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ヒットが先か、市場が先か
公開日: 2018/01/26

2018年1月26日付毎日新聞夕刊映画欄において掲載された「シネマの週末・データで読解:「若年層取り込んだヒット」の転載に、補足を加えています

(c) 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., SKYDANCE PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC


<シネマの週末・データで読解:週末興行成績(20、21日)>

 

1. (ー)

ジオストーム

(1週目)

2. (ー)

嘘を愛する女

(1週目)

3. (1)

スター・ウォーズ/最後のジェダイ

(6週目)

4. (ー)

パディントン2

(1週目)

5. (2)

キングスマン:ゴールデン・サークル

(3週目)

6. (3)

8年越しの花嫁

(6週目)

7. (4)

DESTINY 鎌倉ものがたり

(7週目)

8. (5)

映画 妖怪ウォッチ シャドウサイド 鬼王の復活

(6週目)

9. (6)

劇場版 マジンガーZ/INFINITY

(2週目)

10.(8)

未成年だけどコドモじゃない

(5週目)

※()の数字は前週順位。興行通信社調べ


若年層取り込んだヒット


映画動員ランキング1位は、先週までの『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』に変わり、先週末公開された『ジオストーム』であった。本作は、全世界の天候を制御する気象コントロール衛星の暴走で地球規模の異常気象が起こるというディザスター・パニック・アクション。先週末の「月曜日に大雪が降る」という天気予報がどのくらい動員を後押ししたかは分からないが、土日2日間で動員17万人、興行収入2.4億円を超えるヒットスタートとなった。

本作の意欲者層は、ハリウッド大作が好きな観客層、映画鑑賞頻度の高いヘビー層、年代別では男性20代、50代が中心である。意欲度の動きを見ていると、正月までに「スター・ウォーズ」や公開週末土日興収が3億円を超えた『キングスマン:ゴールデン・サークル』を既に見た映画ファンが来場したことがうかがえる。一方で、普段、洋画を見ない若い層を多く取り込んだヒットとも言われている。アニメ映画のヒットなどにより、近年、映画参加者人口に占める10~20代の割合は高まっている。そうした若年層の中には、映画館での鑑賞が映画の多様性を感じるきっかけとなった人も多いのではないだろうか。ヒットが市場を作り、市場がヒットを作るのである。

(GEM Partners代表、梅津文)=毎月最終金曜日掲載

◆掲載元◆
毎日新聞:シネマの週末・データで読解 「若年層取り込んだヒット」(毎日新聞2018年1月26日 東京夕刊)


◆ ◆ ◆ ◆


ヒットが市場を作り、市場がヒットを作る


上記の文末に「ヒットが市場を作り、市場がヒットを作る」と記したが、以下はこの点について補足したい。

まずはわかりやすい事例として、以前公開した記事「映画のヒットと市場の変化:「ディズニーのブランド力」から」で触れた“ディズニー映画なら見たいと思うと答える人の割合が高くなっている点については、以下のチャートが迫力ある。


グレーの太線が映画参加者人口(過去一年間に一本以上映画館で映画を見た人)の中で「ディズニー映画なら見たいと思う」人の割合の推移である。2014年にグッと上昇しているのは『アナと雪の女王の公開時である。その後もヒット作が出るたびに上昇しており、まさに「ヒットが市場を作り、市場がヒットを作る」好循環が起こっていると言える。

以下の図にもあるように、2016年の『君の名は。などをはじめとしたアニメ作品のヒットが数多く生まれているが、市場の中で「アニメ映画をよく見る」と答える人の割合は、オレンジの太線で示してあるが、2015年ごろからコンスタントに上昇傾向にある。

 



また、映画参加者人口にしめる年代別のシェアの比率をみると、アニメ映画という若い世代に訴求するジャンルを観る人が上昇傾向にあることと相関して、映画参加者人口に占める10代、20代、特に男性20代が増加傾向にある。

 


続けて、以下の図のようなこの事象と相関するようにジャンル別の鑑賞意向度を見ると、「ホラージャンル」が一貫して伸びていることが目立つ。ホラージャンルが好きな人の内訳をみると特に男性20代が中心である。

 


こうした背景が『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。のスマッシュヒットを後押したとかもしれない。また、こうして拡大した観客層が『ジオストームに来場したという流れもあったとも言えるのではないか。なお、両作品ともワーナー・ブラザース配給である。

数年前、シニア層の拡大が若者が映画館に来なくなった分を補い、結果、映画市場は一定だったという時期があった。しかし昨今、活況の映画市場において、若者も再び劇場に回帰している。もちろん、高校生が1000円となった価格施策も影響があると考えられるが、ヒットが客を呼び、その客層がまた次のヒットを生む現象も後押ししている様子もうかがえる。



 


今回の調査結果について

今回の調査結果は、弊社が販売している「CATS市場概況レポート」をもとにしています。映画の劇場公開に向けて、宣伝中の作品の認知・鑑賞意欲など市場における浸透状況や、テレビ露出量、劇場予告編到達率、デジタルにおける最新露出状況などを把握できるウィークリートラッキング・レポートです。(毎週月曜発行)
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