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「映画館離れ」と「映画離れ」の今
公開日: 2024/10/04

特集:完全復興に向けて映画鑑賞者の現状を考える 第2回

今一度、映画鑑賞者層の構造がどのようになっているのかを振り返る本連載。前回は、映画参加者人口※がなかなか戻っていないなか、性年代別の変化率ではシニアが大きく減少しましたが、絶対数では30代、40代のほうが戻ってきていないことが分かりました。また、映画館と定額制動画配信のどちらで映画を鑑賞しているかを年代別に比較すると、若年層は映画館、シニア層は配信を選ぶ割合が高くなっていることを確認しました。そこで、今回は映画館で映画を観なくなる“映画館離れ”とともに、方法を問わず映画を観なくなる”映画離れ“についても考えます。

※過去1年間に1本以上映画館で映画を鑑賞したユニーク人口

《目次》

 

 

映画を「映画館以外」のメディアで観る人の数が急速に減少している

まず、男女15歳から69歳が過去1年間にどのメディア(映画館、定額制動画配信、無料テレビ放送、レンタルDVD・ブルーレイ、購入DVD・ブルーレイなど)で映画を観たのかの割合(メディア別映画鑑賞率)を2019年から2023年の推移で見てみます。

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前回のとおり、「映画館」(青)はコロナ禍に入って減少したものの、2021年に底を打ち、やや上昇傾向・横這いにあります。また、コロナ禍に急速に伸びた「定額制動画配信」(薄橙)はむしろその後減少傾向にあり、現在は「映画館」が逆転しています。

ほかのメディアでも映画鑑賞率は減少傾向となっており、特に「無料テレビ放送(地上波・BS)」(以下「無料テレビ放送」)(濃緑)の減少が際立っています。前述したとおり2021年を境に“映画館離れ”には歯止めがかかっているとともに、「定額制動画配信」は”映画離れ“を食い止めています。しかし、ほかのメディアと併せてみると「映画館」以外のメディアにおいて急速な”映画離れ“が起こっていることが分かります。

 

若者は映画館と無料放送から映画館中心へ。ミドルはどれも減少、シニアは減少しているも無料放送中心、そして映画館よりも定額制動画配信にシフト

次に、性年代別にメディア別映画鑑賞率の変化を見てみます。

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まず、メディアを「映画館」「定額制動画配信」に絞って比較してみます。

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前回述べたように、「映画館」「定額制動画配信」の映画鑑賞率をみると、10代、20代の若年層は「映画は映画館」で観ており、年齢が上がると「映画を映画館だけでなく、動画配信でも観る」人の割合が増えていきます。性年代別の違いは、動画配信で観る割合よりも、映画館で観る割合のほうが大きくなっています。

ここに「無料テレビ放送」で観た割合を重ねると、年代差はより大きくなります。

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年齢層が高くなるにつれて、「無料テレビ放送」の割合が大幅に高くなります。2023年の10代、20代に注目すると、「無料テレビ放送」と「定額制動画配信」の割合はほとんど変わりません。一方で、50代、60代では「無料テレビ放送」の割合が他メディアに比べて圧倒的に高くなっています。ただし、「無料テレビ放送」は、どの性年代でも一貫して減少傾向にあります。

続いてコロナ禍前は大きな存在感を放っていた「レンタルDVD・ブルーレイ」(以下「レンタル」)と、コロナ禍以降急成長した「定額制動画配信」を比較します。

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このようにどの年代でも、「レンタル」(水色)が急降下するのと入れ替わりに、「定額制動画配信」が伸びていますが、「レンタル」の減少を補う勢いではないことが分かります。特に30代以下の女性では「レンタル」での映画鑑賞が著しく減少しています。

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そのほかのメディアでは、どの世代でも減少傾向にありますが、「映画館」「定額制動画配信」「無料テレビ放送」「レンタル」に比べて性年代での差異はあまり大きくありません。

 

どの世代でも、「映画館離れ」よりも「映画離れ」が起こっており、特に若い層で進行している

これまで映画館、映画館以外のメディア別映画鑑賞率を見てきました。次にその値の逆、映画の「非鑑賞率」、つまり「映画館で映画を観ていない」割合、「映画館以外の方法で観ていない」割合、そしてどの方法でも「映画を観ない」割合を見てみます。

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「映画館で映画を観ていない」(青)は、減少した後にやや上昇・横ばいにとどまっている一方で、前述のとおりほぼすべてのメディアで映画を観る割合が減少し、「映画館以外の方法で観ていない」(橙)が増えています。そのためどの方法でも「映画を観ない」(グレー)が一貫して増加しています。

「定額制動画配信」という新しいメディアが伸びても、映画を観る割合は増えておらず、全体としてどの方法でも映画を観ない、つまり“映画離れ”が加速していることが分かります。

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“映画離れ”の傾向を性年代別に見ると、「映画館で映画を観ていない」(青)がほかの年代に比べて緩やかな10代、20代では、「映画館以外の方法で観ていない」(橙)が増えていて、急速に「映画を観ない」(グレー)が進んでいることが分かります。“映画館離れ”でボリュームゾーンであった30代、40代でも、同様の傾向で“映画離れ”は起こっています。一方で、“映画館離れ”が進み、回復が鈍い50代、60代ですが、定額制動画配信で映画を観る割合が増えており、相対的に“映画離れ”は進んでいません。

 

「映画館離れ」だけでなく「映画離れ」を解決するために

上記のとおり、メディア別映画鑑賞率の変化により、映画を観るメディアとして映画館の存在感が増している若年層では、全体として“映画離れ”が進んでいます。一方で、「定額制動画配信」での映画鑑賞の伸びなどのおかげで相対的に“映画離れ”が進んでいないシニア層では“映画館離れ”が進んでいるという構図が浮かび上がってきました。

長期的な映画産業の継続のためには、映画館だけでなく、それ以外のメディアでの映画鑑賞も重要です。映画館もそれ以外のメディアも、映画鑑賞者を育てる意味では相互補完の関係にあります。映画は原作、ドラマ、劇場版と多メディア展開している中の映画だけでなく、劇場公開映画のみのものもあります。映画館以外の接触が減少すると、後者では、限定的な上映期間だけが接点となってしまいます。また、シリーズものだけでなく、監督や映画俳優などのブランドが重要になる映画では、映画館以外で関連作品の接点を作ることが、その映画の最大のPRになるケースも多くなっています。わざわざDVDをレンタルしに出かけなければならなかった時代と比べて、家で気軽に関連作品が観られる今は、映画館と映画館以外のメディアの相乗効果を狙った施策が打ちやすくなっているでしょう。

そこで次回は、映画館と映画館以外で映画を観る際に鑑賞者は何を求めているのかを整理し、“映画館離れ”“映画離れ”を食い止めるために訴求すべきことを考えます。

 

 

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特集:映画市場の完全復興に向けて映画鑑賞者の現地点考える