いま、世界を変えている潮流/paypal創業者・起業家のMax Levchinが語る五つのトレンドキーワード【SXSW2016レポート】
公開日: 2016/03/16
Author:梅津 文
ー Saturday, March 12 3:30PM - 4:30PM : "Unstoppable Trends that are Changing the World" URL Max Levchin (Affirm) |
SXSWでは連日膨大な量のセッションが開催されています。同じ時間帯に60個も異なるセッションがあり、「どれに参加しようか」は楽しい悩み事です。
この記事で扱うセッションが開催される時間、ほかのセッションを聞こうと思ってその会場に向かっていたのですが、その途中で、別のセッション会場前の長蛇の列に並んでいた知人と偶然会いました。日本のネットベンチャーの社長を経験し、現在はアメリカで活躍している知人らが聞くのなら面白いのかもしれないと思い、急きょ予定を変更して本セッションに飛び込んでみたところ、これが正解でした。
登壇者の Max Levchin は PayPal の共同設立者で元CTO。次々と様々な事業を起こすシリアルアントレプレナーですが、SXSW登壇者リストでの肩書は、 Affirm という個人向け金融機関の創業者兼CEOでした。
以下、セッション概要です。
◆
起業においては「でっかいアイデア」を追及しろ。そして自分がやらねば誰がやるんだという熱意で取り組め。
そして、起業においては、自分は世の中の流れやトレンドの中で今はまだ小さいけど、世の中を大きく良い方向に変えるものを探す。
1987年に公開された映画 『ウォール街』 では、マイケル・ダグラス演ずるゴードン・ゲッコーが大きな携帯電話を使って話をしている。そのタイミングで携帯電話が金融業界だけでなく、世の中にこれだけ普及すると見抜いた人が、スティーブ・ジョブスのようになるのである。
現在、自分が見ているトレンドテーマは以下の5つ。
1) beneficient = 善い行い、積極的に人々に思いやりを示すこと
これの真逆が、映画 『マネー・ショート 華麗なる大逆転』 で描かれていた金融機関。「0%金利」をうたって多くの人にお金を貸したが、小さい文字で書かれた膨大な説明書きをよく読むと、一回でも支払いが遅れたら最高率の金利で取り立てを行うとの記述がある。金融機関はこういった不明瞭なサービスで金もうけをしている場合がある。しかしそういった金融機関は破たんした。一方、自分が創立した Affirm は金融機関と全く同じ機能を持っているが、人々のためにわかりやすさと透明性を徹底するモデルである。それがたとえAffirm社の利益を減少させるものであったとしても。
資本主義の中では企業の利益の最大化が人々の便益と矛盾することがある。しかしAffirmのように人々の便益を追及することが、短期的に利益を減らしても長期的には大きな利益につながると考える。
2) AI(Artificial Intelligence 人工知能)/ロボット
近い将来にAIが人間の直感的な判断行動も再現できるようになるだろう。
すでに人々はスマートフォンというスーパーコンピューターをポケットに入れている。出かけた先でケガをしたとき、その写真をスマホで送れば、いくつものAIが治療が必要なのかどうか、必要ならば何をすべきなのかを判断する時代が来る。人間がやることは、複数のAIが50%50%で違う結果を出した場合にどちらをとるか判断することになるだろう。
3) software eating other software
膨大な種類のコンピューターソフトウエアが世の中に利用されているが、その中には大昔に作られてプログラム言語が古いものも多い。プログラム言語はどんどん増える中、すべての言語をコンピューターサイエンス学校で教えられなくなる。そうなったとき、そういった古いソフトウエアに取り換えられる新しいソフトウエアが必要となってきて、ビジネスチャンスになるだろう。
4) regulatory arbitrage
政府の方針や制度変更によって出現する機会を逃さないこと。政府の取り組みや制度改革を注意深く研究すると、時折、部屋の床に札束がばらまかれているような感じでビジネスチャンスが転がっていることがある。
たとえば、イーロン・マスク(同じくペイパル創業メンバー)の電気自動車メーカー Tesla は、数多くの革新的な技術を取り入れていて、多くの資金を必要としているが、その中で電気自動車の普及を後押ししている政府のサポートは大きい。
5) fractal knowledge
fractal(フラクタル)とは、
数学・物理用語で、どのように細かく分解しその一部を取り出し拡大しても,その部分が元の全体と同じ複雑な形を備えている形のことをいう。(ランダムハウス英和大辞典)
「フラクタル理論」は複雑で不規則な図形では、どの微小部分にも全体と同様の形が現れる自己相似性があり、したがって部分を次々に拡大すれば全体の形が得られるとする理論。山の起伏,海岸線など自然界にみられる形に多く、コンピューターグラフィックスや、樹木・海岸線・山脈などの形のシミュレーションに利用される。(デジタル大辞泉)
小さいマーケットでの大きなアイデアよりも、大きなマーケットの小さなアイデアのほうが大きなブレークスルーにつながる。大きなマーケットの小さなアイデア、そしてそれは今までにない根本的に斬新なものでなければならないが、そのアイデアを誰にも負けないぐらい極めて、追随を許さないノウハウ、コスト競争力を得ることができれば、きっかけ次第で大きくスケールアウトすることができる。
たとえば、今はアメリカで普及している UBER は、もともとはニューヨークの黒塗りハイヤー提供サービスのアプリとしてスタートした。このアプリは様々な革新的な機能を追加していったが、そのなかでこのサービスはハイヤーだけでなく、「移動全般」「ロジスティクス」の革命につながると気づいた人がいて、今に至っている。
つまり、「ニューヨークの黒塗りハイヤービジネス」の持つ構造と課題は、「移動手段」「ロジスティックス」という大きな産業においても同じ、フラクタル構造だったということ。
このように、小さな基本的なアイデアを突き詰めていき、より広いマーケットにインパクトを与えられる "フラクタルな知恵” を得ることが肝要である。
◆ ◆ ◆
テキストではいま一つ伝わらない気がしているのですが、非常にインスパイアリングな内容でうなりました。聞いた後にちょっと背が伸びたような気分がする、あれです。すごくいい映画を観て、高揚したときのような、あれ。映画製作プロジェクトもまさにベンチャー立ち上げであって、プロデューサーの方々をはじめ、業界の方にも参考になるのではないかと思います。
また、セッション中、映画の引用含めて映画について触れることが多かったので、「映画が好きなのね」と思っていたら、この方、2006年公開映画 『サンキュー・スモーキング』 のエクゼクティブプロデューサーとしてクレジットされてました。
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