第1回:AIは技術ではなく「文化」である?~特集:改めてAIがエンタメ業界にもたらす問題と価値を専門家が語る
公開日: 2023/12/01
米ロサンゼルスで行われた「Variety Entertainment & Technology Summit 2023」にて9月21日、生成AIがエンタテイメント業界に与える影響や今後の活用についてのパネル・ディスカッション“The Opportunity for AI”が開催されました。同パネルでは、MicrosoftやAmazon、そしてロサンゼルスの巨大スポーツ&エンタテイメント&商業エリアであるハリウッドパークなど多様な会社のAI担当者と、AIの専門家が登壇。本特集ではその模様を3回にわたりレポートします。
第1回は、「AIは人間にとって、良い? 悪い? その中間?」というストレートな質問に対し、パネリストたちが持論を繰り広げました。
※本記事で触れられている内容は2023年9月時点の情報です
アンドリュー・ウォレンスタイン(Andrew Wallenstein)
Variety Intelligence Platform:代表&チーフメディアアナリスト
パネリスト
トラビス・サンプソン(Travis Sampson)
ハリウッドパーク:シニアバイスプレジデント兼最高技術責任者
クリス・マットマン(Dr. Chris Mattmann)
AI&機械学習分野の国際的専門家
ヒナ・ディクシット(Hina Dixit)
Microsoft ベンチャーファンド「M12」:パートナー
ティア・ホワイト(Tia White)
Amazon:AI&機械学習部門ジェネラルマネージャー
- AIによる成果物の権利は誰のもの?
- クリエイティブ面では、人間の“代わり”ではなく“助手”に
- 選択肢は、AIに職を奪われるか、変化の波に乗るかのいずれか
- AIと共存する未来を認め、理解する努力を
- 生成AIは“技術”ではなく“文化”になる
AIによる成果物の権利は誰のもの?
AI、機械学習分野の専門家で教授・作家のクリス・マットマン氏は、良い面と悪い面が背中合わせであるとしたうえで、それぞれの面を説明。「良い面は、AIが人間の仕事を、より実りあるものにしてくれること。ゼロから何かを生み出したり、何度も同じことを繰り返すことなく、自動化できるところはして、生成されたものを微調整したり、適応させればいいからです」。
「一方、悪い面は、生成AIの学習に必要なデータの所有者があいまいであること。そもそも、ここで発生する権利とは何か? その権利はどこに属するものなのか? 100層ものディープニューラルネットワーク(ディープラーニングの1種で、人の脳神経細胞の仕組みをコンピューターで再現し、高精度の答えを導き出すことを可能にしたもの)で用いられるデータや成果物の権利は誰が所有するのか? そうしたことが分からないため、皆が困惑しているのだと思います」。
クリエイティブ面では、人間の“代わり”ではなく“助手”に
そのうえで、メディア&エンタテイメント分野のストーリーテリングやクリエイティブ・プロセスにおいて、AIは万能にはならないというマットマン氏。「確かに、ChatGPTのGPT-4バージョンや画像生成AIのDall-E 3などが登場していますが、この種のAIが突然、9億ドル規模の映画を作ってみせたりすることはなく、むしろ人間のクリエイティブ・プロセスを知的補助する非常に有用なツールになり得ると思います。人間の“代わり”ではなく、“助手”になるのです」。
選択肢は、AIに職を奪われるか、変化の波に乗るかのいずれか
AmazonのAI&機械学習部門ジェネラルマネージャーのティア・ホワイト氏も、特にメディア&エンタテイメント分野においては、AIが仕事の効率化と補強に役立つという点に同調。そのうえで、自身の体験から、AIとの賢い付き合い方を提言しました。
「私はキャリア初期にバックエンドのソフトウェア・エンジニアとして、インフラの自動化・強化・導入におけるソフトウェアを構築していました。その後、パブリック・クラウドが普及し始めたとき、『このまま、クラウドに職を取られるか、波に乗るかのどちらかだ』と思いました。そこで、パブリック・クラウドに注力していた企業に移籍し、クラウドのエキスパートになるためのスキルを身につけたのです。私は6年前からAIを活用していますが、最初からAIになじみがあったわけではありません。だから母にも、ChatGPTをいじったり、いろいろな情報を読んだりして、AIの教養を身につけてほしいと伝えています。変化の一部になるか、変化に取り残されるかは、自分次第だからです」。
AIと共存する未来を認め、理解する努力を
MicrosoftのベンチャーファンドであるM12でAI企業・技術への投資を担当するヒナ・ディクシット氏は、「人は未知のものに対して、不安や恐怖を抱くもの」としたうえで、……(以下、会員限定記事にて掲載)
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