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第3回:価値づけプロセスの再現性(マンガ・アニメ)
公開日: 2023/04/21

特集:海外における日本のマンガ・アニメの価値づけの状況~新潟国際アニメーション映画祭 第3回

新潟国際アニメーション映画祭のForumにて3月20日、アカデミック・プログラム「文化庁+開志専門職大学共同調査 海外における日本のマンガ・アニメの価値づけの状況」が開催されました。同プログラムでは、マンガ、アニメそれぞれの調査結果の概要発表とそれを受けたディスカッションが行われました。

特集第3回は、マンガ、アニメの調査結果を踏まえたパネルディスカッションの模様をレポート。アニメの価値づけに必要な映画祭に出品する秘訣にはじまり、マンガに求められるアクセス力や、価値づけ対象を作品とするか作家にするかについての提言、そして価値づけで得られる恩恵にまで話は及びました。パネリストの専門性に裏打ちされた事例や分析に注目です。
※本記事で触れられている内容は2023年3月時点の情報です

モデレーター
成田兵衛:開志専門職大学 アニメ・マンガ学部長代行・教授

パネリスト
堀越謙三:開志専門職大学 アニメ・マンガ学部長・教授、ユーロスペース代表
椎名ゆかり:文化庁メディア芸術担当調査官
数土直志:アニメ・ジャーナリスト
梅津文:GEM Partners株式会社 代表取締役
《目次》
 

アニメの価値づけに求められる映画祭出品の事例

パネルディスカッションではまず、調査結果で明らかになったアニメが価値づけされる際に重要な映画祭に着目。ヨハン・コント氏のインタビューで判明した第74回カンヌ国際映画祭オフィシャル・セレクション「カンヌ・プルミエール」部門に選出された細田守監督『竜とそばかすの姫』の事例が数土直志氏より明かされました。

細田監督作品は同作以前に、『バケモノの子』でサン・セバスティアン国際映画祭コンペティション部門、『未来のミライ』でカンヌ国際映画祭の並行部門である監督週間にそれぞれ選出されています。コント氏によると、カンヌ国際映画祭出品への動きは、『バケモノの子』から始まっていたといいます。なぜならば、監督週間は良作が並ぶサン・セバスティアン映画祭出品作を常にチェックしており、さらにカンヌ国際映画祭は監督週間出品作を目配りする流れがあるからだと解説しました。つまり、その流れに乗るため、まずはサン・セバスティアン国際映画祭に焦点を定めたのだといいます。

配給・興行を手掛けるユーロスペース代表の堀越謙三氏からは、実写であるとの前置きの後、同社が配給協力を行った北野武監督『キッズ・リターン』の事例が紹介されました。同作はカンヌ国際映画祭監督週間に出品されましたが、その宣伝時にはエリート主義的批評家による権威づけがなされたといいます。堀越氏は、フランスの映画批評誌『カイエ・デュ・シネマ』の編集長であるジャン=ミシェル・フロドン氏に同作の批評を依頼しました。堀越氏は、「説得するのはなかなか大変でしたけども、彼も才能は認めると思ってくれた」と当時を振り返りました。結果、フロドン氏の影響力もあり、高い評判を得て、カンヌ国際映画祭までたどり着いたと言います。「価値づけっていうのは、どういうふうにしていくかっていうことを初めて意識した一件でした」(堀越氏)。

 

マンガに求められる「アクセス力」

文化庁メディア芸術担当調査官の椎名ゆかり氏からは、世界最大の書籍見本市であるフランクフルト・ブックフェアの事例が紹介されました。海外ではアニメ化された人気作品がマンガ市場をほぼ占めている状況を危惧し、多様な作品を受け入れてもらうべく、同フェアへの出展を企画したといいます。「書籍を専門としているブックフェアで、あえて女性漫画家さんの展示を行いました。すると、知られる機会がないためにライセンスが売れていなかった作品への引き合いが相当数ありました」(椎名氏)。

数土氏はこのブックフェアの事例をうけて、レイナ・デニソン氏の調査結果から、マンガにはアクセス力が求められている点を指摘。海外の読者がマンガにアクセスする手段が足りていないため、アクセスできる手段(プラットフォーム)を増やすことが価値づけには重要であるとの提言を紹介しました。続けて、「アニメの評価が拡大した背景には間違いなく配信があったと思う。その意味ではマンガはまだポテンシャルが残っているんじゃないか」と分析しました。

 

価値づけ対象は「作家」か「作品」か

モデレーターの成田兵衛氏は調査結果を踏まえ、価値づけの対象として「作家」、もしくは「作品」というラインがあるのではと指摘し、マーケティングの見地からの意見をGEM Partners代表の梅津文に求めました。梅津は価値づけの事業化に触れ、「今まで作品は売られているけれど、人はあまりマーケティングされていないという話がありました。そこに大きな市場、ビジネスチャンスを感じます。価値づけのケースを調査することで、方法論を明らかにし、仕組み化、つまり事業化できるのだと思います。堀越さんのような仕掛け人の方がいれば、それを再現性ある形で展開していくことが可能なのではないでしょうか」と提言。そして、調査結果には事業化のヒントが多く含まれていることを強調しました。

堀越氏は興行・配給における作家主義の優位点に以前から注目しており、「作品だと1回で終わってしまうけれども、作家だとその監督が生きて作っている限り、蓄積したものがずっとたまっていくわけですよね。新作が出ると、過去の作品、要するにDVDが売れたり、テレビ局が買ってくれたりする。作家主義っていうのは、これは経営の秘密だからずっと黙っていたんですけれど、効率がいいですよね」と赤裸々に語りました。

 

伝える努力と価値づけの恩恵

“価値づけ”をテーマに進めてきた今回の調査。しかし、椎名氏から「価値づけというと恣意的で、ありもしないものを勝手に捏造するみたいに感じられるかもしれません」という懸念が挙げられました。椎名氏はそのイメージを払拭するため、「もともと素晴らしいということは分かっているわけです。そこで、価値づけを“伝える努力”と言い換えてもいいのかもしれません」と新たな視点で価値づけを表現しました。

最後にディスカッションの締めくくりとして、堀越氏から価値づけから得られている恩恵についての想いが語られました。「映画をやっていると日本人であることが得なんですよ。50年代のあの監督たちを見てない映画関係者はいませんからね。例えば映画祭に行くと、100カ国から映画作品が出てくるわけです。そうすると、当然みんな映画大国から見ていくんですよ。それはアメリカ、イギリス、それとフランスであり、日本映画なんですね。その優位性っていうのは、文化的な価値づけをやってきたことの恩恵を僕らが受けているということ。それを皆さんに知ってほしいなと思います」(堀越氏)。

(取材・構成:河西隆之)

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