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世界から見た日本映画興行市場の特色
公開日: 2018/02/09

グローバル映画興行市場のトレンド ~CineAsia 2017カンファレンスレポート(1)~

この連載は、2017年12月中旬に香港で開催された、世界各国の映画興行・配給関係者が集まるコンベンション「CineAsia 2017」内のカンファレンスICTA(International Cinema Technology Association)主催のセミナーのレポートです。
日本を含むアジア各国映画興行市場の特色、世界の映画興行のトレンドについて、20世紀フォックスのカート・リーダー氏が語ったセッション内容を5回に渡りお届けします。

※本記事で触れているサービス内容はカンファレンス開催(2017年12月)時点の情報です
 

スピーカー:
カート・リーダー(Kurt Rieder)
20世紀フォックス(Twentieth Century Fox) アジアパシフィック劇場配給担当上級副社長

アジア興行市場の特筆すべき成長:インド・中国・東南アジアの発展

2016年のAPAC(アジア太平洋)の興行収入はドルベースで149億ドル、世界における興行収入の39%(ドルベース)を占めていました。当時、ドルが強かったことを勘案すると、極めて大きな数字です。APACはパーセンテージが非常に大きかっただけでなく、2015年から2016年にかけての成長を見ても、ドル換算の伸長額において他の地域をすべて合計したよりも大きな伸びを示しました。

2015年から2016年にかけての地域別増減:
北米         前年比3.1億増ドル  1%増
中南米        前年比0.04億ドル増  0%増
ヨーロッパ      前年比0.85億ドル減    1%減
中近東アフリカ    前年比1.5億ドル増     19%増
APAC(アジア太平洋) 前年比7.54ドル増      15%増  


APAC内の主要各国2012年から2016年にかけてのMPAスタジオの全媒体計の映画収入の伸長(ドルベース):

 

 

2012年から16年にかけてのMPAスタジオの全媒体計の映画収入の伸長は、中国が約3倍増、ベトナムは約150%増、インドネシアが約120%増でした。他の地域に目を移すと、オーストラリアとシンガポールは5%と6%、つまりほぼ横ばい。この2ヶ国は成熟市場だと考えられます。残りのAPAC諸国は劇的な成長を遂げています。

 

この先5年を考えても、同様の傾向になるのではないかと思います。理由は、世界で最もGDPの成長が速いのはアジアの主要都市だからです。インド、中国、東南アジア。GDPが伸びているところでは、興行収入の伸びも期待できるのです。

事例の紹介:日本の社会構造・生活者の特徴と映画館客層

日本におけるトレンドを詳しく紹介したいと思います。本年度のCineAsiaとして最優秀配給会社の栄誉を授与する配給会社が存在する国だからです。

日本は、失業率も賃金上昇率も低いという変わった組み合わせの国です。そのせいか、独身の日本人のほとんどに交際相手がいません。(「セックスレス日本」現象:18歳から34歳の独身男女の70%に恋人がいない)このことを反映してか、東京の映画館にはなんと「一席ごとに独立しているプレミアムシート」があります。私はこれを「ノーカップルシート」と呼んでいます。

さらには、日本においてもインスタグラムが女性の消費をけん引しています。世界中で起こっている現象ですが、日本では特に大きな意味を持っています。可処分所得の多いOLたちは、写真を撮った後はつついただけで残してしまう夕食に200ドルかけても何とも思わないのです。

また、非常に不思議なことに、日本は人口の高齢化と人口の逓減にもかかわらず、全国で大幅にシネコンが増えています。世界でもトップクラスの映画館が日本にあります。この国ではプレミアムスクリーンの人気が高まっていて、映画館の運営会社がこぞって大規模な投資を行っているのです。(IMAX・PLFスクリーン(Premium Large Format)は48スクリーン、シートが動くスクリーンは85スクリーン)

日本興行市場において外国映画に課せられたチャレンジ

◆外国映画鑑賞者は高年齢化、女性にどう訴求するか
観客層についていえば、ハリウッドメジャースタジオにとっては残念なことですが、外国映画の観客の中心は40代以上の男女で、男性の方は映画ファンだけとなっています。この層の男性は、少年時代から映画ファンであり、成長し、仕事を持ち、子どもを持った今でも、80年代90年代に好きだったシリーズを観に来たりします。
問題は、この年代層の男性に向けた映画が少ないことです。
 



興行収入トップの『美女と野獣』が1億1100万ドルの興行収入を上げられた理由は、あれが女性向けの作品だったからです。日本の映画製作者が女性向けの映画を作っているのに対して、ハリウッドからは、周知の通り女性ターゲットの作品はあまり出ていないため、日本での興行収入ランキングとアメリカのそれは、かなり異なる様相を呈するものと思われます。

◆競争の激化
日本では、2016年に610本の外国作品が公開されました。毎週約12本という計算になり、その結果、スタジオは劇場内での宣伝機会が減り苦戦するという状況になっています。特に、日本のシネコンは非常にミニマリストであり、あまり物を置いてくれないのです。

◆邦画アニメジャンルの強さ
さらには、2017年については、邦画のトップ10の半分がアニメです。
日本のアニメ映画はどんな客層がみているのか?ある可愛らしいアイドルのような少女たちが主人公のアニメ作品があったのですが、私は先月、東京の映画館に行って「この映画のターゲットはどんな層ですか?」と支配人に尋ねたところ、皮肉でも何でもなく、「お客様の90%以上が30代以上の男性だと思います」という答えが返ってきたのです。これには本当に驚きました。

< (2)アジア各国の映画興行市場の特色 に続く >

グローバル映画興行市場のトレンド シリーズ

  • (1)世界の中の映画興行市場の特色
  • (2)アジア各国の映画興行市場の特色
  • (3)技術革新がもたらす新たなトレンド
  • (4)非連続な変化("Disruption")と映画興行
  • (5)小売り市場の変化の意味合い