「アルゴリズム」が生活者の意思決定を支える未来/視覚効果技術によって再現されるハリウッド俳優【SXSW2016レポート】
公開日: 2016/03/14
Author:梅津 文
アメリカのテキサス州オースティンで開催されているSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)に、3月に弊社に入社した星野有香と来ています。
SXSWは毎年3月に開催される音楽、映画、インタラクティブ(IT/デジタル)業界のビジネスパーソンとクリエイターが集まるイベントであり、カンファレンスです。のべ10万人が訪れる大規模イベントです。
【公式サイト】 http://www.sxsw.com/
【日本語公式サイト】 http://sxsw.jp/about-sxsw/
映画祭も行われていて、今年の目玉は『6才のボクが、大人になるまで。』のリチャード・リンクレーター監督の"Everybody wants some"のプレミア上映など。「6才~」も2014年にSXSWでプレミア上映され、同監督は「SXSWとともにメジャーになった」と言われているようです。また、今年は30周年ということで、オバマ大統領がkey note speakerとして登壇しました。
そんなSXSWに、3月11日から3月15日まで参加予定です。カンファレンスに参加し、映画ビジネスやデジタルマーケティング領域で技術イノベーションによってどんな取り組みがなされているのか、どんなことが語られているのか、かいつまんでレポートしていこうと思います。
開催前日深夜、オースティンはすでにSXSW一色。いったい普段よりどのぐらい人が多いのだろうかと思うぐらい。人が多いだけでなく、オバマ大統領が来るということで交通規制も行われ、非日常感が増していました。
ここでは、一日目に参加したカンファレンスの中からいくつピックアップしてレポートをします。
「アルゴリズム」が生活者の意思決定を支える未来
ー Friday, March 11 11:00AM - 12:00PM : "Trust me, I'm algorithm" URL
スピーカーの Martin Harrison は、広告代理店でユニリーバ、ジョンソンアンドジョンソンのデジタルを活用した戦略立案・実行の経験を持っていて、ブランディングが専門です。
セッションではブランドの歴史をたどり、「ブランドの役割はそもそもの商品の品質の担保から始まり、同業他社との違いを示すものに進化し、基本的に人々の日常の意思決定を助ける役割を持っている」としました。また、ブランドの重要な要素として「信頼」があるとしました。そのうえで、人は無意識的に、あるいは意識的に、一日35,000個(ソースは不明だそうです)の意思決定をしている中、それを助けるものとしてのアルゴリズム・AIの登場の意味合いについて語りました。
では、アルゴリズムは「ブランド」が果たす役割を担えるのか?
Harrison氏は、ブランドの役割である、商品の品質の担保や、同業他社との違いを示すことについては問題なくできるだろう。しかし、それをさらに進めて価値観や世の中がどうなるべきかを示す役割を示せるかについては、可能性はあるがまだそこまでに進化していないとしました。
また、今後アルゴリズムが人々に信頼され、人々の生活を支えるために進化するうえで、次の3つを重要なこととして挙げました。
- AI/アルゴリズムが「より人間的」になること(いまのAIはあまりに「ロボット」的で、人々の気持ちを理解している感じがしない)
- 企業が提供する付加価値が生産だけでなくサービス領域メインにシフト(BMWなどの自動車メーカーが車を売るのではなく、車を利用できるサービスを売り始めているなど)しつつあるので、その領域カバーすること
- デジタル情報における「カテゴリ」整理
◆ ◆ ◆
これを映画に当てはめると、最後の「カテゴリ整理」について、アルゴリズムが人々の映画選択の意思決定を助けるうえで、「ジャンル」など映画にタグ付けされる情報整理が重要ということになります。たとえばNetflixにおいて、すべての映画・ドラマを社員が観たり、膨大な労力を使って独自のジャンル分類を行っていることは、この重要性に該当するのだなと考えました。
映画制作の未来:視覚効果技術によって再現されるハリウッド俳優
ー Friday, March 11 3:45PM - 4:45PM : Lighting Hollywood's Real and Virtual Actors URL
人間の表情や顔への光の当たり方を自然な形で再現する視覚効果技術「Light Stage」を持つ、USC Institute for Creative Technologies の Paul Debevec 氏による講演。Debevec氏は2010年にアカデミー賞科学技術賞を受賞しています。
セッションでは、”Light Stage"を使った映画として以下の事例が紹介されていました。
- 『ソーシャル・ネットワーク』で双子のウィンクルヴォス兄弟役だったアーミー・ハーマーをどのように自然に画面上で二人いるようにみえる映像
- 『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』でのブラッド・ピット演ずる年寄りから若がえっていくベンジャミン・バトンの映像
- 『ゼロ・グラビティ』でサンドラ・ブロックとジョージ・クルーニーが宇宙で作業する映像
- 『ワイルド・スピード SKY MISSION』撮影中に事故で亡くなったポール・ウォーカーの映像
- 『アバター』でのキャラクター映像
そのほか、たくさんの事例が紹介されました。その凄さについては、なかなかここで再現できないのですが、どのような技術かということについては、こちらに詳しく書かれています。 http://gl.ict.usc.edu/LightStages/
Light stageは映画だけでなく、オバマ大統領を3D映像で再現したり、それ以外にも、故人を再現した映像(マイケル・ジャクソン、ホロコーストの被害者)などに使われている事例が紹介されました。
セッション中の発言で興味深いと思ったのは、こうした技術がもたらす未来についてです。
Debevec氏は、「こうした技術はいまは非常に高価で限られた場面にしか生かされていないけれど、これまでの様々な技術がそうだったように、将来的には、自分のPC上で簡単に誰でも使えるようになるだろう」とコメントしました。それが可能になったとき、人々は映画だけでなく日常の中で接するすべての映像に対し、何が本当で何が嘘なのかわからなくなり、そういったことを前提にした教育や啓蒙も重要になるだろうと。
また、「映画でスタートしたけどその後どこにいくのか? 」という参加者からの質問に対するDebevec氏の回答も興味深いものでした。いわく、映画において採用されたのは、ハリウッドメジャーが毎年「人々をあっと言わせるような斬新な映像を含めたブロックバスターを毎年作り続けなければならないから」であるが、Debevec氏は技術研究者であり、所属するUSC Institute for Creative Technologiesも技術ラボであり、教育・医療ほか、どんな領域でもこの技術が生かされればよいと思っている。本技術はゲームでも応用され、さらに進化を遂げたが、ジェームスキャメロンは『アバター2』でそれを逆に映画に取り込もうとしているとのこと。
◆ ◆
最先端技術は政府主導、あるいは巨大な産業で開発・適用されて世の中に広く浸透する場合が多い中、こうした技術が「まず映画で」ということに、アメリカ映画産業の大きさを改めて感じました。また、30年前の人が今の映画を見たらびっくりするのと同じように、30年後の映画は全く別のものになっているということを改めて考え、ワクワクしました。
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