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パラマウントが描く未来とミニスタジオが起こす革新 ハリウッドスタジオプレゼンテーション【中編】パラマウント、ライオンズゲート、エンジェル・スタジオ~特集:CinemaCon2024
公開日: 2024/04/19

特集:CinemaCon2024 第5回

米ラスベガスで行われたアメリカを中心に世界中の映画興行・配給関係者が集まる「CinemaCon2024」にて、目玉イベントともいえるハリウッドメジャースタジオによるラインナッププレゼンテーションが開催されました。本記事では初の参加となったエンジェル・スタジオ(Angel Studios)、“ミニメジャー”のライオンズゲートとパラマウント・ピクチャーズに焦点を当てます。
※本記事で触れられている内容は2024年4月時点の情報です

《目次》

 

 

エンジェル・スタジオ:“Sound of Freedom”とPay it forwardの仕組みの成功で、設立3年目に北米8位のポジションに

エンジェル・スタジオのプレゼンテーション会場は、ほかのスタジオが利用するホテル「シーザーズ・パレス」のザ・コロシアムより小さめのボールルームでの開催となりました。しかし、今回わずか3年前に設立された独立系スタジオのラインナッププレゼンテーションということで注目を浴びました。エンジェル・スタジオはクラウドファンディングのシステムを持つ企業を母体として2021年に設立され、キリスト教系のドラマシリーズ“The Chosen”の製作・配給を行いました。エンジェル・スタジオの“エンジェル”は「エンジェル投資家」からきており、クラウドファンディングを通じて製作費を集めること、また、鑑賞者が作品をサポートしたいと考えれば追加で対価を払える“Pay it forward”の仕組みを持っていることが特徴です。

今回のプレゼンテーションでは、同社の幹部らが登壇し、2023年、エンジェル・スタジオは既存のシステムが壊れているなか、集合知、観衆の力に目を付けたビジネスモデルを展開していること説明しました。そして、北米で8位のスタジオに押し上げたのは、北米で1億8410万ドル、世界で2億5000万ドルの興行収入を記録した劇場公開映画“Sound of Freedom”の成功によるものであることを強調。本作では見た人が他人のためにチケットを買う仕組みPay it forwardが興行収入に貢献しましたが、その背景には映画のチケット販売サービスのAtom TicketsやFandangoなどの協力があったことが明かされました。

Sound of Freedom”以外では、“His only son”や“The Shift”などを公開しており、今後も“Sight(全米公開2024年5月24日、予告編)”、“Possum Trot(全米公開2024年7月4日、予告編)”、“Bonhoeffer(全米公開2024年11月11日、予告編)”、アニメーション“David(全米公開2025年11月21日、予告編)”などが控えており、ドラマ、アニメーションなど多彩なジャンルの映画配給に取り組むことが発表されました。  

ライオンズゲート:北米にて“Michael”ほか、ホラー、アクション、コメディなど幅広く華やかなラインナップ

ライオンズゲートは、ザ・コロシアムでラインナップ発表を実施。同社映画部門の副会長のアダム・フォーゲルソン氏(Adam Fogelson:Vice Chair, Lionsgate Motion Picture Group)が登壇し、監督・キャストらとともにラインナップを紹介しました。『ジョン・ウィック』や『ハンガー・ゲーム』といった人気シリーズの最新作がヒットした同スタジオは、今後も新しいフランチャイズを育て、2025年、26年にはテントポールとなるような大作を年に3から10作品供給することを目指すと宣言。ジャンルとしてはホラー、キリスト教系など固定ファンがいるものとともに、アクションやコメディに取り組んでいくとしました。また、現在製作中の作品として、“Highlander”“Naruto”“The Blair Witch Project”“Monopoly(『バービー』を手掛けたマーゴット・ロビー率いる製作会社ラッキーチャップ・エンターテイメントとハズブロ・エンターテインメントが製作)が紹介されました。

メインプレゼンテーションでは、ガイ・リッチー監督作“In the Grey(全米公開2025年1月17日)”、キリスト教系映画“Unsung Hero(全米公開2024年4月26日)”、ホラージャンルから“The Strangers(全米公開2024年5月16日、予告編)”、ゲーム原作でイーライ・ロス監督、ケイト・ブランシェット、ジェイミー・リー・カーティス、ケヴィン・ハートらが出演するSFアクションコメディ映画の“Borderlands(全米公開2024年8月9日、予告編)”、『クロウ/飛翔伝説』のリブート “The Crow”(全米公開2024年8月23日、予告編)”、 アジズ・アンサリ監督、キアヌ・リーブス主演のコメディ“Good Fortune”(公開日未発表)、『ジョン・ウィック』のスピンオフでアナ・デ・アルマス主演の“Ballerina(全米公開2025年6月6日)”などが、映像や監督・キャストの登壇とともに紹介されました。そして最後にアントワーン・フークア監督によるマイケル・ジャクソンの伝記映画“Michael(全米公開2025年4月18日)”が披露されました(先述の通り、米国外のインターナショナルはユニバーサル・インターナショナル・ピクチャーズが配給)。  

パラマウント・ピクチャーズ:顧客満足度を高める取り組みを呼びかけ、2024年には『グラディエーター』続編を中心に据えつつ未来への道程を提示

毎年オープニングで派手なパフォーマンスとともに幹部が入場するパラマウント・ピクチャーズ。今年は、シネマコン向けに編集された『グラディエーター』の映像が上映されたのち、北米国内配給トップのクリス・アロンソン氏(Chris Aronson:President of Domestic Distribution, Paramount Pictures)がグラディエーター軍団ととも会場を駆け巡るパフォーマンスで入場し、会場を大いに沸かせました。

入場時にグラディエーターに扮したクリス・アロンソン氏
Photo by Jerod Harris/Getty Images for CinemaCon 2024

アロンソン氏は、「コロナ禍以降、たくさんの変化があったけれど、まだまだ変化が足りない」と主張しました。例えば、「観客は映画が好きだが、我々はもっと改善できる」と説き、良い事例として、高い顧客満足度を誇る映画興行会社Classic Cinemasを紹介しました。そして、PLF(Premium Large Format)だけではない、すべての顧客体験、顧客接点のすべてが反映される顧客満足度を重視すべきだと表明。この中で、プライシングの工夫や映画館が兼ね備えるべき基本設備など、「プレミアム」ではない点も含めた設備投資の改善も必要であると訴えました。

クリス・アロンソン氏
Photo by Alberto E. Rodriguez/Getty Images for CinemaCon 2024

続いて登壇したブライアン・ロビンスCEO(Brian Robbins:President & CEO, Paramount Pictures)は、昨今のM&Aの噂について触れ、何も公表できることはないと説明する一方で、アロンソン氏がクラウドファンディングサイトKickstarterでスポンサー募集(なんでもいいので助けてほしい)をしているというジョークを共有する一幕もありました。

ブライアン・ロビンスCEO
Photo by Jerod Harris/Getty Images for CinemaCon 2024

そして、映画製作の勢いが緩んでいないことをアピールし、多くの製作者たちとのディールについて明かし、才能のあるフィルムメーカーを大事にし、活躍の機会を提供するスタジオであり続けることを約束しました。明かされたディールには、『トランスフォーマー』シリーズのプロデューサーであるロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラとの製作契約更新、『ソニック・ザ・ムービー』シリーズのプロデューサーであるニール・H・モリッツのオリジナル作品ファーストルック契約を27年まで更新、『クワイエット・プレイス』のジョン・クラシンスキー監督率いる製作会社サンデー・ナイトとのファーストルック契約、デイミアン・チャゼル監督との包括契約(2025年に新作公開予定)、『ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!』や『ミッチェル家とマシンの反乱』のジェフ・ロウ監督とのファーストルック契約、『SMILE スマイル』のパーカー・フィン監督とのファーストルック契約などがありました。

また、映画作品の供給が不足している現在の状況を踏まえて、配信作品だった“Mean Girls”を劇場公開(3週連続1位を獲得)したほか、“Bob Marley One Love(全米公開2024年2月14日/邦題『ボブ・マーリー:ONE LOVE』日本公開2024年5月17日、予告編)”についてはバレンタインデー公開に設定するなど、公開時期の工夫をしているとアピールしました。

そのほか、オリジナル作品“IF(全米公開2024年5月17日/邦題『ブルー きみは大丈夫』日本公開2024年6月14日、予告編)”では、ジョン・クラシンスキー監督のビデオメッセージとともに新しい予告編を上映。続いて人気シリーズ『トランスフォーマー』の最新作として、メガトロンとオプティマスプライムがライバルとなる前日譚を描いたCGアニメーション作品“Transformers One(全米公開2024年9月13日/邦題『トランスフォーマー ONE』日本公開2024年、予告編)”を紹介。声優のスカーレット・ヨハンソンからのビデオメッセージの後に、オプティマスプライム役のクリス・ヘムズワースとメガトロン役のブライアン・タイリー・ヘンリーが登壇し、初出し予告編と長めのフッテージを上映しました。

左からクリス・ヘムズワースとブライアン・タイリー・ヘンリー
Photo by Jerod Harris/Getty Images for CinemaCon 2024

続く“A Quiet Place: Day One(全米公開2024年6月28日/邦題『クワイエット・プレイス:DAY 1』日本公開同日、予告編)”の紹介時には、主要キャストの2人、ルピタ・ニョンゴとジョセフ・クインが登壇し、予告編とフッテージを上映。そのほか、2024年のクリスマス公開作品として“Sonic The Hedgehog 3(全米公開2024年12月、予告編)”のフッテージを上映しました。

さらに、タイトルが明かされないままフッテージが紹介され、ナオミ・スコットが演じる歌手のコンサートシーンや、彼女が不気味な笑顔の人々に対面する恐怖体験が映し出されました。上映後、これは当初配信向けだったものの、劇場向けと判断されて全米で大ヒットした『SMILE スマイル』の続編“Smile2(全米公開2024年10月18日)”だと明かされました。

グラディエーター』をモチーフにしたパフォーマンスで始まった本プレゼンテーションでしたが、最後も『グラディエーター』が飾りました。前作公開から24年振りの続編となる“Gladiator II(全米公開2024年11月22日)”を大々的にアピール。リドリー・スコット監督、主演のポール・メスカル、デンゼル・ワシントン、ペドロ・パスカルらキャストからのビデオメッセージに続き、編集中の映像から作られた迫力あるコロッセウムでの戦いのシーンなど、アクションシーンを含む特別映像を上映し、プレゼンテーションを締めくくりました。

映像付きで詳しく紹介された作品以外には以下の作品が簡単に紹介されました。

    ■実写作品
  • Heart of the Beast” - デヴィッド・エアー監督
  • タイトル未定:Star Trek Origin story” - トビー・ヘインズ監督
  • G.I.ジョー』と『トランスフォーマー』のクロスオーバー作品
  • Running Man” - グレン・パウエル主演、エドガー・ライト監督のアクション映画
  • Better Man(全米公開2024年12月)” - 『グレイテスト・ショーマン』のマイケル・グレイシー監督による歌手ロビー・ウィリアムズの伝記映画
  • Novocaine” - 『ザ・ボーイズ』のジャック・クエイド主演のスリラー
  • Bee Gees” - リドリー・スコット監督による音楽グループ、ビー・ジーズの伝記映画
  • Vicious” - ダコタ・ファニング主演のホラー
  • The Last Ronin” - ウォルター・ハマダ製作
  • 裸のガンを持つ男』リブート - リーアム・ニーソン主演、セス・マクファーレン脚本
  • 絶叫計画』リブート - 『ソニック・ザ・ムービー』シリーズのプロデューサーニール・H・モリッツ製作
  • サウスパーク』のクリエーター(トレイ・パーカー、マット・ストーン)による、ケンドリック・ラマープロデュース作品(全米公開2025年7月4日)
  • Mission Impossible 8”
    ■そのほか
  • インターステラー』 - 10周年記念として70ミリフィルム・IMAXで今秋再上映(本作はワーナーとパラマウントの共同製作)
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