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VODビジネスの潮流(2/3) 配信ビジネスの課題~最適なウィンドウ戦略の模索~(AFMカンファレンスから)
公開日: 2016/03/24

2015年11月に開催されたAFM(American Film Market)におけるカンファレンス中での"Navigating the VOD Landscape: What Every Producer Needs to Know"のセッションレポート第二弾 

昨年ロサンゼルスで開催されたAFM(American Film Market)におけるカンファレンス中での"Navigating the VOD Landscape: What Every Producer Needs to Know"のセッションからのレポート第2回目です。 第1回目はこちら
 


VOD・配信ビジネスにより細分化する収入モデル

映画作品の興行収入はすべて公表され、皆が知ることになるが、VODや配信ビジネスの売上はまるで秘密情報のようになっている。作品の売上データ分析が難しい現状と、現在進行形の取り組み、今後の課題とは?

 

細分化するVOD・配信ビジネス 課題はデジタル売上のトラッキング

スティーヴ・ニッカーソン氏は、「VOD&配信ビジネス市場がまだ形成され始めたばかりで細分化されているため、収入算出のフォーマットが確立していない」と語る。映画ビジネスにおける劇場興行は過去30~40年間、ほとんど変わっておらず、スタジオやプロデューサーは、ボックスオフィスの数字で作品の売上を判断することに慣れている。

しかし、過去5年の間に映画ビジネスと作品売上のトラッキング方法は細分化されており、劇場公開されない作品、レンタルが好調な作品、VODや配信で支持を得る作品などもあるため、ボックスオフィスは売上判断のひとつの素材にすぎないことを念頭に置くべきである。

ニッカーソン氏は、今後はボックスオフィスの数字だけでなく、他のウィンドウ含めて「消費者が使ったお金」の分析が重要となると強調する。映画業界はいまだ、その「消費者支出」のトラッキング方法を確立できていないが、時代とともにレンタルやVHS・DVDなどのホームエンタテインメント売上をトラッキングするようになった調査会社レントラックを始め、多くのデジタル会社がデジタル配信売上のトラッキングに取り組もうとしている。もちろん、それは容易なことではない。

今、最も関心が高いのは、VOD、NetflixやAmazonを始めとするオンライン配信プラットフォームにおける視聴者数。例えば、テレビ局HBOが行う配信サービスはケーブル会社の契約プランの一部であるため数値を得やすいかもしれないが、Netflixは単独で会員登録するサービスであるため、外部から視聴者数をトラッキングすることは困難である。

 

製作費回収期間の長期化と売上予測の重要性

VODや配信ビジネスによって、製作費の回収期間は長くなる。小規模映画なら数百万ドル、娯楽大作であれば数億万ドル規模の製作費が1年から1年半の間に投資され、その回収には10年以上かかることもある。こうしたなか、フィルムメイカーたちができる限りリアルタイムで、異なるプラットフォームごとの売上を把握できるようになることが望ましい。どの作品においても、Netflixでの配信や、HBOで のライセンス契約が決まれば、新たな売上が発生するもので、視聴数がわかれば、フィルムメイカーは各契約のパーセンテージによってネット売上を算出するこ とができる。完璧な売上予測はできないが、公開初月における収入・支出をもとに、いつ頃リクープでき、その後、どれだけの期間で、どれだけの収入を得られ るかということを予測することができるのだ。ニッカーソン氏の会社では透明性を重視し、映画の興行収入とデジタル収入を同時にレポートしているという。フィルムメイカーに可能な限りのデータが提供されることにより、小規模なインディペンデント映画をリリースした際にも、そのパフォーマンス状況を把握できるようなることが理想だ。

 

VODでの成功例と新しいビジネスモデル:個々の作品にとって「最適なウィンドウ戦略」の模索

劇場公開とVOD・配信リリースの関係においては、「劇場公開後90日ルール」といったものが存在してきたが、現在はそのモデルにとらわれない様々なリリース形態がある。新しいビジネスモデルで成功した作品には、どのようなものがあるのか? パネリストたちからは、「90日ルール」の規制はいまだ強いものの、すべての映画がそれぞれに最適なウィンドウ戦略を取るべきであるという意見が相次いだ。

 

パラマウントとAMCの画期的な試み:
『ザ・インタビュー』は特例 『パラノーマル・アクティビティ』完結編は問題提起

モデレーターのラッセル・シュワルツ氏は、最近、AMCを始めとする映画興行チェーンとVODプラットフォームの提携など、新しいウィンドウ戦略への試みが増えていることを議論にあげた。

2015年10月には、パラマウント・ピクチャーズが『パラノーマル・アクティビティ』シリーズ完結編となる『パラノーマル・アクティビティ:ゴースト・ディメンション』と“A Scout’s Guide to a Zombie Apocalypse”の2作品を、劇場公開から17日後にVODリリースすることを発表。多くの劇場チェーンが通常より短いウィンドウでのリリース計画に反対して上映を拒否し、結局、米国のAMCチェーン、カナダのCineplexのみで上映されることとなった。両作品とも興行自体は大成功を収めたとはいえず、特に人気フランチャイズの『パラノーマル・アクティビティ:ゴースト・ディメンション』においては、前作同様に2500館規模での公開をしていれば、実際の興収の2倍近くとなる2500万~3000万ドルは稼げたという分析もあるのだが、パラマウントの試み自体は画期的であった。今後、こうした試みは増えていくのであろうか?

 

Broad Green Picturesのニッカーソン氏は、この『パラノーマル・アクティビティ』完結編や、北朝鮮を題材にしたブラック・コメディ映画『ザ・インタビュー』の例は特別で、新しいモデルと言い切ることはできないと語る。『ザ・インタビュー』は配給元のソニー・ピクチャーズへの大規模なサイバー攻撃、同作上映予定の劇場への脅迫などにより、一度はVODを含む一切の公開が中止になった。その後、限定劇場での公開が決まり、前日にVODにて先行リースされた経緯がある。ニッカーソン氏は、こうした『ザ・インタビュー』のリリース形態は、「製作費を回収するためにはどんな方法でもリリースする」という危機管理的な対応であったと分析。

一方、パラマウント・ピクチャーズとAMCの『パラノーマル・アクティビティ:ゴースト・ディメンション』と“A Scout’s Guide to a Zombie Apocalypse”の事例は非常に画期的な取り組みではあったが、結果は成功したとは言えないとコメントした上で、特に『パラノーマル・アクティビティ:ゴースト・ディメンション』は人気フランチャイズの完結編であったため、「このリリース戦略は、シリーズの最後に最大限の利益をあげるために適切だったか?」「次世代のフランチャイズをどのようにマーケティングするべきか」という問題を提起した。この答えが明らかになるまでは、新しいモデルと言い切ることはできないだろう。
 

『スノーピアサー』『イット・フォローズ』の成功

劇場で1~2週間上映された後、『スノーピアサー』はVODで成功した。Orchard's Filmのデイヴィッドソン氏は、米国において、指定された日程とシナリオでの劇場公開に同意する劇場数は限られているが、「劇場公開後、2週間はデジタル配信をしない」と明言したなら、Landmarksを始めとする比較的大きなインディペンデント劇場で公開される可能性が高まるという。90日ではなくとも、たった2~3週間待つだけで、良質な映画館で上映され、良質な観客にアピールすることができるのだ。

また、デイヴィッドソン氏は、わずか4館での劇場公開から、口コミによって1000館以上での上映に拡大され、VODでも大成功をおさめたホラー映画『イット・フォローズ』の例をあげる。『イット・フォローズ』については、好評につき劇場拡大が決まったために、VODリリースを予定より遅らせた経緯がある。このようにVODで成功する小規模映画だからと言ってすぐにVOD化が正しいとも限らない。
 

『トワイライト』シリーズ第4弾のバレンタインデー・リリース

従来より短いウィンドウでのリリース戦略において、カギを握っているのは劇場側であると、デイヴィッドソン氏は明言する。劇場主は論理的に対応するよりも、過去の歴史や慣習のことを考えて、感情的になることが多いため、上手に説得することが必要なのだ。

そこで例にあげたのが、『トワイライト』シリーズ第4弾。同作は、同シリーズの過去の作品と同様に11月に劇場公開されたものの、バレンタインデーを意識して、公開の74日後(2月8日)にVOD・DVDリリースされた。90日ルールより短いウィンドウであるが、利益分配などの契約はなく、スタジオと劇場側で論理的な会話がなされたうえでの戦略で、特に公に宣伝されることもなかった。ボックスオフィスに悪影響を与えることはなく、ホームエンタテインメントの売上も健闘した。

ここでの成功のポイントは、スタジオ側から劇場側に「新しいモデル」として提案したのではなく、「この映画に最適な方法」として提案されたこと。デイヴィッドソン氏は、どの映画にも、提携パートナーを説得できるような理想のリリース方法があると信じていると語った。

 

映画館へのアクセスがない観客にこそVODは有効

ディレクTVのパテル氏は、既存のモデルにとらわれないリリース戦略に前向きだ。劇場公開するすべての映画に「劇場公開後90日ルール」が最良ではなく、製作・配給・興行側の間でオープンな会話がなされ、様々なテストや実験をしてみることが有益だと語る。また、都市部に住んでいなかったり、仕事や育児などのスケジュール的な問題、金銭的な事情で映画館に行くことができない観客に映画を届けるためにも、VODはとても有効である。『007 スペクター』を見るために使う費用は、ベビーシッター代、ポップコーンやドリンク代など一晩で100~200ドルとなる。様々な事情を持つ観客が、いろいろな映画にアクセスできるようになることは、ユーザーにとってもフィルムメイカーにとっても有益である。

 

(3/3 配信ビジネスの展望 ~5年後はどうなる?4つの予測~に続く)



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