日本はじめ自国コンテンツが市場を牽引~特集:CinemaCon2024 世界映画興行における観客の嗜好の変化
公開日: 2024/06/21
米ラスベガスで行われた「CinemaCon2024」(開催日:4月8日~11日)にて、映画配給を手がける東宝東和の山﨑敏社長とともにパラマウント・ピクチャーズ、サーチライト・ピクチャーズ、興行を手がけるシネポリスの代表が、ローカル映画やアートハウス作品の好調、興行と配給のコラボレーションの重要性について意見を交わしたセミナーの模様をレポートします。
第1回は、パンデミックやストライキによるハリウッド映画の供給不足のなか、自国コンテンツが市場を支えた日本やイタリアの例が語られました。
※本記事で触れられている内容は2024年4月時点の情報です。
ナンシー・タータグリオーネ(Nancy Tartaglione)
米デッドライン紙/世界興収エディター&シニアコントリビューター
スピーカー
山﨑敏(Toshi Yamasaki)
東宝東和:社長
ヘレン・モス(Helen Moss)
パラマウント・ピクチャーズ:国際配給部門シニアバイスプレジデント
レベッカ・カーリー(Rebecca Kearey)
サーチライト・ピクチャーズ:国際マーケティング&事業オペレーション部門代表
ミゲル・マイヤー(Miguel Mier)
シネポリス:最高執行責任者(COO)
- パンデミック中も作品供給を続けた日本の映画業界
- 日本で『トップガン』『スーパーマリオ』がヒットした理由
- 健全な市場のために自国&外国映画のバランスを
- イタリアで自国コンテンツが映画鑑賞習慣の回復に貢献
- 映画産業は“インターナショナル市場”を重要視すべき
まず、モデレーターを務める米「デッドライン」紙の世界興収エディター&シニアコントリビューターのナンシー・タータグリオーネ氏が、世界的な映画興行が、パンデミックや観客趣向の変化の影響を受けつつも、2023年に前年より好転したこと、2024年は少し減少するものの、予想よりは上回りそうであることを報告。そのうえで、劇場に観客を動員するために、“緊急性と頻度”を高めることが大事だと語りました。
そして、シネマコンの同パネルに参加する初の日本人エグゼクティブとして、東宝東和の山﨑敏社長を紹介。2023年の日本の映画興収が、パンデミック前の2019年からわずか15%減の14.8億ドルで、米国に次ぐ世界第2位であったことに触れ、日本市場の状況とハリウッド映画の存在について問いました。
パンデミック中も作品供給を続けた日本の映画業界
山﨑氏は、日本で自国映画が好調であると証言。その理由について、次のように語りました。「パンデミックの間、日本の映画館は2020年4月・5月の2カ月間だけ深刻な状態で閉鎖されましたが、6月に再開して以来、一度も閉鎖されませんでした。これは、日本の映画業界全体の努力の賜物です。スタジオジブリの新作や名作などをはじめ、日本の配給会社やプロデューサーが国内でコンテンツを提供し続けたのです。一方、ハリウッド映画は、全米の映画館が長い間、閉鎖されていたため、世界中で公開されない状態で、日本でもハリウッド映画不足が続きました」。
さらに、日本のアニメコンテンツの強さが映画興行に影響している点も強調。「パンデミック最中の2020年半ば、『劇場版「鬼滅の刃 」無限列車編』が記録的な興行収入をあげましたよね。アニメコンテンツは配信メディアとの親和性が高く、人々が家で視聴する習慣が身についています。『鬼滅の刃 』はテレビアニメが家で視聴できるコンテンツとしてとても人気があったので、いざ、劇場版が公開されると大成功したのです」。
右から、山﨑敏氏、ヘレン・モス氏、ナンシー・タータグリオーネ氏、レベッカ・カーリー氏、ミゲル・マイヤー氏日本で『トップガン』『スーパーマリオ』がヒットした理由
パンデミック後の2022年と2023年には、ハリウッド映画の成功もあったと語る山﨑氏。「2022年には、『トップガン マーヴェリック』がヒットしました。1作目公開時に青春時代のデートムービーとして熱狂した50代前後の方々をはじめ、年齢層の高い観客を惹き込むノスタルジックな要素が奏功したのでしょう。リスクを顧みずに来日してくれたトム・クルーズを、日本中が大歓迎しました。2023年には、日本が育てた有名IPをもとにした米アニメーション映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が公開され、日本の観客を魅了しました。非常にクオリティの高い映像で、日本が製作した映画だと思っていた観客もいました。これは私たちマーケティングチームの意図によるものでもあったのですが、非常に面白い現象でした」。
健全な市場のために自国&外国映画のバランスを
「過去3年のハリウッド映画不足によって、日本の観客が外国映画欲を失った傾向がある」としつつも、今後のハリウッド映画の動きに期待を込めた山﨑氏。「日本映画の興収は、パンデミック前の2019年のレベルに戻っているどころか、それよりよいぐらいです。当時から戻っていない15%は、ハリウッド映画が満たすべき部分。2019年の日本映画と外国映画の比率は55対45で、非常にバランスが取れていましたが、2023年は70対30でした。産業や市場の健全性のためには、自国映画と外国映画の比率バランスが重要で、ハリウッド映画の存在は不可欠です。作品供給に大きな影響を及ぼしたストライキは終わったので、米スタジオはより多くの多様性あるコンテンツを届けてくれると思います。ハリウッド映画が日本市場を満たしてくれることが楽しみです」。
イタリアで自国コンテンツが映画鑑賞習慣の復活に貢献
モデレーターは、イタリアやメキシコでも、自国コンテンツが映画市場を活況に導いている点に言及。これを受けて、サーチライト・ピクチャーズの国際マーケティング&事業オペレーション部門代表、レベッカ・カーリー氏がイタリア市場の状況を説明しました。「2023年は、自国映画(編注:"There’s Still Tomorrow")が約3900万ユーロを稼いで大成功。予告編やポスターを見た人々が、同作を見るために2度、3度と足を運んだケースもありました。日本と同じくイタリアでも、パンデミックによって劇場に自国コンテンツのスペースができ、自国映画の観客が増えたのです。ハリウッド映画は供給の流れに波があるため、まだ回復には時間がかかりそうですが、(ヴェネチア映画祭で金獅子賞に輝いた)『哀れなるものたち』は、海外市場ではイタリアが興行成績トップとなりました。多くの観客が映画鑑賞習慣を取り戻しつつあると感じます」。
映画産業は“インターナショナル市場”を重要視すべき
映画を観に行く習慣を大切にする市場として知られるメキシコも2023年は好調で、家族連れやカップルなど、いろいろな人が映画を楽しんでいるようです。同市場に詳しいシネポリスの最高執行責任者であるミゲル・マイヤー氏は、映画業界全体がインターナショナル市場の重要性を理解すべきだと強調しました。「以前は、映画市場全体においてアメリカ国内とアメリカ以外のインターナショナルの割合が半々でしたが、今は、インターナショナルが3分の2~4分の3を構成しています。ただ、こうした変化をコンテンツ・クリエイターや影響力のあるプロデューサーがまだ、しっかり認識していません。私たちは引き続き、インターナショナル市場が映画産業全体に大きな役割を果たすことを伝えていかなければなりません」。
- 第1回:日本はじめ自国コンテンツが市場を牽引
- 第2回:配給と興行の"共同マーケティング"強化案
- 第3回:アートハウス映画のチャンスとTikTokなどデジタルメディアでできること
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