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J.J.エイブラムス監督登壇、 ロボットと殺人犯の視点で映画製作の今を語る【SXSW2016レポート】
公開日: 2016/03/24

SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)2016:The Eyes of Robots and Murderers

Author:星野 有香

 

ー Monday, March 14 3:30PM - 4:30PM : "The Eyes of Robots and Murderers" URL

Andrew Jarecki / JJ Abrams (Bad Robot Productions) / Peter Kafka (Re/Code)



今年のSXSWでオバマ大統領登壇によるKeynote講演に次ぐ、大人気となったセッション。オースティンコンベンションセンターの最大4F会場から1Fまでつらなった長蛇の列に1時間並んで入場。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を全世界で大ヒットさせた J.J.エイブラムス監督、エミー賞作品賞連続受賞のドラマ『ザ・ジンクス』のアンドリュー・ジャレッキー監督、モデレーターにはRe/Codeの Peter Kafka 氏が登壇した。

 

(写真中央がJ.J.エイブラムス監督、右がアンドリュー・ジャレッキー監督)


デジタル時代の人間の役割とは?

セッション名”The Eyes of Robots and Murderers”は登壇者二人に投げかけられる問いに対するまさに核心をついた見事なタイトルだ。J.J.エイブラムスは、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を全世界大ヒットに導いたが、CGIなど最新テクノロジーを駆使したSF映画でありながら、生身の俳優とリアルなセットを使った撮影を行ったことを全面に押し出したプロモーションをおこなった。もちろん、J.J.監督自らが経営する製作プロダクション Bad Robot(ミッション:インポッシブルシリーズなどでもお馴染みのあのオープニングロゴだ)のブリキのオモチャのような温かみのあるあのRobot、すなわちJ.J.監督自身の視点(The Eyes)という意味が含まれる。

アンドリュー・ジャレッキー監督の『ザ・ジンクス (原題:The Jinx:Life and Deaths of Robert Durst) 』は、実在する殺人犯ロバート・ダースト事件を追ったドキュメンタリーTVシリーズ。最終話の放映前日に本人が逮捕され大きな話題となった作品だ。(ジャレッキー監督の映画『幸せの行方...(原題:All Good Things)』はロバート・ダーストが関係する当時の未解決事件を描いたサスペンス、この映画をきっかけにジャレッキー監督はダースト本人のドキュメンタリーを撮影することになる)。ドキュメンタリーシリーズの放映中に、容疑者から連続殺人犯(The Murderes)となった主人公を捉えるジャレッキー監督の視点(The Eyes)とは何だったのか、興味をさらに駆り立てる。


ジャレッキー監督自身が語るHBOのドキュメンタリー予告編

 

テクノロジーは人間そのものとオーセンティックな物語を伝えるツール

テクノロジーが映画をどう変えたのか、テクノロジーが発達したことで陥る<罠>は何なのか?という問に対し、J.J.は答える。「テクノロジーはビジュアル表現の幅を大きく拡げたことは間違いない。しかし映画監督として一番大事なのは、映画の中で描かれるキャラクター、人間自身とストーリーテリングだ。最新のテクノロジーを使って未来の世界を描いても、そこで語られるキャラクターの物語がオーセンティックで感情移入できるかどうか。観客の感情移入を妨げないためにも、テクノロジーを感じさせないことを逆に意識している。」
 

物語の伝え方をショートカットするテクノロジーは必要ない


「テクノロジーの発達により、どんなスペクタクルな表現(Visual Effects)も可能になったからこそ、テクノロジーのためにテクノロジーを使うのではなく、物語をより深く伝えるため、観客にその物語の世界に入ってもらうためににテクノロジーを使う。テクノロジーの発達によりリアルなセットの設営やCGI処理速度などは確実にスピードアップしている。しかし、観客に伝えるべき物語をショートカットするようなテクノロジーは必要がない。観客がキャラクターに感情移入し、心が動かされるストーリーテリングの手法と、そのためにかかる時間は、本質的には変わっていないからだ。」


モバイル視聴は映画の敵か?

モデレーターのカフカ氏がモバイル端末で観客が映画を観ることが増えていることについて問われると、J.J.は「モバイルの小さいスクリーンで自分の映画が観られることは、正直あまり望ましくはないけれど、(映画監督、製作者としては)誰もがポケットの中に映画製作のスタジオや配給システムを持ってると考えるとエキサイティングでもある。自分の最高の瞬間を捉えた映画を自分でつくることができるようになったんだから。」


ジャレッキー監督は、セッションの冒頭から観客に向けて自身のモバイルで撮影を行っていた。モバイルでの映像表現の可能性について聞かれて、自身が開発した ”KnowMe” という動画編集アプリで即興で、SXSWのショート映像を披露した。事前にとっていたオースティンの街でモバイル撮影した映像(ローカル人気を博すVooDooドーナツ)や、セッションのステージ上で撮った参加者たちとのやりとりなど、アプリの使い方をスクリーンを使ってみせながら、その場でナレーションをつけあっというまに完成した。ドキュメンタリー監督だからこそ、ハンディな最新テクノロジーを駆使することはマストだし、J.J.とジャレッキー、ふたりが長年の友人である理由の一つは彼らがいい意味でギークだからだ。バッド・ロボットのアプリ”ACTION MOVIE FX STAR WARS”も使ってるよ、とJ.J.に声をかけるあたりは二人の仲の良さの証明だ。

ハリウッドで次の作品が今一番注目されるJ.J.エイブラムス監督と、ドラマ最高賞エミー賞作品賞を連続受賞したアンドリュー・ジャレッキー監督からの共通のメッセージ。表現し発信する手段を手に入れた、IT、映画、音楽のSXSWセッション参加者、クリエィティブ志向の今を生きる人たちに向けた言葉に心揺さぶられた。

人間そのものを描いた語るべき物語があるならば、手法は問わない、君も語るべきだ
 

KnowMe
http://knowme.com/