記事

「どのVODが儲かっているのか?」~コンテンツホルダーにとってどの形式が収益源なのか(後編)
公開日: 2017/11/24

VOD(動画配信)ビジネスの未来~北米での最新ビジネス事情から~(2)

 

2017年11月初頭に米国カリフォルニア州サンタモニカで開催されたAFM(American Film Market)のカンファレンスから、世界中でいつでもどこでも映画が配信される中どのように鑑賞者に映画を届けて収益を上げるべきなのか。また、未来はどうなっていくのかについて、第一線で活躍するマーケッターたちが語ったセッション(AFM Distribution Conference Future of Video on Demand)をレポートします。
※本記事で触れられているサービス内容はカンファレンス開催(2017年11月)時点の情報です

 

本記事は、連載第一回「「どのVODが儲かっているのか?」~コンテンツホルダーにとってどの形式が収益源なのか(前編)の続きとなります。ご注意ください。(本シリーズ記事のスピーカー・パネリストも第一回目に記載されています)


◆  ◆  ◆  ◆

収益モデルは日々変化している

ブルース・エイセン(モデレーター)

スタジオが映画にゴーサインを出す際には、それが製作であれ買い付けであれ、スタジオは「この映画でどれほどの収益があげられるのか?」ということを判断します。当然ながら、それを基に製作予算または買い付け金額を決定します。「どの程度の収益になるか」を考えるうえでTVOD(レンタル型動画配信)やSVOD(定額制動画配信)などのデジタルなリリース形式をどの程度重視しているのでしょうか?
 

トーマス・ヒューズ(Lionsgate)

非常に重視しています。収益源はどこにあるかという、あなたの最初の質問にも関係してきます。収益源はあらゆるところにあります。作品のライフステージを通しての収益を見ないといけません。

我々は株式を公開している企業として、通常10年スパンで結論を出して、投資家に報告します。重視されないウィンドウはありません。アンディが言ったように、映画ごとに戦略は異なり、ヒットの程度もまちまちなのです。

 

アンディ・ボーン(The Film Arcade)

ええ、その通りです。商品がVODやEST(動画配信販売)などのデジタルスペースでどう動いていて、どこから収益が上がっているのかを常に注意深く見ています。あらゆるところが収益源ではありますが、それは常に変わっているのです。

「フィジカル」(DVD・ブルーレイ)VSデジタル

ブルース・エイセン(モデレーター)

全体を考えた時、「フィジカル」としてDVDやブルーレイとデジタルの2つの収益源があるとして、両者の割合は近づいているのでしょうか?「フィジカル」は減少しているとはいえ、まだ収益の大きな部分を占めているのでしょうか?それとも、デジタルの方が多いのですか?
 

トーマス・ヒューズ(Lionsgate)

Lionsgateにとっては、「フィジカル」はまだ大きなビジネスだと言えます。今でも多くの方がDVDを購入していますし、特にブルーレイを購入される方はコレクターが多いため、我々にとっては大きなビジネスです。

諸権利付(all rights)の重要性

ブルース・エイセン(モデレーター)

アンディ、あなたが映画を選ぶ際、映画製作者へのアドバイスとしては、あなた方のような会社と諸権利付(all rights)の契約を結ぶべきだと言いますか?
それとも、権利を分割して、NetflixにSVOD(定額制動画配信)で売ったり、DVD権利をほかの会社に売るなど分けるべきだと言いますか?
 

アンディ・ボーン(The Film Arcade)

そうですね、諸権利付契約のほうが望ましいのは確かです。

権利の分割の話に関していうと、たとえばトロント映画祭で公開した素晴らしい映画があったんですが、SVODのウィンドウには事前に話がついてしまったんですね。そうしたら買い付け希望の会社が10社以上から2社にまで減りました。そもそも買い付け市場に存在する企業は少ない中で、その中でSVODのウィンドウに既に買い手がついていたら、ほとんどの会社が買い付けの話を聞こうとすらしないでしょう。

何年も前には、分割して自社で最大限コントロールした上で多くの契約を結ぶ戦略の話が数多く聞かれました。今そんなことをすれば、大変な問題になりかねません。巨額の契約金を受けとれるのでない限り、私なら権利を分割するようなことはしません。

 

EST(動画配信販売)の訴求:コンテンツによって変える

ブルース・エイセン(モデレーター)

ここで少しEST(動画配信販売)の話をしたいと思います。ESTはダウンロード版セル動画”とでも言いますか、いったん購入すればこの先いつまでも観たいだけ観ることができるオンデマンド配信ですね。コンピューターなどのデバイスを捨てたり中のデータを消去したりしない限り、ライセンスは有効です。

ESTのマーケティングとTVOD(レンタル型動画配信)のマーケティングには、類似点と相違点があると考えられていますが、実はこの両者は同じものなのでしょうか?それとも、やはり違うのでしょうか?
 

ハニー・パテル(AT&T)

非常に似通っていると思います。あなたがおっしゃった通り、EST(動画配信販売)ではコンテンツを所有することができ、何度でも観られます。ですが、それよりもより強いうたい文句は「先行性」です。ESTであれば、ほとんどの場合、早い時期に観ることが可能ですが、我々がESTで出している映画のほとんどは、従来型ウィンドウよりも2~4週間ほど先行してリリースしています。

またリリースやコミュニケーションの方法においても、メッセージの違いがあるだけだと思います。今やこれは異なるメリットを持つウィンドウのひとつに過ぎない、我々はそう見ています。広告を打てば、彼らはリリース初日に手にしたいと考えたり、何度も観るために喜んで20ドルを支払ったりしてくれるのです。
 

アンディ・ボーン(The Film Arcade)

もちろん、EST(動画配信販売)にはメリットが多いと思っています。価格が高く、利幅も大きい。ESTを先行リリースするというここ数年の流れは、非常にメリットが大きかったと私は思います。ただ、すべての映画に適用できるとは考えていません。特に小品などは、フルの金額を支払って手元に置きたいと考える人が多いとは思えません。そういう作品の場合は、先行期間をなくしてESTとレンタルを同時に開始します。
 

ブルース・エイセン(モデレーター)

まずESTから開始するのではないのですか?
 

アンディ・ボーン(The Film Arcade)

することもあります。映画によって使い分けるのです。
 

トーマス・ヒューズ(Lionsgate)

ありがたいことに、店頭で列に並んで最初の購入者になりたい方もいれば、夜中まで起きていて更新ボタンを押し続けることで最初の購入者になろうとする方もいます。こういった方は早期に購入してくださるので、ありがたいお客様です。一方では、待つことを厭わず、また若干でも安く購入しようと考えるお客様もいます。世の中にはいろいろな種類の方がいらっしゃいますから、我々はあらゆるタイプの方に向けた提案を用意しています。

 

 

<(3)VODでコンテンツホルダーが成功するカギ に続く >
 

VOD(動画配信)ビジネスの未来~北米での最新ビジネス事情から~