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「劇場公開・VOD同時展開」モデルの現在
公開日: 2018/01/12

VOD(動画配信)ビジネスの未来~北米での最新ビジネス事情から~(5)

 

2017年11月初頭に米国カリフォルニア州サンタモニカで開催されたAFM(American Film Market)のカンファレンスから、世界中でいつでもどこでも映画が配信される中どのように鑑賞者に映画を届けて収益を上げるべきなのか。また、未来はどうなっていくのかについて、第一線で活躍するマーケッターたちが語ったセッション(AFM Distribution Conference Future of Video on Demand)をレポートします。

※本記事で触れられているサービス内容はカンファレンス開催(2017年11月)時点の情報です

 

スピーカーやパネリストの詳細は、連載第一回「「どのVODが儲かっているのか?」~コンテンツホルダーにとってどの形式が収益源なのか(前編)」をご覧ください。



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劇場公開と同時に配信「Day and Date」の今

ブルース・エイセン(モデレーター)

“Day and Dateとは、VODを劇場公開と同日(day-and-date)にリリースすることを指します。その場合、VODの価格はそうでない場合の$5前後に比べて若干高く設定されるのが普通です。皆様の現状の取り組みはどんなものでしょうか?
 

ハニー・パテル(AT&T)

我々はDay and Dateを数多く手がけています。

Day and Dateでリリースする場合、「どの映画にするか」に関しては非常に厳格に判断します。すべての映画がこのリリース手法に適しているわけではありません。Day and Dateは若干高く価格設定するため、検討に検討を重ねます。Day and Dateでリリースしない場合は、スタジオのウィンドウ戦略にあわせて各ウィンドウごとにマーケティングするというモデルです。

我々のDay and Dateプログラムは5年ほど前に開始したもので、劇場ほかの従来型ウィンドウでリリースする前に、30日間「ディレクTV」で独占配信できるインディーズ映画を探していました。これによって興行収入に上乗せできたと考えており、スタジオとの密な関係で実現させたものです。最近の映画『レザーフェイス(原題)』の例では、映画のライフサイクルを通して実施する一連のマーケティングキャンペーンを用意しました。つまり、我々は最初から最後までパートナーとして動きました。全米に2,000万人のお客様がいたということです。

これまでインディーズ映画は3~10都市で公開され、必ずしも該当都市に居住していない顧客に対し、我々が厳選したもっと愛され注目されるべきだと思っている素晴らしい映画を鑑賞する機会を提供し、我々のプラットフォームで展開する間に7桁のマーケティング予算を投下します。製作者にとっても、自分たちの作品を紹介するまたとない機会になるのです。

繰り返しになりますが、全体的には個々のプロジェクトをよく検討し、個別の対応をすることが非常に重要です。すべての作品を同じ方法でリリースする必要はなく、数多くのオプションがあります。Day and Dateに向いている作品もあれば、先行配信に向くものもあり、従来型のリリース手法が最適な作品もあります。いずれにしても、3~4年前には存在しなかった機会が、今では本当にたくさんあるのです

 

トーマス・ヒューズ(Lionsgate)

弊社も数多くのDay and Dateを出しています。数でお話ししますと、2016年には、トップ30作品のうち19作品までがDay and Dateで出されています。『マージン・コール』は初期の大ヒット作の一つなのですが、特に劇場サイドのウィンドウでは大成功を収めています。

 

Day and Dateが増えすぎている?すべての映画がDay and Dateに適しているわけではない

アンディ・ボーン(The Film Arcade)

Day and Dateで少々問題となっていることの一つは、この手法で出そうとする者が多くなり過ぎたことです。我も我もと参入してきています。何か問題が起こるのではないかと思います。キュレーション不足は間違いありません。

“劇場と同時”カテゴリーの特別性が若干弱まってきていると思います。初期の大ヒット『マージン・コール』や、最近の”Day and Date”展開での成功作として挙げられるリチャード・ギア主演の『キング・オブ・マンハッタン 危険な賭け』は、真に劇場級の映画でした。最近、Day and Date展開の作品には、そうでない映画も多く、そうなると「劇場公開と同時」である意義を失っているように思います。若干の引き戻しが現在起こっていると思います。
 

ハニー・パテル(AT&T)

確かにDay and Dateの数が過剰になってきています。初期のような大ヒットも少数ながらありますが、誰もがDay and Dateで映画を出すようになりました。皆、自分の映画はDay and Dateに適していると考えるのです。ですが、すべての作品がそうであるはずはありませんよね?

我々MVPD*は、マーチャンダイジングし、キュレーションしてお客様に映画を知っていただけるようにしています。ですから、非常に厳選するようになりました。最初は何でも出していました。「これはすごい手法だ」と言っていたものです。
*注: MVPD…multichannel video programming distributorsの略でCATVや衛星テレビなどの有料放送

すべての映画がDay and Dateに適しているわけではなく、同じように成功を収めることがないのは、そのとおりです。ですから、どの作品をこの手法で出すかを熟慮します。選んだ作品がきちんと宣伝できるように考えるのです。パートナースタジオとも密に働いて、マーケティング予算をつけてもらえるよう働きかけます。

弊社のプラットフォームでは、見づらいライブラリにただ加えるだけではなく、必要なマーチャンダイジングをできることがDay and Dateで出す際の狙いです。

では、Day and Dateに適したコンテンツとは?

ハニー・パテル(AT&T)

Day and Dateや独占配信ウィンドウに適した作品とは、興行収入1億ドルを突破するような作品ではなく、インディーズ映画です。必ずしも十分にプロモーションされるわけではない作品です。ここを強調しておきたいです。

私には小さい子供がいますが、今週末に自分が映画館に足を運ぶとすれば、子供が見たがる『マイティ・ソー』を観ます。もしそうするのにお金を使えるならば、ベビーシッターを雇って、ポップコーンなどの食べ物や他にも何かを買います。映画館では子どもを連れた親御さんをよく見かけます。彼らがこういった映画にお金を使ってくれる人です。しかし、必ずしも親として劇場に行く必要がない場合、たとえばインディーズ映画を観るのにそこまでお金を使ったりもしません。

我々は“公式を見つけました。ジャンルは通常ドラマ、サスペンス、その両方に若干のアクションを加えた男性が主人公のもの。男性主人公はかっこよくないといけません。女性客を捕まえるために。

こういった“公式をあてはめて「何がうまくいって、何はうまくいかないか」を判断します。自分の顧客が誰なのかを考えなければなりません。自社プラットフォームの特徴は何で、顧客はどのような層か理解し、その上で作品を選ぶようにしています。

あるプラットフォームで成功する作品が、別のプラットフォームでも成功するとは限りませんし、その逆もまたしかりです。先ほど申し上げたように、すべての作品には独自性があります。そして、自社の顧客を理解し、映画の特性を理解して、ふさわしい場所を与えてやらなければならないのです。
 

トーマス・ヒューズ(Lionsgate)

どんな映画がDay and Dateに適しているかに関しては、画一的な回答はありません。個別にプランを作る必要があります。様々な要素が関係しているからですが、非常に面白いモデルだと思いますし、私の考えでは短期間で大きな進化を遂げたと言っていいリリース・発売方法です。初期には弊社を始めとしてごく数社がやっていただけですが、ある時点から誰もがこぞって実施するようになり、今はそれが落ち着きを見せてきたと思います。


 

<(6)VODの未来 に続く >


 

VOD(動画配信)ビジネスの未来~北米での最新ビジネス事情から~