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ハリウッドのデータ活用最前線とプロの勘所 『ヴェノム』『MEG ザ・モンスター』『クレイジー・リッチ!』大ヒットの背景(前編)
公開日: 2019/04/05

ハリウッドのトップマーケッターが語る映画マーケティング最前線2019(3)

 

連載第3回は、マーケティングにおいて深淵なテーマのひとつ、データと直感の重要性に関して切り込んでいきます。前編となる今回は、ソニー・ピクチャーズのジョシュ・グリーンスタイン氏がデータの重要性を改めてコメント。さらに、ワーナー・ブラザースのブレア・リッチ氏が、『クレイジー・リッチ!』や『MEG ザ・モンスター』を例に、データと直感の間でどのような判断をくだしたのかを明かしてくれました。
※本記事で触れられているサービス内容はカンファレンス開催(2019年3月)時点の情報です

 

《目次》

 

インターネットという世界最大のフォーカスグループ

 

 モデレーター
宣伝戦略を立てる際に、どの程度データや調査を重視されますか? それとも直感的な判断との組み合わせになるのでしょうか?

 

 ジョシュ・グリーンスタイン(ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント)
両方ではないでしょうか。今日登壇されているパネリストの皆さんは、いずれもマーケティングに関して優れた直感をお持ちでらっしゃいますね。ソニーは非常にデータを重視する企業であり、メッセージ発信の点でもターゲティング面でもデータは大いに有用だと考えています。ソニーは、重要な映画鑑賞者に関する独自のデータベースを持っており、信頼を寄せています。映画鑑賞者は一見いろいろなところに点在しているのですが、うまくターゲティングすればROI(投資利益率)が格段に向上することが経験上分かっています。この3~4年で大きな変化がありました。データにアプローチする方法が大きくシフトしているのです。

もちろん、プレイステーションをはじめとする社内他部門とのパートナーシップも重要です。しかし同時に、インターネットを世界最大のフォーカスグループとしてとらえているため、そこから出てくるデータも重要なものだと考えています。

 

 モデレーター
その表現はいいですね。ジョシュは先日もインターネットは自分たちにとって世界最大のフォーカスグループだと言っていましたが、まさにその通りだと思います。

 

フォーカスグループ
定性調査。市場セグメント代表者で少人数のグループ(6名程度)を構成し、特定の製品やサービスに関して互いに意見を出し合ったり、議論をしてもらうことで、定量調査では得られないフィードバックを得る手法。

 

無視できない直感の有用性

 

無視できない直感の有用性

 

 ブレア・リッチ(ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ/ワーナー・ブラザース・ホーム・エンターテインメント)
私もジョシュに賛成です。データは我々のビジネスにとって不可欠なものとなってきました。予算はこれまでと変わりません。しかし、バラエティに富む鑑賞者に対してより多くのアクションを起こさなくてはなりません。だからこそ、賢く、そして従来とは異なった方法で予算を使う必要があるのです。それには、保有するファーストパーティデータの組み合わせ方や、世に出したコンテンツに関する情報収集方法などに関する卓越したスキルが要求されます。

現在我々はAT&T傘下にあります。消費者との直接的な対話という観点から見れば、我が社の優位性は非常に高いといえます。そして、現在我々が注力しているエリアはまさにそこなのです。

しかし、データや調査が計画立案時の重要なツールである一方で、直感の有用性も無視できません。こう申し上げるのは、私が失業しないですむためではありません。それもありますが……(笑)。冗談はさておき、データや調査がある方向性を示しているのを承知の上で、別の方向性を選択したことは何度となくあります。

 

 

例えば、『クレイジー・リッチ!』(全米興収約1億7450万ドル※出典:Box Office Mojo)では、我々の宣伝に対して年配女性からの反応が鈍いというフィードバックがありました。調査によると、タイトルやお金持ちになるという主題がこの層にとって自分ゴトと思えるものではなく、その他の戦略に関しても同様に受け取られていることが原因でした。そこで我々は改めて様々な素材を検証しました。そして、「この映画の本質的な面白さは別のところにある」ことに気づいたのです。

こういった事前に取得できる宣伝に対する反応データや宣伝物の調査は作品の内容を考慮しません。消費者も実際に鑑賞するまでは作品の内容を知りません。我々が鑑賞体験の道筋をつけてあげなくてはならないのです。わたしたちは正しい決断を下したと思っています。展開を検討し、実行テストし、調査が「こちらの道筋の方がいい」と示していましたが、我々は別の道を選びました。

 

 

MEG ザ・モンスター』(全米興収約1億4550万ドル※出典:BOX OFFICE MOJO)も同様です。ご存知の通り、このような映画はハードなアクションアドベンチャーとしてマーケティングしなければ、男性客はつかめないとされました。しかし、「そうか。でも、そうはしない」と判断したのです。(※『MEG ザ・モンスター』は米国で「ホラーコメディ」として宣伝展開を行い成功を収めている)

このように直感は非常に重要です。しかし、ビジネスを推進するにあたってデータはとてつもなく大きな影響を与えます。データがない、あるいはデータを賢く利用することや“データファースト”の考え方なしで、競争力を維持することはもはや不可能です。そこに対して我々は多額の資金を投下しています。

 

特集:ハリウッドのトップマーケッターが語る映画マーケティング最前線2019