ハリウッドビジネス新潮流 ハリウッドスタジオ流とネットフリックス流はどう違うのか?
公開日: 2019/03/29
ハリウッドのメジャースタジオにとって映画宣伝を立ち上げる瞬間は、生死を分かつ瞬間といってもいいでしょう。では、映画の宣伝活動を精緻化するための留意点はなんでしょうか。観客が複数のメディアプラットフォームを行き来するこの時代にあって、彼らの注意を惹きつけるベストな方法とは? 2019年3月、米カリフォルニ州ロサンゼルスで開催された“Variety’s 2019 Entertainment Marketing Summit”より、各スタジオのトップマーケッターが登壇したパネルディスカッション“Studio Marketing Roundtable - High-Stakes Storytelling”をレポートします。
奇しくもディスカッション当日は、ウォルト・ディズニー・カンパニーと21世紀フォックスの事業統合が完了し、新生ディズニーがスタートした3月21日。さらに、毎年ハリウッドメジャーの幹部が登壇する本セッションの場に、動画配信サービス大手のネットフリックスが初めて参加するというサプライズも。まさに新たな時代の幕開けともいえるパネルディスカッションとなりました。
モデレーター:
クラウディア・エラー(Claudia Eller)
バラエティ(Variety)誌共同編集長
パネリスト:
ブレア・リッチ(Blair Rich)
ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ/ワーナー・ブラザース・ホーム・エンターテインメント(Warner Bros. Pictures and Warner Bros. Home Entertainment) ワールドワイド・マーケティング プレジデント
ケリー・ベネット(Kelly Bennett)
ネットフリックス(Netflix) チーフ・マーケティング・オフィサー
ミシェル・フーパー(Michelle Hooper)
FOXサーチライト・ピクチャーズ(Fox Searchlight Pictures) マーケティング エグゼクティブ・ヴァイス・プレジデント
ジョシュ・グリーンスタイン(Josh Greenstein)
ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント(Sony Pictures Entertainment) ワールドワイド・マーケティング&ディストリビューション プレジデント
マイケル・モーゼス(Michael Moses)
ユニバーサル・ピクチャーズ(Universal Pictures) ワールドワイド・マーケティング プレジデント
連載第1回は、フォックスの歴史に敬意を払いたいというモデレーターの強い決意からスタート。しかし、トーンダウンすべきではないとして、早速今回の目玉ともいえるネットフリックスのビジネスモデルに対して切り込んでいきました。劇場に足を運んでもらうのではなく、自社プラットフォームで鑑賞してもらうことを目的とする同社。従来のスタジオによる宣伝と何が違うのか、チーフ・マーケティング・オフィサーのケリー・ベネット氏が赤裸々に語りました。
※本記事で触れられているサービス内容はカンファレンス開催(2019年3月)時点の情報です
冒頭、20世紀フォックスへの表敬
モデレーター
皆さん、お集まりいただきありがとうございます。結果論ではありますが、スタジオのマーケッターの皆さんにお集まりいただくのが今日だったということにある種の感慨を覚えています。あるハリウッドの大手スタジオのマーケティング部門がまるごと解散となりました。20世紀フォックスです。パネリストの皆さんは非常に密な関係にあります。ディスカッションが始まれば会場の皆さんもすぐに分かるかと思いますが、お互いに知り合いであり、友人であり、深くリスペクトしあう間柄です。本日、今回の件について、私たちが非常に残念に思っていることに触れておくべきだと感じました。バックステージでもお話ししていたのですが、パネリスト全員が同じ気持ちであり、当事者の方々の痛みやショックを自分のことのように感じています。
もちろん、私たちがトーンダウンすべきだという意味ではありません。今日のパネルディスカッションはエキサイティングでダイナミックな、非常に面白いものになるはずです。しかし、この件に触れずにおくのは、モデレーターとしての責任を果たしていないことになるだろうと思いました。
さて本日は、困難な責務を負っていらっしゃる天才的マーケテッターの皆さんにお集まりいただきました。変動し続ける市場環境の中で、皆さんが直面している課題について、話を進めていきたいと思います。
ネットフリックスの宣伝は従来のハリウッドメジャースタジオによる宣伝とどう違うのか?
モデレーター
まずはスタジオの方とは全く異なるビジネスモデルを展開するネットフリックスのケリーからお願いします。理解が間違っていたら訂正してください。ネットフリックスの映画やTV番組のマーケティングは、お客様に映画館に足を運んで作品を鑑賞してもらうことが目的ではなく、ネットフリックスで鑑賞してもらうことが目的ですよね。つまり、契約者数の増加と、ネットフリックスのブランド・プロモーションを狙いとしています。以上を踏まえて、ネットフリックスの宣伝活動の設計はフォックスやソニー、ユニバーサルなどと、どのように違うかお話しいただけますか?
ケリー・ベネット(ネットフリックス)
分かりました。ビジネスモデルの違いがあらゆる点での差異につながっていますので、同じ視点で比較しないことは正しいと思います。我々は一般ユーザーとの契約を基本としていますので、DtoC(Direct-to-Consumer)のビジネスとなります。
しかしながら、意外に思われるかもしれませんが、我々の施策はスタジオの皆さんと違うものよりも同じものの方が多いのです。どちらも目指しているのは、世界中の人々に対象作品を観たいと思っていただけるような説得力のある宣伝キャンペーンを実施することです。世の中には非常に多くの作品が存在します。人類史上、これほど多くの作品が発表されていたことはないでしょう。つまり、消費者には無数の選択肢があるのです。
世界規模の会員数と膨大な情報量で一歩リード
ケリー・ベネット(ネットフリックス)
スタジオとの違いと言えば、ネットフリックスの映画は永遠に映画館で上映され続けているようなものである点です。作品が恒久的に上映されると考えた場合、現在と同じようなパターンで宣伝費を使いますか? 今と同じような公開戦略を実施しますか?
ネットフリックス会員にとって、会員自身が鑑賞を開始したその時こそが、宣伝開始の瞬間にほかなりません。スタジオの皆さんは公開前に大々的な宣伝活動を行って認知を広げ、満を持して公開日を迎えるという手法を取ることが多いと思います。それに対し、ネットフリックスはもっと短い間隔で宣伝を行います。お客様からのシグナルがより強くなり、彼らの好みがはっきりしてから宣伝を行えばいいのです。
ですから、実際に観てくださりそうなお客様のプロファイルや鑑賞パターン、時間帯などをよく理解してから宣伝投資を行うことができます。我々の宣伝タイミングは、往々にして大きく異なるのです。スタジオのようにかなり早い段階から投資することはありません。
とはいえ、最大の違いは世界中に1億3900万人の会員を抱える“ネットフリックス”という商品があることではないかと、私は思っています。我々はお客様の視聴傾向を熟知しています。アルゴリズムやネットフリックスの機能によって、高い確度でお客様の好みに合いそうな映画やTV番組を提供できるのです。アーンドメディア(SNS)やオウンドメディア(自社運営媒体)と呼ばれるものについては、世界規模での会員数や彼らの視聴傾向に関する情報の量のおかげで、我々は一歩リードしているのではないかと思っています。
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