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基調講演①興行 【後編】 「未来に向けた取り組み:PVRの事例紹介と世界映画産業へのメッセージ」
公開日: 2023/05/19

特集:CinemaCon 2023 “INTERNATIONAL DAY” 基調講演①興行 【後編】
cinemacon 2023

米ラスベガスにて開催された世界中の興行会社と配給会社が集まるコンベンション「CinemaCon(シネマコン)2023」(開催期間:4月24日~27日)から、初日に行われた“INTERNATIONAL DAY”の模様をレポート。本記事ではインド最大の映画興行会社PVR INOXのマネージング・ディレクターであるアジャイ・ビジリ氏の基調講演【後編】をお送りします。
※本記事で触れられている内容は2023年4月時点の情報です

登壇者
アジャイ・ビジリ(Ajay Bijli)
PVR INOX Limited:マネージング・ディレクター
PVR Cinemas(PVR Cinemas):創設者

映画館は常に進化を続けています。時代にあわせて、独自性のある新しいマーケティング・サービスや体験の提供に挑戦していくことは容易いことではありません。しかし、それに挑戦し続けているのが、インド最大の映画興行会社PVR INOXです。アジャイ・ビジリ氏は同社が運営するシネコンチェーンPVR Cinemasの創設者として、25年以上にわたって何百万人ものインド人の映画鑑賞習慣を変え、彼らに世界クラスの映画体験を提供し続けています。
《目次》
 

映画興行会社PVR INOX:入口から出口まで感動を提供

ビジリ氏は次に、自身が1997年に立ち上げたシネコンチェーンPVR Cinemasの運営で重要視していることについて明かしました。「私たちの哲学は、常に映画を称え広めていくことです。ご存知のように、インドでは映画を見に行くことは特別なことなのです。ですから私たちは、デザインから映画館のコンセプト、技術、飲食、マーケティング、カスタマーサービスまで、映画館におけるあらゆる面で消費者に配慮しています。消費者は、最高のエンタテイメント体験を求めるので、妥協は許されません。私たちは、入口から出口まで感動を提供する必要があるのです」。

ビジリ氏は来場者を感動させる重要な柱として常にデザインが優先されるべきだと説きます。「映画館のドアを抜けた瞬間から、ホワイエ、売店、客席に至るまで、観客を作り話の世界に連れていきたいのです。映画は観客を別世界に誘うものですが、私たちが創り出す世界も、スクリーンの中で展開されるものに近いものであってほしいのです」。

 

 

続いて、PVR Cinemaでは、IMAXをはじめ、4DX、ICEなど、映画館のコンセプトを差別化するために幅広いプレミアム体験を提供していることにも言及。その理由として、インドは非常に格差の強い市場であり、あらゆる来場者に備えた価格帯が必要であるため、最低2ドルから最高20ドルの鑑賞料金でプレミアム体験の提供を試みていることが明かされました。

 

また、飲食も重要なパートであることを強調。PVR Cinemaでは国内外の有名シェフを起用し、ポップコーンやコーラにとどまらず、多様な観客のニーズに応えるためにシネマフードを開始したほか、デリバリー事業をローンチしたことが告げられました。デリバリー事業は成功し、今ではインドで5番目に大きなQSR※となったことが告げられました。
※QSR:quick service restaurantの略で、あらかじめ調理されたファストフードを組み立てて顧客に提供する、カジュアルな飲食店のこと

PVR Cinemaが行っているデジタルエンゲージメントについても説明があり、マーケティングイベントをしっかりと固めたスケジュールを作成することが重要であること、そして、4000万人の会員情報を活用し、顧客のニーズを理解していることが示されました。

ここでビジリ氏はコロナ禍で直面した困難を改めて共有し、インド最大手のシネコンチェーンである自社PVRが2位のINOX Leisureと合併することを決断し、PVR INOXになったことを振り返りました。「2020年3月に突然すべてが停止し、他の映画会社同様、当社もひどい影響を受けました。しかし、私たちはこの暗闇の中に光を見出そうとしました。そして、逆境の中で機会を見出したのです。ウィンストン・チャーチルの有名な言葉にあるように『良い危機を無駄にしてはいけない(Never let a good crisis go to waste)』のです。そして、私たちも無駄にしませんでした」。

合併は今年の初めに完了し、PVR INOXは上場しているシネコンチェーンで世界5位の企業となりました。ビジリ氏によると、年間来場者1億8000万人、年間売上7億ドル規模の企業となり、インド115都市で359館1680スクリーンのシネコンチェーンを運営しているといいます。さらに、1スクリーン当たりの年間入場者数も12万6000人と業界トップクラスであることも付け加えられました。

 

興行会社、スタジオ、動画配信事業者それぞれが取り組むべきこと

基調講演の最後にビジリ氏は自身の経験にもとづき、興行会社、スタジオ、動画配信事業者が果たすべき役割について提言を述べました。

興行会社:実験的な取り組みにもっとチャレンジせよ

ビジリ氏はまず、興行会社に対して……(以下、会員限定記事にて掲載)

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