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VODビジネスの潮流(1/3) いまアメリカで起こっている変化とフィルムメイカーが考えるべきこと(AFMカンファレンスから)
公開日: 2016/03/04

2015年11月に開催されたAFM(American Film Market) におけるカンファレンス中での"Navigating the VOD Landscape: What Every Producer Needs to Know"のセッションレポート第一弾。
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アメリカの映像市場において起こっている変化状況

モデレーターを務めたパンデミック・マーケティングの共同社長ラッセル・シュワルツ氏は、「かつてVHSからDVDへの変化を牽引したのは技術であったが、現在、VODビジネスの変化・拡大を牽引しているのは鑑賞者だ」という。かつてニューラインシネマの劇場マーケティング部門を統括し、44本のアカデミー賞ノミネートと数十億ドルの興行成績を会社にもたらしたベテランの実感だ。

 

「ウィンドウの構造自体に変化はなく、依然として興行、DVD、配信、放送からなる4つの収益でビジネスは進んでいる。変化は、観客の鑑賞方法が多様化したとともに、ウィンドウとウィンドウの間の期間が短くなったこと。また、ビジネス自体がとても複雑になっていることだ」とBroad Green Picturesホームエンタテインメント部門でスタジオのDVD、デジタル、テレビ・セールスを統括するスティーヴ・ニッカーソンは言うが、The Orchard映画・TV部門のシニア・バイス・プレジデントであるポール・デイヴィッドソンが言うように、「劇場興行以外のウィンドウにおけるビジネスも、コンテンツの認知度をもとに売り上げをあげるということでは変わらないが、鑑賞者を食われているのではないかという疑念に敏感な、“怒れる人々”も多く存在する」ようだ。

 

消費者にとってコンテンツは増えすぎているのか?

「消費者にとってコンテンツが多すぎるのではないか?」というモデレーターのシュワルツの問いに、The Orchardのデイヴィッドソンは、「配信が最初のウィンドウとなるコンテンツ(Direct to digital)が増え、そのなかからユーザーが見たいものを見つけられるようにするためには、配信プラットフォーム内でランキングを活用するなど、観客を見たいものに誘導できるよう、UIをいいものにする必要がある」と答える。Broad Green Picturesのスティーヴも、「コンテンツが多すぎるということはそもそもあり得ない」としたうえで、「観客がどこにいて、彼らの行動特性が何かを理解できればコンテンツは見たい人に届けることができる。問題は、“衝動鑑賞”のようにその場の思いつきで見始める消費者行動を喚起できる仕組みをどう作るかだ」と否定する。最初のウィンドウがVODとなる時代のスタジオをけん引する立場からの発言だ。

 

この市場の変化においてプロデューサーにとって大事なこと

インディペンデントの配給会社Vision Filmsのリサ・ロマノフは、VODが主流になるにあたり、「パッケージデザイン、そしてマーケティングは重要だ」とし、そのひとつとして検索エンジンへの対応についてこう語る。「DVDと違って、VODは“棚”にある期間が長い。最初に提供してからしばらく時間が経った後も、なにか別な要因で注目されたときに、ユーザーが検索経由でそのコンテンツを見つけ、鑑賞するというようなことが起きる。“Inside the 50 Shades”という作品のときもそうであったが、そういう意味ではDVDと比べ、プロモーションに携わる期間がものすごく長くなる」。

 

ディレクTVでトランスアクション・ウィンドウを手掛けるハンニー・パテルは、コンテンツへのアクセスにSNSが効果的だと強調する。SNS上に一定のファンがついているコンテンツのマーケティング効果は大きい。またVODにおいては検索によるコンテンツへのアクセスも軽視できないチャンスであることに同意する。『インターステラー』や『オデッセイ』がヒットしている時期に、彼らが持っていた宇宙を舞台にした作品への視聴が伸びた。


デイヴィッドソンは、「チラシや予告編動画を決して軽く見てはいけない」とし、「たった2インチの小さい画面の中で、いかにクリエイティブを調整し、ポスターや動画などを魅力的にするかが大事なのだ」と説く。一方で、配信プラットフォームごとに強みが異なることを指摘。自身の古巣であるマイクロソフトのXboxビデオ・サービスでは、銃を持ち、大麻を吸うビキニ姿の女性が出てくる映画なら、確実に大ヒットが見込めたという例を挙げ、会場の笑いを誘った。Xboxのようなゲーム機は35歳以下の男性が主なユーザー層であるため、この手のジャンル映画が人気となる一方、iTunesやHuluではドキュメンタリーが人気だ。プロデューサーにとっては、こうしたプラットフォームごとのユーザー趣向を理解し、VOD市場を熟知することが重要となってくる。プラットフォームごとに衝動買いさせることができるようなマーケティングを施す必要がある。すべての作品に有効なマルチプラットフォームは存在しない。


(2/3 配信ビジネスの課題 ~最適なウィンドウ戦略の模索~に続く)
 

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