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世界映画興行概況(後編)配給と興行の協業を取り巻く4つのトレンド - ​CinemaCon 2017レポート
公開日: 2017/04/21

20世紀フォックスインターナショナル社長アンドリュー・クリップス氏講演より

Author:梅津 文

 

世界中の興行企業向けのコンベンション、「CinemaCon」が2017年3月27日から30日までラスベガスで開催され、様々なトレードショー展示やセミナー、プレゼンテーションが行われました。その中から、20世紀フォックスインターナショナルの社長であるアンドリュー・クリップス氏によるプレゼンテーション「世界興行市場概況」 ( International film business overview ) に関してレポートします。今回は後編です。(前編「世界映画興行概況(前編)2016年世界興行統計数値から」)


ハリウッドメジャーのトップの立場から、好調が続く映画興行ビジネスがさらに発展していくうえで、配給部門と興行部門がどう協業していくべきなのか、4つのトレンドキーワードを示しました。


世界映画興行市場は好調だが、今起こっている変化を前にさらに成長する上では
配給と興行さらなる協業が必要

映画興行は、好調だが、そんな中でも、我々が懸念すべきこともある。「他にいくらでも選択肢があるなか、いかにしてデジタルを利用している消費者が映画館に足を運ぶよう、継続的に動機づけするにはどうしたらよいのか?」などといったことだ。我々は、より切実な投げかけを自らに課す必要がある。


今週私が頻繁に耳にした言葉は、パートナーシップだった。配給会社が、プレゼンテーションの中で映画館主に対して、「ありがとうございます」と述べるのを耳にすることも多いだろう。そのようなパートナーシップは、我々の業界全体としての成功の根幹であり基礎だが、それは互恵的なパートナーシップなのか? 我々は、本当に満足できる成果を得られるような「協業関係」にあるパートナーなのか? そして、何よりも大切なこととして、今よりもっと良い関係を築くことはできないものだろうか?

 

我々がより良く協業することが可能なケースは多くあり、真のパートナーシップは両者にとって有益であって、より大きな成果につながる方法のひとつだと、強調したい。私が前回この場に立ってお話ししたのは、2011年のCinemaConのインターナショナルデイだったが、その6年後に業界は大きな技術的進歩を遂げた。しかし、配給会社と映画館主のパートナーシップには、まだ改善の余地が残されている。この方面のトレンドに関する所見を、簡単に紹介する。


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1. 統合 ( Consolidation )

まず、統合。統合や映画館のスペースについての記事を目にする機会も多く、またその傾向は続くと考えて間違いないだろう。長年にわたって、6つの映画会社は非常に細分化された映画館業界と付きあってきた。だが、その状況は急速に変わりつつあり、大規模な国際的映画館ネットワークが台頭している。

AMC(北米で2番目に大きな映画館チェーン)、シネマーク(アメリカの大手映画興行チェーン)、CGV(韓国CJグループ運営のシネマコンプレックス)、そしてシネポリス(メキシコ最大の映画館運営会社)は、それぞれの本国という枠を飛び出して大きく成長している企業のほんの一例だ。それらを脅威と見る向きもあるが、私は非常な好機だと捉えている。顧客中心であり映画館と観客をつないでゆけるような、より深く協力的な関係を築く機会だと考える。

2. プレミアム化 ( Premiumization )

MPAA Motion Picture Association of America の統計によると、現在世界中には2,300のPLF(大型プレミアム形式)のスクリーンがあり、その数は急速に増えつつある。映画館主は、その成果を認め、映画館と自宅での映画鑑賞を大きく差別化するコンセプトとして受容するようになった。

 

レーザープロジェクション、リアルな音響、4D設備や素晴らしい顧客サービスを備えた超大型スクリーンが、世界中に増えていくのは間違いない。そうした超大型スクリーンでの上映が興行収入の大きな一角を担い、チケットの平均価格が上昇することで、配給会社や映画館主にとってのメリットになる。我々のいずれもこのメリットに関しては意見が一致し、継続的に広めていくことになるだろう。

3. データ ( data )

先週の会議で、デューク大学の教員から非常に興味深い発言があった。

「ビッグデータがティーンエージャーのセックスのようなものである。誰もが話題にするが、誰も正しいやり方を知らない。全員が他の皆がやっていると言うため、誰もが自分たちもやっていると主張する」


デューク大学のダン・アリエリーの言葉だ。ビッグデータに関する状況をよく言い表している。

我々も承知のように、様々なプラットフォームやタッチポイントで、消費者に関する膨大なデータがとれる。増加の一途をたどるモバイルやオンラインでの映画チケット販売もそのひとつである。

問題は、誰がそれにアクセスできるのか、そしてアクセスしたとしてそれをどうしたらいいのか、ということになる。「入手可能なデータをフルに活用できる体制はできているのだろうか?」この質問に対する答えは、現時点では間違いなく「ノー」だ。だからと言って、データを利用しようとする共同の試みを止めるべきだという意味ではない。


配給会社にデータを販売して収入源とする可能性を考えた者もいる。しかし、それは我々が醸成すべきパートナーシップの本質に合致しないだけでなく、非生産的ですらあると考えている。配給会社は、世界中で映画をマーケティングするために何百万ドルもの資金を投下する。消費者が映画館に足を運ぶ行動に関するデータとされるものが、マーケティング活動をより的の絞られた効果的効率的なものにできるのであれば、それはすべての関係者にとってメリットとなるだろう。


我々(配給会社)も、消費者についてデータを持っている。どんな人が映画やマーケティング素材に反応しているかを示す調査データや、デジタル広告のCTR ( Click Through Rate ) などだ。我々が協働でパーソナライズ化した消費者コミュニケーションを実施し、消費者のトラッキングやプロファイリングを行い、顧客のエンゲージメントを強化できれば、それはデメリットであるはずがない。


我々は、この点で他の業界に大きく水をあけられている。通信会社や旅行会社の消費者に直接コミュニケーションしているのを思い浮かべてみると、映画業界でも同じことができるはずだが、それには我々の協業が必須なのだ。

4. マーケティング ( Marketing )

最後に、マーケティングについて。映画会社として、我々は毎年多大な時間、手間、労力、資金を投じて調査を実施しマーケティング素材を制作して、様々な層の消費者が我々の映画に興味を持ってくれるよう働きかけている。その一例が、予告編やポスターだが、それらが映画館の手に配布され、上得意、つまり頻繁に映画館に足を運ぶ層に対して露出される。


しかし、世界の中には、消費者が映画館に再び足を運ぶよう関心を喚起する取り組みを実施するのに、こちらサイドに更なる費用負担を要求する場所もある。すると、人を雇って映画館で実際にどの予告編が上映され、どのマーケティング素材が掲出されているかをチェックしなければならない。そうしてやっと情報がすぐに入手できることになる。


個人的には、第三者にお金を払って我々のマーケティング方法を改善するよりも、そういった情報を共有しマーケティング予算をより効果的に使えるよう計らう方が理に適っているのではないかと思う。

いろいろな映画会社が、時間と資金を投下して映画を製作しマーケティングしている。映画を上映すると決めた以上は、映画のマーケティングやプロモーション活動を支援する意味で、暗黙のうちにパートナーシップや共同プロモーションに取り組まねばならないのだということを強調させていただきたい。


それが非常に素晴らしい形で実行されている事例も数多くあり、そのようなケースについてはコンセプトを理解していただける企業と協働できたことを誇らしく思う。事実、フォックス・インターナショナルは、国際的な大手興行会社との間で、実に先進的なマーケティングパートナーシップを組む機会がいくつかあり、いずれも非常に互恵的であり効果的だった。我々は、ビジネスに対してはオープンであり、今後も多くの人々と協働できることを心待ちにしている。


   

時代の好機をとらえて映画の未来を明るく

「May you live in interesting times(君よ、いい時代にあれ)」とは16世紀の中国のまじないの英語版だが、これはまさに今日の映画業界にあてはまる表現だと思う。我々は実際にいい時代を生きており、それに感謝すべきだ。

映画というビジネスは、世界中で活況を呈しており、他に興味を惹かれるものが多数あるなかで、豪華な映画館で上映され、最新技術を駆使して最高の鑑賞体験を提供できる映画を、うまくイベント化しマーケティングすれば、消費者はしっかりと反応してくれる。映画の収益面において映画館での興行収入は今まで以上に重要となり、それがまた業界を牽引している。


配給会社と映画館主が本当のパートナーシップでつながり協働し、最新のデータ分析ツールを総動員して互いのマーケティング活動を効果的に補完しあって、その結果さらに強いコラボレーション的なパートナーシップを構築できれば、未来は明るく、映画館での映画鑑賞が消費者の日常的な選択肢のトップに君臨し続けるものと、私は信じている。


前編「世界映画興行概況(前編)2016年世界興行統計数値から」のとおり、世界興行市場が好況に沸くなか、CinemaConの初日朝にクリップス氏が示した4つのトレンドは、映画ビジネスのさらなる発展のヒントです。特に「データ」については今年のCinemaConにおいて例年よりもよりホットトピックとの扱いとおっしゃっておられる方もいました。CinemaConに限らず、他のVariety誌主催のロサンゼルスでの映像ビジネス関係者が集まるカンファレンスなどでもマーケティングにおける「デジタル化」と「獲得可能データ量の爆発」が、より効率・効果の高い宣伝を実現するだけでなく、協業・組織の在り方までを変革しつつあることを感じました。

データは意図をもって他のデータと組み合わせられ、意味ある形と量が確保されれば価値が増す。価値創造を考えると「データは集まりたがる」と思うのです。クリップス氏が講演でテーマとした配給と興行の協業にも関係しているでしょう。データ同士が意味ある形でくっついたとき、「マーケティング」に新しい可能性がもたらされることはもちろん、顧客の多様な嗜好を満足させる「プレミアム化」のオペレーションにも役に立つ、そういったデータの性質は、クリップス氏がいうグローバルスケールでのビジネスの「統合」のドライバーの一つにもなっていると思います。

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