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アートハウス映画のチャンスとTikTokなどデジタルメディアでできること~特集:CinemaCon2024 世界映画興行における観客の嗜好の変化
公開日: 2024/07/05

特集:CinemaCon2024 世界映画興行における観客の嗜好の変化 第3回

米ラスベガスで行われた「CinemaCon2024」(開催日:4月8日~11日)にて、映画配給を手がける東宝東和の山﨑敏社長とパラマウント・ピクチャーズ、サーチライト・ピクチャーズ、興行を手がけるシネポリスの代表が、ローカル映画やアートハウス作品の好調、興行と配給のコラボレーションの重要性について意見を交わしたセミナーの模様をレポートします。
第3回は、アートハウス映画を取り巻く環境の変化や海賊版対策、TikTokによる若者動員施策について語られました。

※本記事で触れられている内容は2024年4月時点の情報です。

モデレーター
ナンシー・タータグリオーネ(Nancy Tartaglione)
米デッドライン紙/世界興収エディター&シニアコントリビューター

スピーカー
山﨑敏(Toshi Yamasaki)
東宝東和/社長

ヘレン・モス(Helen Moss)
パラマウント・ピクチャーズ/国際配給部門シニアバイスプレジデント

レベッカ・カーリー(Rebecca Kearey)
サーチライト・ピクチャーズ/国際マーケティング&事業オペレーション部門代表

ミゲル・マイヤー(Miguel Mier)
シネポリス/最高執行責任者(COO)

《目次》

 

 

メジャー作品不足はアートハウス映画のチャンス?

モデレーターが、ブロックバスター映画が不足するなか、『ボブ・マーリー:ONE LOVE』の世界的な成功、『異人たち』の受賞やバズなどから読み取れるアートハウス映画がおかれている状況と今後の機会について問いました。

興行側であるシネポリスの最高執行責任者、ミゲル・マイヤー氏は、メキシコの中規模都市でアートハウス作品を上映するアートルーム(サラ・デ・アルテ)を展開していることに言及。「サラ・デ・アルテのコンセプトとプログラムを中心としたコミュニティを作り、成長させたい」と語りました。

サーチライト・ピクチャーズの国際マーケティング&事業オペレーション部門代表のレベッカ・カーリー氏は、「過去6~8カ月の間、米国内だけでなく、海外でもアートハウス映画がブレイクし、より多くのインディペンデント映画が公開された」とコメント。「2019年時点では、そうした映画を公開できるスクリーンの空きは少なかったのですが、今はカレンダーを見る限り、インディペンデント映画が上映できるスペースがたくさんありそうです」と語りました。

右から、山﨑敏氏、ヘレン・モス氏、ナンシー・タータグリオーネ氏、レベッカ・カーリー氏、ミゲル・マイヤー氏  

アートハウス映画の成功を後押しするオンライン・アグリゲーターの存在感

さらに、サーチライトのカーリー氏は、ここ数年で急増している映画関連のオンライン・アグリゲーターの功績に言及。「LetterboxdFilm Updates、TikTokで映画について語るインフルエンサーの存在が、より若い層にアートハウス映画の魅力を訴求しています。Letterboxdのトップ批評家の推薦に基づいて映画を観たり、映画を観た後に自らレビューを投稿したりと、人々がアートハウス映画に触れる流れが変わりつつあり、これらの映画のパフォーマンスには期待が高まっています」。

 

メジャーも中小規模作品のヒットのチャンスをうかがう

パラマウント・ピクチャーズの国際配給部門シニアバイスプレジデントのヘレン・モス氏も、メジャースタジオの大規模作品の不足が中小規模作品にとってチャンスとなることに同意。

「2022年に劇場公開された『SMILE/スマイル』は当初、配信プラットフォームのParamount+用に作られた映画でした。ところが、スタジオが作品を観て、劇場公開に値する作品だと気づき、素早く方向転換をして盛り上げたのです。同作は大成功を収め、今秋に続編を公開予定。『ボブ・マーリー:ONE LOVE』もバレンタインデーに公開できたことが幸いしました。大作不足だからこそ、中小規模作品にとっては柔軟なスケジューリングを実現できるチャンス。皆が素早く反応し、チャンスを生かすべきです」。

 

デジタル化の光と影:観客との革新的なリーチの可能性と海賊版の問題

シネポリスのマイヤー氏は、「私たちは、手に入る作品は何でも受け入れ、その価値を最大限に引き出すよう努めます。もし特定の観客に向けたマーケティング・メッセージやキャンペーンを事前に計画できるのであれば、それを強く推していきます。メディアを取り巻く状況が急速に進化するなか、ソーシャルメディアのインフルエンサーとの提携やその他のより革新的な方法で、多くのオーディエンスにリーチする必要があります。私たちのライバルは別の興行主ではなく、他形態のエンタテイメントであり、映画業界全体の共通の目的は、観客が劇場に足を運ぶ習慣を取り戻すことなのです」。

また、マイヤー氏は、映画興行主たちの連盟であるGlobal Cinema Federation(GCF)の活動にも言及し、海賊版対策の大切さを語りました。「同連盟は海賊版に関して、非常に興味深いデータを共有しています。それによれば、2023年に多くの市場で劇場公開された映画は、デジタルプラットフォームでの配信日までの間に海賊版の需要が急増したそうです。これは、ウィンドウをサポートすることの重要性を示すもの。ウィンドウが長ければ長いほど、海賊版が規制され、映画館に足を運ぶ人も増えるのです。すべてのスケジュールやウィンドウにおいて、海賊版のリスクを最小限にするよう、配給と興行が協力し合わなければなりません」。

 

TikTokは現在、若者動員のための最重要メディアの一つ

同セミナーの最後に会場から、TikTokなどのソーシャルメディアを活用した若者の劇場動員施策について質問がありました。

パラマウント・ピクチャーズのモス氏は、「最近は、どの映画においてもTikTokがキャンペーン戦略の大きな部分を担っている」と回答し、2023年冬に公開となったリブート版『ミーン・ガールズ』の例をあげました。「2004年公開のオリジナル版に『水曜日にはピンクを着る』という名台詞がありますが、英国におけるリブート版のチケット販売開始日がクリスマス時期の水曜日だったため、その台詞にかけて、ピンクの服を着たサンタクロースのコンテンツを作りました。こうしたちょっとしたことをTikTokに投稿すると、その映像が自然に拡散し、インフルエンサーの目に留まり、彼らが自身のコンテンツを作る流れにつながるのです。『M3GAN/ミーガン』でも、TikTokのインフルエンサーたちが世界観に乗って遊んでくれたおかげで、コアファンの外にいる観客を動員することができました。こうした施策は、どの映画にも使えるものだと思います」。

シネポリスのマイヤー氏も、『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』の例に言及。同映画では、人々が映画館から何かを盗むTikTok映像が拡散しましたが、マイヤー氏の15歳の息子も、同ビデオを観たことで劇場に行きたがったそう。「このようにオーガニックに広がるツールには、従来のメディアではリーチできない観客、特に若者にリーチする力があるのです」。

 

移り変わるメディアを把握し続けて映画マーケティングを常に革新させていく

サーチライトのカーリー氏は、ソーシャルメディアに対する持論を展開。「ソーシャルメディアは、プラットフォーム自体が誕生したり消えたり、ユーザーの年齢が上がって使わなくなったりする一過性のものでもあります。

現時点では、25歳以下のユーザーにリーチするならTikTokが最も熱いソーシャルプラットフォームであり、使えるツールはすべて使うのがマーケティングの鉄則。映画評論家という点では、TikTokインフルエンサーのシネマ・ジョーらは数百万人のフォロワーを持ち、映画を推薦したり、予告編映像を解剖したりしています。そうした予告編分析を何時間も観て、それによって劇場に行こうと思ってくれるユーザーが存在するのです。私たちは出口調査で、観客が使っているプラットフォームやチケットを買うきっかけとなったコンテンツを聞き取り、こうした傾向を生で感じ取っています」。

@cinema.joe

 

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