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ネットフリックスの『ROMA/ローマ』宣伝展開をハリウッドトップマーケターはどうとらえたのか?
公開日: 2019/03/29

ハリウッドのトップマーケッターが語る映画マーケティング最前線2019(2)

 

連載第2回も引き続きネットフリックスが取り組むマーケティング手法に着目。作品別戦略における強みや、米アカデミー賞で監督賞含む3部門に輝いた『ROMA/ローマ』の宣伝戦略など、これまであまり明かされることのなかった話題が続きます。さらに、スティーブン・スピルバーグ氏の発言で物議を醸したアカデミー賞対象作品に関する論争に対し、スタジオのトップが胸中を明かしました。
※本記事で触れられているサービス内容はカンファレンス開催(2019年3月)時点の情報です

 

《目次》

 

ネットフリックスの作品別戦略の特徴

 

 モデレーター
ケリー、ひとつ聞かせてください。ネットフリックスには非常に多くのコンテンツがあります。その中からマーケティング上プッシュするコンテンツを、例えば「ストレンジャー・シングス 未知の世界」にするのか、『バード・ボックス』にするのかを、どのように決めるのでしょうか? 自分の子ども全員にお金やエネルギーを均等にかけてあげることはできませんよね。

 

 ケリー・ベネット(ネットフリックス)
良い例えですね。確かにネットフリックスは多数のコンテンツを保有しています。多くの優れたコンテンツです。我々は世界を対象にしており、特定の層や国だけに向けて取り組んでいるわけではありません。世界1億3900万人の契約者が対象であるため、規模はおのずと大きくなります。新作は必ず宣伝します。そしてネットフリックスでは、全世界の契約者に刺さる方法で新作を宣伝できるのです。それが我々の強みです。また、これぞという作品は特別扱いもします。

こういった取り組みは、消費者向けブランドの構築、もしくはDtoC(Direct-to-Consumer)といえるのではないでしょうか。我々は常に消費者の話題に上る存在であり続けるよう取り組んでいるのです。それはちょうど、素晴らしい"ネットフリックス・モーメント"のバトンをつないでいくようなものだと捉えています。作品の力でそういったインパクトのある瞬間を創りだし、常に消費者マインドの中心にいたいと思っています。

 

アカデミー賞3部門獲得『ROMA/ローマ』宣伝戦略

 

 モデレーター
『ROMA/ローマ』では、アカデミー賞を狙って“湯水のように”資金を投下したという批判を受けていらっしゃいました。もちろん御社には御社の見解があると思いますが、ともかく賞レースに参入されたわけですよね。つまり、ネットフリックス・ブランドを確立するだけでなく、ある種の名声も求めたと考えられます。この見方は正しいでしょうか?

 

 ケリー・ベネット(ネットフリックス)
我々が賞を獲りたかったのは事実です。一方で、優れた才能と彼らの作品づくりをサポートしたかったのも事実です。我々は適切で質の高い宣伝活動を行ったと思っています。外国語映画賞だけではなく、作品賞や監督賞も狙っていました。ですから、投下した資金は適切だったと考えています。多くの方が本作の宣伝規模を取り沙汰していたようですが、我々の宣伝方法によって、予算以上の規模に見えたのではないでしょうか。

アーンドメディア(SNS)やオウンドメディア(自社運営媒体)では非常に大きな宣伝機会があり、慎重なターゲティングを試みました。ハリウッドの経営陣、またはロサンゼルスの鑑賞者コミュニティの精鋭。そういった層が我々の作品を話題にし、ツイートすることを期待し、ターゲットを絞ったのです。ここにいる方に大規模な宣伝活動に感じられたのは、みなさんをターゲティングしたからに他なりません。

 

 

スピルバーグの見解に対するハリウッドメジャートップの意見

 

 モデレーター
ここで、スティーブン・スピルバーグ氏の発言を機に業界で巻き起こっている論争に話題を変えましょう。ネットフリックスやアマゾンで配信され、劇場公開期間が非常に限られた作品はアカデミー賞の対象になるべきではないとする議論です。賛同する方もいれば、「スピルバーグの考え方は古くて、世界の現状に合っていない。観客は劇場公開作品であろうとストリーミング作品であろうと構わなくて、さっさと作品を観たいと思っているだけだ」と言う方もいらっしゃいます。皆さんの意見をぜひお伺いしたいと思います。

 

 ジョシュ・グリーンスタイン(ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント)
どなたも口火を切られませんか? では、私から話します。これはスティーブン・スピルバーグ個人の話ではないと考えています。スピルバーグはこの議論を公にしたにすぎません。彼の問題であるとするのは、ある意味フェアでないと思います。

周囲の業界人と話したのですが、劇場において幅広く公開される作品や、長期間にわたって公開され続ける作品、あるいはまた別の展開をする作品、それぞれは区別する必要があると考えている人が多いようです。私は「劇場公開」に関してはある種の透明性、基準が必要だと考えています。公開規模や回数、期間、興行収入の報告なのか、何とすべきかは分からないのですが。

ちなみに『ROMA/ローマ』はとても良かったです。いい仕事をされている、素晴らしい作品だと思いました。

何はともあれ、我々は、劇場公開というウィンドウは非常に意義があると信じています。

 

 ミシェル・フーパー(FOXサーチライト・ピクチャーズ)
私からも少し言わせてください。ある意味、これはアカデミー協会自身が自分で考えるべき問題だと感じています。アカデミー自身が、自分たちは「長編映画」とは何だと考えているのか、どうとらえているのか、その定義を明確にすればいいだけの問題です。近々にも協議を始めるものと思いますが。

私自身は、公平な市場環境となること、つまり定義が明確であることが必要と考えています。それが4週間の劇場公開なのか、何か分からないですが。興行収入の報告は必要ではないでしょうか。規模は問わなくていいかもしれません。これは競争環境や様々な要因によって不確実なものなので。

ともかく、きちんと定義が定められ、すべてのスタジオが同じルールに従うことが必要です。そして、定義に合致するかどうかの評価の基準については、アカデミーは非常に明確であることが求められていると思います。

 

北米映画興行は活況。映画鑑賞者の29%が25歳未満

 

 ジョシュ・グリーンスタイン(ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント)
ところで、現在の映画館ビジネスは非常に活気があります。外国為替の影響を除外すれば興行収入は上り調子です。非常に興味深いのは、最も頻繁に劇場に足を運んでいる層が若年層、13歳から17歳だということです。

 

 ブレア・リッチ(ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ/ワーナー・ブラザース・ホーム・エンターテインメント)
今日の統計では、29%が25歳未満です。

 

 モデレーター
それは驚きですね。

 

 ジョシュ・グリーンスタイン(ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント)
同感です。驚きでもありますが、現状の総括と言えるのではないでしょうか。映画館ビジネスは今までにないほど活況を呈しています。この場にいらっしゃる各スタジオの作品のおかげで、今年は素晴らしい年になると思っています。ネットフリックスの作品も期待作が目白押しです。楽観的展望を持ち、期待を膨らませていいと考える材料が多くあると感じています。

 

特集:ハリウッドのトップマーケッターが語る映画マーケティング最前線2019

 

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