セミナー①「世界映画市場を俯瞰する」 【第2回】「作品があれば、観客は来る」作品の量と質、そして多様性を担保すべき
公開日: 2023/06/02
米ラスベガスにて開催された世界中の興行会社と配給会社が集まるコンベンション「CinemaCon(シネマコン)2023」(開催期間:4月24日~27日)から、世界映画市場の未来について、米ディズニーでグローバルの劇場配給部門を統括するトニー・チェンバース氏とオーストラリア最大手の興行会社イベント・シネマをはじめ、世界各国で興行会社を運営するEVTのCEOジェーン・ヘイスティングス氏が対談したセミナー「Globally Speaking: A Look at the Global Marketplace」の模様を4回に分けてレポートします。
第2回はコロナ禍の興行不振の理由に着目し、“観客は常にいる”が、供給される作品のジャンルや質、量に問題があったと分析。さらに中小規模作品のサポートが市場の活性化を招くと説きました。
※本記事で触れられている内容は2023年4月時点の情報です
ジュリアン・マルセル(Julien Marcel)
ザ・ボックスオフィス・カンパニー:CEO
登壇者
トニー・チェンバース(Tony Chambers)
ウォルト・ディズニー・カンパニー:劇場配給部門統括エグゼクティブ・バイスプレジデント
ジェーン・ヘイスティングス(Jane Hastings)
EVT:マネージング・ディレクター兼CEO
観客は常にそこにいる。興行の不振は観客の不在ではなく、作品の不在が原因
新型コロナウイルスの影響による興行不振時には、映画興行の未来を憂う声があふれていました。この状況についてヘイスティング氏は、「観客はいなくなってはいない、常にそこにいる。肝心の作品がなかっただけ」と断言。当時、興行の落ち込みに関する議論に使われたリサーチデータのどれもが、観客動員数を分析するのみで、“公開映画の種類”を分析していなかったと指摘しました。
「『ファミリー層はもう映画館に戻らない』という言葉を何度聞いたことかわかりません。でも、過去数年のファミリー向け映画の公開本数をみると、年間12本だったのが、8本になり、その翌年は6本……と減っています。12本あれば映画館に12回行く可能性はあるけれど、観る映画が6本しかなければ、6回しか劇場に行かないですよね。つまり、ファミリー層が映画館から遠のいたのではなく、その層向けの作品がなかっただけなのです。興行の数字の変化は、消費者欲求の変化ではなく、供給される作品のジャンルや質、量の問題。“観客は常にいる”のです」。
ファミリーもシニアも作品さえあれば映画館へ
そんなファミリー向け映画の具体例として、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を挙げたヘイスティング氏。「ファミリー層は、家族ぐるみで映画館で観られる作品に飢えていました。どの親も、子どもを外に連れ出し、子どもが楽しめて、自分は落ち着ける2時間を欲しています。本作公開時には、ファミリー向け作品が他にあまりなかったため、子どもの春休みに同作を2回観たという家族もいたほど。もちろん、作品の質がよかったことも貢献しています」。
ヘイスティング氏は、シニア層向けの映画についても触れました。「シニア層も、彼らが対象の作品があればチケット代を払って映画館に行く気があります。自社リサーチや同層の顧客との定期的な対話から言えることですが、彼らの足が遠のいているのは、行動パターンの変化ではなく、ただ彼ら向けの作品がないから。つまり、興行成績だけを見て、"特定のジャンルの映画が不振“と判断するべきではないのです。様々な作品のラインナップを積み上げることで、記録的な数字が稼げると楽観視しています」。
“観客は常にいる”という意見に、チェンバース氏も結果的に記録的な興行収入となった『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を引き合いに出して同調……(以下、会員限定記事にて掲載)
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