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クリエイティブなメディア戦略の必要性~マスなのかデジタルなのかの二元論を超えて~
公開日: 2019/05/17

ハリウッドのトップマーケッターが語る映画マーケティング最前線2019(7)

 

テレビ、屋外広告、印刷媒体に加え、デジタルも宣伝範囲に組み込まれ、予算配分に頭を悩ませることも多いかもしれません。連載第7回は、米ワーナー・ブラザースなど各スタジオのトップマーケッターが宣伝戦略における予算配分に言及しました。刻々と状況が変化するなか、本当に効果的な予算配分とは一体? さらに宣伝期間の変化についても貴重な話が明かされました。
※本記事で触れられているサービス内容はカンファレンス開催(2019年3月)時点の情報です

 

《目次》

 

もはや消費者をデモグラフィックでとらえることはない

 

 モデレーター
今日、映画鑑賞者数が増加しているのか、もしくは減少しているのかどうかの確証が持てずにます。実際にはいかがでしょうか。

 

 ジョシュ・グリーンスタイン(ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント、以下SPE)
映画興行市場は好調です。少なくとも米国内市場においては間違いありません。

 

 モデレーター
なるほど。それにしても、鑑賞者の性年代別構成に関してはやはり驚きでした(「第2回 北米映画興行は活況。映画鑑賞者の29%が25歳未満)」参照)。なにせ、今回のパネルディスカッションでは、「若い世代の観客は映画館で映画を観ることはあまりなく、予告編などをテレビではなくオンライン上で鑑賞しますよね」と、みなさんに話を振るつもりでいたのですから。しかし、事実は異なりました。そこでこうした現実を踏まえて、デジタル、印刷媒体、テレビ、屋外広告の間で、どのように宣伝予算を配分されるのか、ぜひお聞かせ願いたいと思います。過去と比べて大きく変わってきたと思いますが、現在の配分はどうなっているのでしょうか?

 

 

 

 

 ブレア・リッチ(ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ/ワーナー・ブラザース・ホーム・エンターテインメント、以下WB)
私からお話ししましょう。少なくとも弊社の予算配分は、間違いなく変化しました。また、変化が早いので、年ごとの変化を考える必要もあるでしょう。まず、従来のテレビは今や課題の多いメディアと言えます。スポーツ中継やプライムタイムの宣伝は極めて有用ですが、接触できるのは毎回ほぼ同じ視聴者であり、どのような反応が起こるかは分かっています。

一方、デジタルテレビにはまだ機会が残されています。ヨーロッパの一部では若年層をとらえるにはネット視聴を考慮することは非常に重要です。同じ番組を2つの異なるプラットフォームで視聴できるわけですが、その際、プラットフォーム毎に視聴者層の特性が全く異なることがあります。なお、我々は各メディアの視聴者を含めて物事をデモグラフィック、つまり人口構成だけでとらえることはないので、デモグラフィックとは呼びません。ともかく、今お話した事例では全く異なる2つの視聴者グループに接触できるのですから、これは有効なチャンスと言えるでしょう。

我々はお客様の特性に応じて宣伝を組み立てますので、予算配分は作品やジャンルによって全く異なります。今では従来のようなデモグラフィックではなくターゲット特性という観点で考える必要があり、そこにデータ、戦略の構造などの要素を加味して予算規模や配分を決めます。

そこには面白いトレンドがあるように思います。ケリーがアウトドア企業を買収すると、それで我々のメディアプランが変わります。メディアへのアプローチが決まり、変わっていくのです。

 

 ケリー・ベネット(ネットフリックス)
間違いないように申し上げておきますが、我々はそんな会社を買収してはいませんよ。

 

 ブレア・リッチ(WB)
そうでしたね。

 

(会場笑)

 

ほんのジョークです。それはさておき、配車サービス「Uber」のドライバーの例え話を紹介します。あなたがある劇場公開作品の宣伝に時間をかけて取り組んできたとします。ある日、Uberの後部座席に乗っていると、ドライバーが屋外広告に目をやって「早くあれをNetflixで観たいですね」と言います。するとあなたは「いえいえ、あれは劇場で公開されますよ」と言うのです。なにせ1年以上も取り組んできたのですからね。

そしてあなたは、「Netflixもいいのですが、この作品は劇場公開作品なのです」と念を押すでしょう。ここで申し上げたいのは、かつてテレビ作品はテレビ作品らしく、映画は映画らしかったのですが、今ではすべてがコンテンツである点です。我々全員にとって、差別化し、消費者に数多くの選択肢の中から自分の作品を選んで時間やお金を費やさせるには、常に広告の予算配分を作品や競争環境に合わせて調整していくことが必要なのです。

 

 モデレーター
つまり、デジタルと他のプラットフォームとの間の予算配分で言えば、他のメディアすべての合計よりもデジタル予算の方が大きいわけではない、ということでしょうか?

 

 ブレア・リッチ(WB)
全般的にはデジタルの比重が高いと言えますが、ジャンルやターゲット特性によって若干の大小があります。

 

 

 

 

デジタル広告と劇場予告編の価値

 

 ジョシュ・グリーンスタイン(SPE)
個々の作品によっても異なりますね。ここ3年の趨勢で考えれば、基本的にすべての大手スタジオはデジタル寄りになっていると思います。特定の層にのみアピールするべき作品ではその傾向が強いですね。最近公開した『エスケープ・ルーム(原題)』のようなタイプの作品では、全世界でデジタルに特化した宣伝活動を展開し、世界興収が1億ドルを突破しています。本作では100%デジタルに投下しました。

 

 

劇場における作品訴求に関しては、我々が持つデータや調査結果によって的確な消費者をターゲットできるのがポイントです。従来のような性別と年齢で定義するターゲットではありません。劇場予告編は非常に重要です。なぜなら実際に映画館に足を運んでくれるお客様に向けたものだからです。予告編を最高の環境で鑑賞し、劇場に足を運んでくれている価値の高いお客様です。劇場で上映される予告編の価値は非常に高いと言えます。

 

宣伝期間の短縮がもたらすもの

 

 マイケル・モーゼス(ユニバーサル・ピクチャーズ)
予算配分だけでなく、宣伝活動の長さも変化しています。主観ではありますが、間違いなく短くなっていると思います。消費者を1年かけて取り込んでいく時代は終わりました。いろいろなことがNetflixの作品や宣伝活動のサイクルに影響を受けています。今日、消費者の関心を惹き、確保して、維持することは難しいため、宣伝期間を短縮するようになりました。重要な宣伝を圧縮して展開することで、強い印象を残すのです。

 

特集:ハリウッドのトップマーケッターが語る映画マーケティング最前線2019

 

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