鑑賞がふさわしいのではないでしょうか。

我々の取り組みはNetflix独自のことと考えられがちです。しかし、私は22年にわたるアカデミー会員であり、長年この業界に従事しています。ですから、問題点を把握できるくらいには映画ビジネスを深く理解しています。

物事が積み重なって発生した問題ですから、業界にとって適切な配信と劇場公開の組み合わせを見つける必要があります。劇場公開に適した作品は何か。長期間の興行に適している作品は何か。劇場公開で大きな売上にならなくても、ビジネスとして成功する機会のある短期興行の作品は何かといったことです。

我々がコミュニティとして、やらなければいけないことは山積しています。2年ほど前にNATO(National Association of Theatre Owners:全米劇場所有者協会)が実施した重要な調査によると、映画館に足を運ぶ人ほどNetflixに加入しているようです。当然ですよね。エンターテインメントが好きであれば、映画館もNetflixもお好きなはずです。人は自らの興味関心の領域でいろいろと手を広げるものなのです。

AppleやNetflix、Amazonといった革新的プラットフォームは、 ABC、HBO、Warner Brothersの作品の集合体とも言えます。我々が 作品のラインアップを広げ、オーディエンスを拡大しつつあることは、誰にとっても良いことです。

ただし、利害が対立することもあるため、互いのビジネスを守るべく対話を継続する必要があります。前進するほどに、エコシステムが改善されていくはずです。共通しているのは、皆さんに映画を愛していただきたいという願いです。

 

 

 

“優れた新作”をつくりあげた企業の証

 

 モデレーター:クラウディア・エラー(米Variety紙編集長)
Netflixは賞を獲得することをどの程度重視していますか。テッド・サランドス(Netflixコンテンツ最高責任者)は非常に重視しているようですので、あなたも同意見だと推測します。重視する理由は何でしょう?

 

 スコット・ステューバー(Netflix映画部門責任者)
重視する理由は、クリエイターやフィルムメイカー、ショウランナーらが認められてほしいと思うからです。そして、ビジネスとしては、とにかく優れた作品をつくりたいと考えるものです。私は優れた映画をつくりたい。“優れた”の意味は人によって異なります。ロマンティックコメディは、当該ジャンルのファンにとって“優れた”作品でなければなりません。『好きだった君へのラブレター』はロマンティックコメディの傑作だと考えています。Netflix が同作を製作できたことを誇りに思っています。

それとは違う観点から、『アイリッシュマン』を“優れた”作品だとする方がいらっしゃるでしょう。創作を仕事とする方であれば、それを目指します。この業界では、エミー賞やアカデミー賞が“優れた”の指標となります。ですから、賞レースに参戦するのは、クリエイターやフィルムメイカーのために他なりません。そして、“優れた”作品をつくるよう努めた企業として認めていただくためでもあります。

 

 モデレーター:クラウディア・エラー(米Variety紙編集長)
今年は特にNetflix作品が受賞する可能性が高いと思っています。『アイリッシュマン』と『マリッジ・ストーリー』という2作品は、来週のゴールデングローブ賞やその後のアカデミー賞を待つまでもなく、多くの賞を受賞しています。どちらかが最優秀作品賞を受賞するのではないかという下馬評も駆け巡っています。そうなれば、Netflixにとって初の最優秀作品賞受賞となります。それが持つ意味合いと、今後への影響をどう見ていらっしゃいますか?

 

 スコット・ステューバー(Netflix映画部門責任者)
大きな意味を持ちます。ただし、私が最も誇りに感じるのは、これらの作品をスタジオ設立から2年半でつくりあげたことです。容易ではありませんでした。過去の作品も有名キャラクターもなしでつくりあげたのです。白紙からのスタートでした。我々にはマーベル映画やDCコミックス映画は製作できません。往年の名作のリメイクも無理です。できたのは、“優れた新作”をつくることだけでした。

難しい挑戦でしたが、それこそがこの仕事の魅力だとも思っています。アルフォンソ・キュアロン、スサンネ・ビア、ポール・グリーングラス、スパイク・リー、マーティン・スコセッシ、ノア・バームバック、フェルナンド・メイレレスといった監督を起用して“優れた”作品を製作してもらうプロジェクトを、フィルムメイカーたちと協議するのです。世界的な巨匠たちと仕事をしていることを誇りに思いますし、そういった方たちと作品をつくってきてよかったと考えています。

着任した時期には優れた作品の配給権を取得していましたが、先に述べた作品はいずれも自社製作です。製作責任者や撮影責任者がいて、視覚効果他の担当者がいるスタジオを設立して製作した作品なのです。今までと異なる新しい何かを信じて参加してくれた人たちによる作品なのですから、組織にとっての意味は大きいと言えます。大きな賞を受賞するような映画人のチームの一員になれることは、彼らにとって非常に素晴らしいことなのです。ですから、もし受賞できたなら、私は喝采し、涙し、狂喜乱舞することでしょう。そうなったら素晴らしいでしょうし、多くの方にそこまで愛される作品をつくれたのも素晴らしいと思います。

 

 

 

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