継続的な作品供給を目指すディズニー ハリウッドスタジオプレゼンテーション【後編】ディズニー及びまとめ~特集:CinemaCon2024
公開日: 2024/04/25
米ラスベガスで行われたアメリカを中心に世界中の映画興行・配給関係者が集まる「CinemaCon2024」にて、目玉イベントともいえるハリウッドメジャースタジオによるラインナッププレゼンテーションが開催されました。本記事ではスタジオラインナッププレゼンテーションの最後を飾ったウォルト・ディズニー・スタジオのプレゼンテーションのレポートとともに全体のまとめを行います。
※本記事で触れられている内容は2024年4月時点の情報です
- ディズニーは劇場公開重視とともに、フランチャイズすべてから大作が予定されており、ディズニー全体で「継続的な作品供給の実現」をアピール
- 20世紀スタジオから『猿の惑星』シリーズ最新作、ピクサーから『インサイド・ヘッド2』、マーベルから『デッドプール』新作、ディズニー・ライブアクションから“Mufasa”、ディズニー・アニメーションから“Moana 2”など、2024年の期待作を紹介
- 世界映画興行の2024年度が正式にキックオフ。楽観的になる材料は少ないなか、いかに事前の想定以上とするか
ディズニーは劇場公開重視とともに、フランチャイズすべてから大作が予定されており、ディズニー全体で「継続的な作品供給の実現」をアピール
今年最後のスタジオプレゼンテーションはウォルト・ディズニー・スタジオ。全スタジオの中で最も長い2時間15分にわたるプレゼンテーションが行われ、劇場公開の取り組みに向けた意気込みを感じさせる内容となりました。
ディズニー・エンターテインメントのアラン・バーグマン共同会長(Alan Bergman:Co-Chairman, Disney Entertainment)から、「人々がスマートフォンを切って出かける理由になるのは素晴らしい映画」であり、「ここ数年は大変なことも多かったが、今はディズニーの7スタジオすべてで劇場公開作品を予定しており、継続的に商品提供の流れを作ることができる」との表明がありました。
直近のラインナップとして、“Kingdom of the Planet of the Apes(全米公開2024年5月10日/邦題『猿の惑星/キングダム』日本公開同日)”、“Inside Out2(全米公開2024年6月14日/邦題『インサイド・ヘッド2』日本公開2024年8月1日)”、“Deadpool & Wolverine(全米公開2024年7月6日/邦題『デッドプール&ウルヴァリン』日本公開同日)”、“Alien: Romulus(全米公開2024年8月16日)”、“A Real Pain(全米公開2024年10月18日)”、“Moana 2(全米公開2024年11月27日)”があることが読み上げられ、この一連の流れで会場には拍手がわき起こりました。さらに今後数年間で、『アバター』『スター・ウォーズ』『トイ・ストーリー』『アナと雪の女王』の新作が予定されており、すべてのスタジオで大作が控えていることをアピールしました。 ※CinemaCon開催前にディズニーから今後のラインナップとしてこれら作品の公開情報が明かされました。(参考:“Hollywood Reporter“Disney Sets ‘Toy Story 5,’ ‘Mandalorian & Grogu’ for 2026, Delays Live-Action ‘Moana’ by a Year”)
アラン・バーグマン氏Alan Bergman:Co-Chairman, Disney Entertainment)
Photo by Jerod Harris/Getty Images for CinemaCon 2024
続いて登壇したウォルト・ディズニー・カンパニー劇場配給部門統括エグゼクティブ・バイスプレジデントのトニー・チェンバース氏(Tony Chambers:EVP, Head of Theatrical Distribution, The Walt Disney Company)は、この後発表する作品は、劇場体験を核にしたラインナップであることを宣言。そして、このプレゼンテーションでは、コンテンツ映像をたっぷり75分間分見てもらうよう準備してきたことを明かしました。
トニー・チェンバース氏(Tony Chambers:EVP, Head of Theatrical Distribution, The Walt Disney Company)
Photo by Jerod Harris/Getty Images for CinemaCon 2024
マーベル・スタジオのケヴィン・ファイギ社長(Kevin Feige, President, Marvel Studios)はプロンプターなしでプレゼンテーションを行い、これまで劇場公開映画33作品で300億ドルの興行収入を達成してきたが、映画は映画館で見るために作ってきたと訴えました。そして、『デッドプール』の新作“Deadpool & Wolverine(全米公開2024年7月6日/邦題『デッドプール&ウルヴァリン』日本公開同日)”で展開予定の劇場で売られるポップコーンバゲットやIMAX上映は、家から出かける理由となるので重要だと位置付けました。また、ディズニー初のR指定映画となる本作の公開をうけてFワードを連発し、会場を盛り上げました。その雰囲気はチェンバース氏を含めたその後の登壇者にも引き継がれ、会場を沸かせました。
ケヴィン・ファイギ氏(Kevin Feige, President, Marvel Studios)
Photo by Jerod Harris/Getty Images for CinemaCon 2024
各スタジオから2024年の期待作を紹介。20世紀スタジオから『猿の惑星』シリーズ最新作、ピクサーから『インサイド・ヘッド2』、マーベルから『デッドプール』新作、ディズニー・ライブアクションから“Mufasa”、ディズニー・アニメーションから“Moana 2”など
ラインナップ紹介のトップバッターは、20世紀スタジオからシリーズ初のIMAX上映となる“Kingdom of the Planet of the Apes(全米公開2024年5月10日、邦題『猿の惑星/キングダム』日本公開同日、予告編)”が紹介され、13分間のフッテージ映像が上映されました。
続く、ウォルト・ディズニー・ピクチャーズの“Young Woman and the Sea(全米公開2024年5月31日、予告編)“では、プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーからのビデオメッセージが上映されました。当初ディズニープラス向け作品であったものを劇場公開向けにした本作。デイジー・リドリーが主演を務め、フランス、イギリス間を泳いで横断しようとした水泳選手の実話のドラマ化です。会場では予告編が上映されました。
ピクサー・アニメーション・スタジオからは、“Inside Out2 (全米公開2024年6月14日、邦題『インサイド・ヘッド2』 日本公開2024年8月1日、予告編)”が登場。ヨロコビ(Joy)の声優を務めたエイミー・ポーラーによって紹介され、本編の冒頭35分が上映されました。
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マーベル・スタジオからは、来年夏以降の公開作品としてIMAX上映の2作品、“Fantastic Four(全米公開2025年7月25日公開)”と“THUNDERBOLTS*(全米公開2025年5月5日)”が予定されていることが紹介されました。そしてさらに、今後1年間に公開される2作品についてのより詳細な内容が明かされました。
まず、今後は量とサイズについて様々な作品を提供する、という前置きを置いた上で“Captain America Brave New World(全米公開2025年2月14日)”が紹介されました。そして本作は、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』が政治ドラマ要素でも面白かったことを受けて、(MCU作品としては)より現実味のある政治・アクションスリラーとして製作されていると説明されました。続いて、ケヴィン・ファイギとともに、キャプテン・アメリカ役のアンソニー・マッキーが登壇して本作を紹介し、フッテージが上映されました。フッテージでは、ハリソン・フォードがサディアス・“サンダーボルト”・ロス役として出演し、アンソニー・マッキー演じるキャプテン・アメリカにアベンジャーズの再建を依頼するシーンなどが披露されました。
今夏の公開が控える“Deadpool & Wolverine(全米公開2024年7月6日/邦題『デッドプール&ウルヴァリン』日本公開同日、予告編)”については、ショーン・レヴィ監督より、 R指定作品につき「観客の喜び」を目指して本作を製作したことが明かされ、CinemaConのために作った本編からの9分間の特別映像が上映されました。
左からアンソニー・マッキー、ケヴィン・ファイギ、ショーン・レヴィ監督Photo by Alberto E. Rodriguez/Getty Images for CinemaCon 2024
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プレゼンテーションは20世紀スタジオに戻り、監督に『ドント・ブリーズ』『死霊のはらわた』のフェデ・アルバレス、プロデューサーにリドリー・スコット氏を迎えた“Alien: Romulus(全米公開2024年8月16日、予告編)”が登場。ホラー・スリラージャンルの本作は、『エイリアン』シリーズ初期の時代を描いており、スコット氏が本作についてFワードを用いて大いに褒めていることを紹介しつつ、本編のフッテージ映像が上映されました。20世紀スタジオからはもう1本、来年公開の“The Amateurs(全米公開2025年4月11日)“のフッテージ映像が上映されました。本作は、ラミ・マレック主演のアクションスリラーで、妻を殺された男の復讐劇を描いています。
続くサーチライト・ピクチャーズのプレゼンテーションではまず、『哀れなるものたち』でエマ・ストーンがアカデミー賞主演女優賞を受賞したことに触れ、この7年で5回サーチライト作品が主演女優賞を獲得し、7年連続で作品賞にノミネート作品があったことを披露。そして、今後のラインナップから4作品が紹介されました。
1つ目は、サンダンス映画祭で話題となった“A Real Pain(全米公開2024年10月18日)”。ジェシー・アイゼンバーグが製作・脚本・監督・主演を務め、共演にキーラン・カルキンら。2つ目はエイミー・アダムス主演のコメディ“Night Bitch(全米公開2024年12月6日)”。3つ目は、『愛と追憶の日々』のジェームズ・L・ブルックス監督による新作ドラマ“Ella McLay(公開日未定)”。そして最後に、本年カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された“Kind of Kindness(全米公開2024年6月21日、邦題『憐れみの3章』 日本公開2024年、予告編)”の予告編が上映されました。監督はヨルゴス・ランティモスで、主演のエマ・ストーンとは本作で3度目のタッグとなります。
Photo by Jerod Harris/Getty Images for CinemaCon 2024最後にディズニー・ライブアクションとディズニー・アニメーションから、今年末の作品がそれぞれ紹介されました。まずは、全米最高のオープニング成績を記録した『ライオン・キング』の前日譚を描いた新作“Mufasa: The Lion King(全米公開2024年12月20日)”。本作の監督バリー・ジェンキンスが登壇し、自身が監督してアカデミー賞作品賞を受賞した『ムーンライト』は、「大きな心を持った小さな映画」だったが、本作は「大きな心を持った大きな映画」と紹介。自身の実体験でライオン・キングが非常に身近にあったエピソードを披露するとともに、詳細は明らかになりませんでしたが、楽曲の素晴らしさもアピールし、初出しのフッテージ映像が上映されました。
バリー・ジェンキンス監督Photo by Jerod Harris/Getty Images for CinemaCon 2024
最後は、ディズニー・アニメーションから“Moana 2(全米公開2024年11月27日、予告編)”。『モアナと伝説の海』の世界観をモチーフにしたダンサーたちのステージパフォーマンスに続き、マウイの声優を務めたドウェイン・ジョンソンが登壇し会場を大きく盛り上げました。
Photo by Jerod Harris/Getty Images for CinemaCon 2024その後、壇上でNATO(National Association of Theater Owners:全米劇場所有者協会)からSpirit of the Industry Awardを授与されたドウェイン・ジョンソン。彼は、この賞を前回授与されたのがクリストファー・ノーラン監督とプロデューサーのエマ・トーマスであったことに触れ、改めて劇場公開を大事にすることを約束。そして、最後に本作のフッテージ映像が上映されました。
Spirit of the Industry Awardを受賞したドウェイン・ジョンソンPhoto by Jerod Harris/Getty Images for CinemaCon 2024
世界映画興行の2024年度が正式にキックオフ。楽観的になる材料は少ないなか、いかに事前の想定以上とするか
「もっと作品が必要だ。そして様々な規模やジャンルから取りそろえるべきだ」。CinemaCon期間中のセミナーや様々な場で、多くの興行関係者やメディア関係者が口にしました。それに応える位置づけのスタジオプレゼンテーションですが、そもそもすでに多くの作品が2024年から2025年に延期され、スタジオからの大規模公開(Wide Releases)は昨年を下回る見込みとなっており、コロナ前までのレベルにはまだまだ遠いです。各社がどんなに大きく(時折25年の作品を混ぜながら)見せても、客観的に量が少ないという事実は変わりません。
こうした作品数に制約条件があるなかでは、今回のラインナッププレゼンテーションでパラマウントのクリス・アロンソン氏も強調していたように、公開日の設定や運営上の基本的なことに取り組むことの重要性も増します。その点は、2023年のCineAsiaでカート・リーダー氏も訴えていた点です。(参照:GEM Standard「第5回:未来に向けて配給と興行が互いに望むこと~特集:アジア映画市場発展の条件」)。
また、一つでも多くの作品が事前の想定以上になること、そして、今想定されていないビッグヒットが創り出されるために、配給、興行だけでなくすべての関係者が知恵を絞り、新しいことにチャレンジする必要もあるでしょう。その意味では逆境だからこそ新しい成功事例や革新が起こる期待も膨らみます。ワーナー・ブラザースの『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』と『デューン 砂の惑星PART2』の興行収入が全世界で6億ドルを超えたなど好調であるように、引き続き多くの作品が想定を上回る動きをすれば結果的にはまとまった数字になります。Gower Street Analyticsの2024年の世界興行収入の予測値が上がった背景にもそういった期待以上の結果出ていることがあります(参照:Gower Street Analytics“GOWER STREET’S GLOBAL BOX OFFICE PROJECTION SEES SMALL RISE AHEAD OF CINEMACON”)。なお、ハリウッド作品が少ないならば、言わずもがな、アニメをはじめとした日本の映画作品には引き続きチャンスが広がっています。
毎年CinemaConのラインナッププレゼンテーションは、その年の世界映画興行を彩る作品たちの顔ぶれがわかる、お披露目の意味合いを持ちます。さらに今年は、CinemaCon期間中にカンヌ国際映画祭のコンペティション出品作と来年度のアカデミー賞授賞式の日程が発表されたことが話題となりました(参照:DEADLINE“From CinemaCon To Cannes: Has The New Oscar Season Rung Its First Bell?”)。こうした中、このCinemaConのこのタイミングはより一層、「2024年の世界映画興行のキックオフ」としての位置づけが強まりました。昨年のCinemaCon時点でも作品の少なさが嘆かれましたし、そのあと脚本家組合、俳優組合のストライキという前代未聞の事態が訪れました。しかしその一方で、そのあと『バービー』と『オッペンハイマー』が世界で合計24億ドル以上の興行収入を稼ぐことなど想像できていた人はまれでしょう。今年もまた、関係者が足元をしっかり見つめつつ、想定以上のヒットを生み出していかねばならないということを関係者が再確認したCinemaConとなりました。
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