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第1回:価値づけを生み出す3つの装置(アニメ編)
公開日: 2023/04/07

特集:海外における日本のマンガ・アニメの価値づけの状況~新潟国際アニメーション映画祭 第1回

新潟国際アニメーション映画祭のForumにて3月20日、アカデミック・プログラム「文化庁+開志専門職大学共同調査 海外における日本のマンガ・アニメの価値づけの状況」が開催されました。同プログラムでは、マンガ、アニメそれぞれの調査結果の概要発表とそれを受けたディスカッションが行われました。

特集第1回はまず、日本アニメに関する調査結果の模様をレポート。海外の研究家、教授、配給会社へのインタビュー結果をもとに、日本アニメが価値づけされるプロセスをアニメ・ジャーナリストの数土直志氏が明らかにしました。
※本記事で触れられている内容は2023年3月時点の情報です

《目次》
 

調査概要

本プログラム「海外における日本のマンガ・アニメの価値づけの状況」は、海外におけるメディア芸術作品の評価を上げるための価値づけ経緯の実態調査研究プログラムとして、文化庁と開志専門職大学が共同で実施した調査結果の概要発表の場として一般に無料公開されました。

冒頭、アニメ・ジャーナリストの数土直志氏より、海外における日本のアニメーションの評価はヒットの有無という数値的なものとは別に、映画の価値というものがあるのではないか、それは誰が、どのような基準やプロセスで決めているのかを把握することが本調査の始まりだったことが明らかにされました。調査では実際に価値づけを行っていると考えられる人を対象にインタビューを実施。対象国は文化の価値づけが盛んである点と、時間的な問題を踏まえ、フランスとイギリスに絞ったことがアナウンスされました。

アニメ・ジャーナリストの数土直志氏  

インタビューで垣間見た価値づけのプロセス

アニメ部門でインタビュー対象となったのは、欧米を代表する日本文化の研究家ヘレン・マッカシー氏(イギリス)、ブリストル大学映画テレビ学部教授で日本およびアジアの映画・テレビ文化が専門のレイナ・デニソン氏(イギリス)、パリを拠点とする映画の配給・製作会社Charadesの共同設立者ヨハン・コント氏(フランス)の3人。数土氏からはそれぞれのインタビューで得たポイントが紹介されました。

マッカシー氏は1980年代から2000年代にかけてアクティブに活動し、ファンコンベンションやアニメ雑誌の立ち上げ、さらに映画館でアニメを上映する編成を担うなど、日本のアニメ、マンガの普及に尽力してきました。インタビューで数土氏が着目したのは、日本のアニメがどのように評価されているのかという質問への答えでした。評価には、意見を交換しあう“ファンダム”、文化を広げる“評論家”、そして価値づけをおこなう“学者”の3レイヤーがあるのだといいます。

一方、教授であるデニソン氏は、アカデミックの役割について、それほどの影響力はないと答えたといいます。数土氏はデニソン氏のコメントに対し、「むしろ、ヘレンさんのような第1世代の役割が強かったのではないか、アカデミックっていうのは(当時)まだまだ弱いもので、今でこそ研究者が増えつつあるけれども、そんなに影響がなかったのではないか」と分析し、アーリーアダプターの重要性を示しました。

3人目となるコント氏のインタビューでは、映画祭がキーワードになりました。数土氏によると、『竜とそばかすの姫』の細田守監督の評価が海外で急激に高まっている理由を探ったところ、コント氏にたどり着き、彼がヨーロッパで細田監督を戦略的に押し出していることが分かったといいます。そして、インタビューを通じて、ヨーロッパで評価されるには評論家やメディアも必要だけれども、映画祭が非常に重要視されていることが明らかになりました。映画祭に取り上げられることによって、評論家が評論し、メディアが取り上げていく流れがあるのだといいます。ただし、日本の監督すべてでできるわけではなく、細田監督とスタジオ地図が海外進出に対して非常に協力的であったことが奏功したとの指摘もありました。

 

価値づけを生み出す装置<人><映画祭><メディア>

調査を通じて、数土氏は価値づけを生み出す装置として<人><映画祭><メディア>の3つを挙げました。<人>に関してはさらに3つに分類し、「一つは“アーリーアダプター”ですよね。作品を見つけてそれをピックアップしていく。まさにヘレンさんみたいな方だと思う」と解説。そして2つ目として“密なコミュニティ”を挙げ、配信の発達により、かつてはアーリーアダプターが紹介していたものが、現在は誰でも一緒に見られてしまう状況になったことを受けて、「ファンコミュニティの人たちが、良いと言い出すところ、まさに口コミみたいなところ」と説明。そして、価値づけが最も形成される理由として、「既に権威づけられた人が、『良い』と評価する」ことを挙げました。

2つ目の装置、<映画祭>についてはコント氏のインタビューの影響が大きいといいます。そして3つ目の装置<メディア>については、「やっぱり権威づけられたメディアというものがある。そこで批評、評論されることも非常に重要だと思います。あともう一方で、メディアには拡散するという役割がある。これはポピュラリティとかぶってきてなかなか難しいですが」と、権威づけと拡散の双方からメディアの役割を論じました。

海外で日本アニメの価値づけを生み出す3つの装置を提言した数土氏。しかし一方で、日本側のアクションの重要性も語りました。「商業主義とは別の場所で価値づけされたものがあるときに、それは自然と生まれるのか、ほっといてもそれは永続的に続いていくのかっていうと、そうではない。僕らは価値づけに対してアクションをしなければいけないんじゃないか。逆に言うと何もしなければ商業主義に価値づけっていうのは押し消されていくんではないでしょうか」。

(取材・構成:河西隆之)

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