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ビッグデータビジネスの現状 - エンタテイメント業界におけるビッグデータ活用
公開日: 2016/10/07

エンタテイメント業界におけるビッグデータ活用に関するレポート(2)

昨年ロサンゼルスで開催された米Variety誌主催の映像業界関係者向けのカンファレンス"Variety's Big Data Summit"において、「ビッグデータとエンタテイメントビジネス」というテーマで語ったセッションのレポートの第2弾。


前回は、メディア企業、プラットフォーム、マーケティング・エージェンシーなどそれぞれの企業がビッグデータビジネスの現状を報告しました。その膨大なデータの中から本当に必要なデータを抽出し、クリエイティブ面、広告面、マーケティング面で、より効率的に使うための考え方や、解決すべき問題について語る。

 

モデレーター:

ジェイ・タッカー(USC Marshall School of Business/コミュニケーション・テクノロジー・マネジメント部門 最高マーケティング責任者)

 

パネリスト:
スティーブ・カネパ(IBM /海外メディア&エンタテイメント産業部門 統括マネージャー)
コリン・キャリア(Twitch /最高戦略責任者)
ジョン・ディバイン(Yahoo!/海外事業部門長)
ティム・マールマン(AOL傘下Publisher Platforms/海外事業部長)
クリス・ロビショード(PMK-BNC/最高経営責任者)


Twitchの場合「アナリストは“ロックスター”だ」

ビッグデータビジネスの世界では現在、クリエイティブ、広告、マーケティングと、どんな側面でもアナリストが活躍している。「いまやアナリストは“ロックスター”だ」とビデオゲームを核とするプラットフォームTwitchの最高戦略責任者コリン・キャリアはアナリストの影響力を表現する。実際、変化にきちんと対応する、信用にたるデータサイエンティストやエンジニアに、重要な要素を引き出す権利を与えたほうが、ほかの方法を試すより効果的だ。

「Twitch」は現在、データ管理や分析のサポートを行う外部企業やデータ企業を使いながらも、自分たちが欲しいものをしっかりカスタマイズするために、ユーザーに関係する情報やテクノロジーなどすべての要素を社内に構築している。チームを構成するのは、単なる統計学者ではなく、ビジネスを理解し、解決すべき問題がわかっている洞察力のあるアナリスト。「彼らの力を最大限に伸ばすことが仕事」だとキャリアは言い切る。そうすることで、Twitchのアナリスト・チームは、研ぎ澄ましたビジネスを進めるデータサイエンス統計室となった。

PMK-BNCの場合「大切なのは、ビッグデータの重要性という基本を理解してもらうこと」

テクノロジーは時にあつれきを生む。タレントマネジメントを主軸にしたマーケティング・コミュニケーション・エージェンシー、PMK-BNCでは、タレントとブランドの両方に、マーケティングでビッグデータを利用する価値や、その活用方法を認めさせることが、第一のアプローチとなる。

「弊社のクライアントは、キャメロン・ディアスや人気テレビ番組のショーランナー、エンタテインメントのマーケティングを担当する人々です。彼らはビッグデータの世界に精通しているわけではありません。だからこそ説明はシンプルにする」のだとPMK-BNC最高経営責任者のクリス・ロビショード。

ブランドには消費者の嗜好、行動、本当に求めているものを、エンタテインメント業界にはファンの実態を理解させることが重要だという。「タレント側にはなぜ彼らがあなたのファンであり、どれほど忠実なのかを知るアプローチを、ブランド側にはこれだけの投資を行うとどんな結果を見込めるのか? さらに利益を出すには? というアプローチを持ちかけます。ブランドもすでに、スポンサーになったタレントに、ツイートさせ、音楽ツアーでバナーを掲げればいいという時代が終わったことを認識しています」。

大切なのは、ビッグデータの重要性という基本を理解してもらうこと。一度興味を示してもらえれば他のプロジェクトにも巻き込むことができる。なぜなら、「ビッグデータは、知れば知るほど使うようになり、使えば使うほど発見がある。魔法を作り上げているようなもの」だとロビショードはいう。だが実際は、ベーシックな知識すらなく、恐怖を感じているクライアントも多い。「私たちは基本に立ち戻り、人々を教育するようにしている」


IBMの場合「リアルタイムにデータを分析し、ビジュアル化することは、日々のビジネス決断において重要」

「IBM」はハリウッドのスタジオと仕事をしている。だいたい1本の映画の製作費は約1億5000万ドル。そこにマーケティング費の7500万ドルを加えた投資額を、大体いつ頃、ボックスオフィスから回収できるか。それを見極めるのに少なくとも2~3週間かけていた。

それが現在は、初週末を待つまでもなく、木曜夜の先行上映が終わった時点で読めるようになった。つまり、スタジオが今後取り組むべきは、「映画の興行をより正確に予測するために、いかにインタラクティブかつリアルタイムに、現行の施策を調整できるようなシステムを築けるか」ということとなる。

「私たちはこれまで、スタジオ各社とともに、アンケートや試写会、フォーカス・グループ・インタビュー、ジャンル分析など、映画興行を予測するためのすべての伝統的なデータを取り入れながら、次世代認識構造を作り上げてきました。今は、言語データ、社会分析データを自社のシステムで解析し、それは時とともに、より賢くなっています。過去18カ月で、少なくとも30本の映画にそのモデルを活用しました」と同社が開発した情報から学び、経験から学習するコグニティブ・テクノロジー、IBM Watsonを引き合いに説明する。

社内に優秀なデータ・プラットフォームを持つことにより、週ごとに観客を理解し、彼らが何を好み、何を嫌うのかといったことを研究する。映画公開時の成績を予測する能力は格段に上がり、公開日から2週前、4週前、6週前、8週前、12週前というように逆算し、効果的なマーケティング・キャンペーンをカスタマイズできるという。その作品がアピールするべき観客の属性というデータと、伝統的なデータとの融合は、より深い洞察を生む。

そのプラットフォームを作るために、「多くの場合、どのデータをキープするかで議論になる。どのデータにアクセスするのか? 最大限に活用するためにどう整理するか? データの価値を引き出すための構造はできているか? などといった、ビジネス面での膨大な数の質問を受ける。特に、伝統的なメディア企業は、こうした動きに応じた変革を考えているからだ」とIBM海外メディア&エンタテインメント産業部門統括マネージャーのスティーブ・カネパ。

今、世界で最も求められている技術者は、データサイエンティスト。データをどう取捨するか答えるためには、よいデータサイエンティストが必要だ。だが同時に、ビッグデータの解析とは、特定の人のみができるものと決めつけないことだともいう。誰かが謎を紐解き、すべての答えをくれると考えてはならないわけだ。

データ分析はビジネスの根幹だ。そのため、それをより直感的なものにするために、より認識しやすいものにするためにはどうするべきか? 企業の重役がデータを視覚的に見て、意思決定を下せるように、データ解析をビジュアル化するためにはどうするべきか? クライアントが組織的かつ構造的に、データから最大限の価値を引き出し、適切な時間に適切なデータを容易に活用して、意思決定に生かせるよう指南する。リアルタイムにデータを分析し、提出し、ビジュアル化することが、日々のビジネス決断において重要なのだ。

Yahoo!の場合「詳細な事例を積み上げた上で、適切なデータ要素を選択」

そのビッグデータから抽出されるデータの精度や整合性は重要なポイントだ。消費者を取り巻くインプレッションやデータ認証、動画も複雑かつ重要なものになってきている。膨大なビッグデータの中には、非効率的なデータもある。特定の仮説や詳細な事例に沿ったデータ解析を心掛けている。

「広告主は、消費者がクリックしたか? オンライン申し込みを行ったか? というだけでなく、実際にトヨタ販売特約店に足を運んだのか? トヨタの車を見たのか? ということを知りたい。知りたいのは、オンラインで靴の広告を見た後に、実際に百貨店のノードストロームに足を運び、靴を買ったのか? ということだ」とYahoo!海外事業部門長のジョン・ディバイン。「対象となる産業に応じて、詳細な事例を積み上げた上で、適切なデータ要素を選択する。多くの会社はこうした情報を購入することにより、賢い意思決定をすることに成功している」

Publisher Platformsの場合「認証データはオープンな情報として誠意をもって共有されるべき」

Publisher Platforms海外事業部長のティム・マールマンは、多くの企業が持つ自社データのうち、“認証されたデータ”に注目する。

「活用したいのは、認証されたデータです。認証データを活用すれば、ユーザーと、支払い請求が可能な関係をすぐにも築くことができる。通信会社やメディア会社は、こうしたユーザーとのつながりをオンライン、オフラインで持っています。広告的な視点から見ても重要。認証データは、オープンな情報として誠意ある態度で共有され、パブリッシャーやメディア企業が正確にユーザーとエンゲージする方法を把握するために使われるべきだと思う。もちろん、多くのパブリッシャーがデータをマネタイズしたいと考えているはず。

しかし利益とはそれだけではありません。ユーザー数やエンゲージメント率、継続率を高めるために行った施策がどれほどユーザーを反応させたかを把握するのは大切なこと。ウェブサイトにアクセスしたユーザーから得られる情報はたくさんあります。認証企業は、クライアント以上に、クライアントのユーザーをよく知っています。認証企業が持つデータを共有することで、コンテンツ・プロバイダーのトップに躍り出ることも可能なのです」。

いくらコンテンツが素晴らしくても、なにもしなければユーザーはそこに集まっては来ない。エンゲージメントに関するデータがあれば、コンテンツを作り続けるべきか、コンテンツ発信のために第三者と提携すべきか、判断することができる。エンゲージメントは、作品や商品に人々を誘い込むために必須な情報なのだ。認証されたデータは、それ以外のデータとは一線を画すリアルな要素だ。

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次回「ビッグデータビジネスの現状 」の最終回では、このエンゲージメントの有効な使い方について。
業界の多くの重鎮が、なにを進化させるべきか思い浮かべるだろう、リアルタイムとビッグデータ、そしてエンゲージメントの融合についてレポートし、ビッグデータのよりよい活用法をまとめる。

Variety's Big Data Summit: ビッグデータビジネスの現状 レポート