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第4回:『オッペンハイマー』の威力とAI活用の行方~特集:アジア映画市場発展の条件
公開日: 2024/02/16

特集:アジア映画市場発展の条件 第4回

タイのバンコクで開催されたアジアの映画興行・配給事業者向けコンベンション「CineAsia(シネアジア)」(開催期間:2023年12月4日~7日)より、APAC(アジア太平洋)地域の現状と今後の課題について、配給、興行業界のベテランが議論を交わした座談会「Executive Roundtable」の模様をレポート。第4回は、アジア興行における『オッペンハイマー』の威力と、映画産業におけるAI活用の行方について語られました。
※本記事で触れられている内容は2023年12月時点の情報です

モデレーター
ランス・パウ(Rance Pow)
アーティザン・ゲートウェイ(Artisan Gateway):創業者兼CEO

スピーカー
■配給側
カート・リーダー(Kurt Rieder)
ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ(Warner Bros. Pictures):APAC劇場配給部門シニアバイスプレジデント

ブレット・ホッグ(Brett Hogg)
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(Sony Pictures Entertainment):国際配給部門エグゼクティブバイスプレジデント

■興行側
グエン・ティ・マイ・ホア(Nguyen Thi Mai Hoa)
ギャラクシー・スタジオ(Galaxy Studios):CEO

ハビエル・ソトマイヨール(Javier Sotomayor)
シネポリス(Cinépolis):アジア&中東地域管轄ディレクター
《目次》

 

 

『オッペンハイマー』がもたらした“FOMO”とは?

モデレーターが、2023年に話題となった作品の一つとして『オッペンハイマー』に触れ、中国での動きを紹介。「同作は中国で、米国公開から40日後に公開されました。クリストファー・ノーランが訪中し、プロモーションを行ったことは知っていますが、内容としては、最初の大きな特殊効果シーンが出てくるまで90分ほど待たなければならないような作品です。そうした作品がヒットした理由は何なのでしょうか?」。

ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントのブレット・ホッグ氏は、「まさに、全体のパッケージの威力」と回答。「アジア地域において、クリストファー・ノーランと彼の映画製作に対する観客の尊敬と敬意は、即座に劇場に観客を動員する力を持っています。同作においては特に、かなりのFOMO(Fear of Missing Out/取り残されることへ恐怖感)があったといえるでしょう。人々がこの映画について耳にしたら、もう観に行かざるを得なくなったのです。エンディングの想像がつかないタイプの作品ではないのに、素晴らしいストーリーテリングで、全体的にまとまっていて完璧。大きな画面で観て、素晴らしい作品でした」。

 

インドでは『バービー』を超えて大ヒット

ワーナー・ブラザース・ピクチャーズのカート・リーダー氏も、同作を絶賛。「素晴らしい監督と脚本が紡いだ、20世紀半ばの世界情勢と冷戦の背景を説明する実際の歴史に基づいた素晴らしい映画だったことが大きいでしょう。実験的で、お金を払った価値があると感じられる、コストパフォーマンスもいい作品でした」。

一方で、「重くて万人向けではないという声もあった」と明かすリーダー氏。「それでも、私たちがユニバーサル作品の配給を担うインドで、同作が全世界でトップクラスの約1800万ドルの興収を記録したことに驚きました」。インドでの成功について、シネポリスのハビエル・ソトマイヨール氏も補足。「インドでの『オッペンハイマー』の動きには驚きました。『バービー』より圧倒的にヒットしたのです。同作は、私たちが繰り返し述べてきたコンテンツと体験の力、人々が外出して映画館に行く動機付けをすべて兼ね備えた素晴らしい例です」。

リーダー氏はまた、同時期に公開された映画『バービー』とかけた“バーベンハイマー現象”にも言及。「“バーベンハイマー”がトレンドになったことで、『バービー』と『オッペンハイマー』を両方観て、クールな存在になりたい、次のカクテルパーティーで自分たちが文化的トレンドの中にいることを共有し合いたい、というような動機付けができました」。

 

ベトナムではノーラン作品として最高記録

ギャラクシー・スタジオのグエン・ティ・マイ・ホア氏は、ベトナム市場について報告。「ベトナム市場では、『オッペンハイマー』のような映画に対して、……(以下、会員限定記事にて掲載)

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