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世界各国の消費者インサイトの抽出 #2「ストーリーに賭ける」
公開日: 2017/08/17

DCエンターテイメント・イルミネーションのマーケッターが語る「グローバル・フランチャイズの成功の掟」(4)

DCエンターテイメント・イルミネーションのマーケッターが語る「グローバル・フランチャイズの成功の掟」の4回目です。スピーカーやセッションの概要は、連載1回目「フランチャイズのグローバル展開は狙えるか?」をご覧ください。

(本記事は、世界各国の消費者インサイトの抽出 #1「データの活用」の続きです)

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子供向け市場ではデータ取得は困難、「ストーリー」に注力して賭ける

マーティ・ブロックスタイン(モデレーター)

マイケル(カートゥーンネットワーク)、あなたの会社でも、おおむね同様ですか?

 

マイケル・アウウィリーン(カートゥーン・ネットワーク)

そうですね。子供向け市場であるため、我々ではどうしても線でつなげない点があります。コンバージョンを正確に計測することができないのです。私のチームが番宣をうっても、コンバージョンはわかりませんし、フランチャイズが受容されているかもエンゲージメントの起点もはっきりしません。製品をどこで買うのか――アマゾンか一般小売店かトイザらスか――も不明です。どうしても全体像を描けませんし、できたとしたら、おかしなことですが、私は落胆するでしょうね。相手は子どもですから守ってやらなければなりません。

しかし、一般的な傾向はわかっています。また、データは素晴らしいもので実に建設的だと思いますが、同時にそれだけに振り回されてはならないと思います。本当に優れたものは広まっていきますから、現状分析などは必要ありません。良いものは良いのです。共感性の高いものは自然と広まるため、科学やデータはさほど必要になりません。

 

サイモン・ウォーターズ(ハズプロ)

ある意味、的を射たご意見だと思います。誰もが“本物感や“一貫性などを重視するものですが、そういったものを具体化する方法が必要です。「ストーリー性を重視」してこそ結果につながります。
我々全員がそんな賭けをしています。「優れたストーリーを製作しよう」と言って賽を投げるのです。『トランスフォーマー』を製作しない決定を下したかもしれませんし、無残な失敗に終わったかもしれません。現実には大成功しましたが、ともかく賽を投げたのです。「全力でストーリーに忠実なものを製作する」ことを念頭に置きながら一か八かやってみることで、残りはついてくるのだと私は思います。こういったことを忘れれば、とんでもないことになります。私にも経験があり、残念ながらハズブロでの経験です。


一つの決まった答えはありません。この場にいらっしゃる全員が成功体験も失敗体験もお持ちで、異なるカルチャーに対してはそれぞれ異なるアプローチをしなければならないことをご存知のはずです。
 

マニュエル・トーレス・ポート(NBCユニバーサル)

まったくそのとおりです。もっとも確実なのは、ストーリーの伝え方が適切であり、キャラクター設定やストーリーのエンゲージメント性に対する共感性が高いものです。残りはつながりやエンゲージメントを醸成するポイントですが、そういったものの修正はすべての出発点であるストーリーを書き直すよりもずっと簡単なのです。

真の大成功はファンと「意識レベルでのつながり」を醸成できたとき

マーティ・ブロックスタイン(モデレーター)

ストーリー性が商品づくりに与える影響には、どのようなものがあるでしょうか?コンセプトの展開方法やプロセス、そして生ものである知財を商品化する際のルールなどをご教示ください。

 

サイモン・ウォーターズ(ハズプロ)

とても良いご質問です。私の考えを二つばかり披露しましょう。

一つは、言わずと知れた“従来型のライセンスビジネスです。キャラクターがプリントされたTシャツなどを作ることでオーディエンスとの間につながりを醸成し、グッズを売ってそれで終わりというパターンです。

二つ目は、「意識レベルでつながりを醸成する」というやり方があります。一つ目の従来型ライセンスビジネスでも、ある程度の期間うまくやることはできます。しかし、もし、購買行動のスタイル、生き方レベルで、ファンの方がつながりを持とうとするように仕向けることができれば、それこそが真の大成功です。たとえば「スターウォーズ」が成し遂げたことです。まったく脱帽ものです。ジョージ・ルーカスが映画を製作した時には、ばかみたいな作品だと思われていました。しかし、実際には違いました。彼らの作戦勝ちだったと思います。

 

マニュエル・トーレス・ポート(NBCユニバーサル)

タッチポイントに無駄なものはない、ということですね?玩具は、ストーリーをふくらませ、伝えかたを増幅することで、大スクリーンやTV画面では不可能なブランドやフランチャイズの体験を提供する力があると言えます。すべての要素やタッチポイントには“固有の意味があると考えられるようになると、全体的な提案やエンゲージメントに大きな価値が加わります。その時初めて、製品やイベントからプロジェクトの詳細に至るまで、まったく違う観点から見ることができるようになります。

キーとなるオーディエンスと直接つながりを持ち、そのつながりが自然であり、かつ早い時期から始まるよう心がけることも重要です。後付けの何かと違ってタッチするというよりも、有機的に一から創りあげることが可能になるからです。

玩具などの「製品ありき」ではなく、そのストーリー・キャラクターなどの世界観が核になる

ステイシー・シェア(アクティビジョン)

ここまでの話では、玩具などの製品はコンテンツ・キャラクターの後からついてくるものとされています。逆に、製品から始まったものをお持ちの方に質問ですが当初は製品スタートのビジネス構造だったものが、他の(パネリストの)方と同じようなビジネスに変化していっているのでしょうか。


サイモン・ウォーターズ(ハズプロ)

ハズプロに限ったことではないのですが、お答えさせていただきます。弊社はものづくりと流通力に長けた玩具企業からエンターテインメント企業へと変わりました。すべてはストーリーあってのことです。大きな変化でしたが、その変化は今でも進行中です。製品が後からついてくるプロセスに変えようとしている最中です。玩具やゲーム産業にとっては新しい考え方ですが、弊社にとっても新しい考え方と言えます。
 

アミット・デサイ(ワーナー/DCエンターテイメント)

ストーリーの伝え方やキャラクターがすべてです。クリエイティブチームに、既存のキャラクターを解釈し、各種メディア向けに製作する自由を与えたとすれば、大スクリーン用、小スクリーン用、製品用にかなり違った解釈の『スーパーマン』が登場すると思います。しかし、すべてはこの素晴らしいキャラクターの世界観の延長線上にあるものなのです。

< (5)今後の展望:コンテンツの消費のされ方が変わりつつある中で に続く >

DCエンターテイメント・イルミネーションのマーケッターが語る「グローバル・フランチャイズの成功の掟」シリーズ