『コンフィデンスマンJP』ヒットに見る勝ちパターンの変化
公開日: 2019/05/31
『コンフィデンスマンJP』 公開中
©2019「コンフィデンスマンJP」製作委員会
<シネマの週末・データで読解:週末興行成績(25、26日)>
1. (1) | コンフィデンスマンJP | (2週目) |
2. (NEW) | 空母いぶき | (1週目) |
3. (2) | 名探偵ピカチュウ | (4週目) |
4. (NEW) | 貞子 | (1週目) |
5. (3) | キングダム | (6週目) |
6. (4) | 名探偵コナン 紺青の拳(フィスト) | (7週目) |
7. (5) | アベンジャーズ/エンドゲーム | (5週目) |
8. (NEW) | プロメア | (1週目) |
9. (8) | 映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン−失われたひろし− | (6週目) |
10. (6) | うちの執事が言うことには | (2週目) |
※()の数字は前週順位。興行通信社調べ
週末ランキングは『コンフィデンスマンJP』が2週連続で1位だった。フジテレビ製作作品で、同局で昨年放送されたドラマと連動している。今回の映画が公開された週末には、2時間の特別ドラマが放送された。
映画製作において民間放送局が果たす大きな役割には、自媒体を使って話題度を高めることと、コンテンツの企画・プロデュース力を発揮することという、二つの側面がある。本作のヒットには後者の側面も大きく貢献していた。
本作の公開前の浸透度を数値で見ると、認知率も高めであるが、特筆すべきは、作品認知者の中での意欲率の高さである。これは、見たい人がその映画を知っている、その映画を知った人は見たくなっている、という度合いの高さであり、「作品のストライク度」ともいうべき値である。この「認知者内の意欲率」の値は邦画の平均で5%弱であるが、本作は12週前から一貫して高く、公開週も9%。これは、今年大ヒットしている『名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)』と『アベンジャーズ/エンドゲーム』に次ぐ高さである。
本作のヒットは、メディア露出という力業で認知率を広げるだけでなく、意欲喚起力が高かった。テレビ局の発信力とプロデュース力の高さが垣間見られたヒットといえよう。
(GEM Partners代表、梅津文)=毎月最終金曜日掲載
『コンフィデンスマンJP』の意欲/認知率の高さ
2018年1月1日から2019年5月25日までに公開された劇場映画における公開週の浸透度を下図に示した。横軸は認知率、斜めに走る等高線が意欲率、縦軸は意欲/認知率を表している。こうしてみると、前述のとおり『コンフィデンスマンJP』は認知率が高いが、意欲/認知率も高いことが分かる。
意欲度向上のための戦略の変化
2014年から2018年までに公開された劇場映画における年別平均浸透度の推移を全体、邦画、洋画別に集計して下図に示した。いずれも、少しずつ、左上に動いていることが見て取れる。つまり、意欲率の傾向は変わっていないが、認知率は少しずつ減少し、代わりに意欲/認知率が上がっていることが分かる。
ここから、同じ意欲率を達成するための方法として、認知率を高めることから、意慾/認知率を高めることに比重が移っていることがうかがえる。つまり、興行収入を上げること(=意欲率を高めること)は、認知ドリブンから、意欲/認知率ドリブンに少しずつシフトしているといえる。
意慾/認知率を上げる、つまり、効率よく意欲率を上げるためには、絶対的訴求度の向上(=多くの人が見たくなるような企画・宣伝クリエイティブにする)、または高ポテンシャル層へのターゲティング(=見たくなる人たちに集中的に知ってもらう)がある。とるべき手段はそれぞれのコンテンツのもつ潜在市場の大きさや構造によって変わってくるが、このことも含めて映画興行収入最大化の勝ちパターンが少しずつ変化してきていることが、こういった数字からもうかがえる。
意欲率:映画観賞者全体の中で、本作を「絶対に映画館で観る」と回答した人の割合 (「すでに観た」と回答した人は含まない)
※「映画鑑賞者」は、過去1年間に映画館で1本以上映画を観た人
◆掲載元◆
毎日新聞:シネマの週末・データで読解 『民放の力で「ストライク」』(毎日新聞2019年5月31日 東京夕刊)
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