記事

第4章 劇場ブランドで作品をレコメンド
公開日: 2020/09/30

『パラサイト 半地下の家族』から学ぶヒットの萌芽  第4章
劇場ブランドで作品をレコメンド~Alamo Drafthouse Cinemaの集客戦略~

 

2019年11月、米国カリフォルニア州サンタモニカで開催された映画見本市アメリカン・フィルム・マーケット(AFM:American Film Market)より、“Breaking the Mold: The Innovators”をレポートします。

近年、映画や音楽などのストリーミングサービスが台頭し、多くのサービスがローンチしています。このような状況下で、劇場チェーンができることとはなんでしょうか。連載第4回は、米劇場チェーンAlamo Drafthouse Cinemaの創業者兼CEOであるティム・リーグ氏が、劇場ブランドで作品をレコメンドするなど、様々な施策を明かしてくれました。

※本記事で触れられている内容は2019年11月時点の情報です

 

《目次》
劇場ブランドで作品をレコメンド

 

予告編をキュレーション・エンジンとして活用

モデレーター
製作会社にとってストリーミングサービスの多さは、配給先の多さを意味するため、有益な側面があるのだと思います。一方で、昨今誰もがストリーミングサービスに多くの時間を費やしているところにも注意を払わなくてはいけません。ティム、このような状況のなか、どのように劇場運営を行っていくべきなのでしょうか。

ティム・リーグ(Alamo Drafthouse Cinema)
ネット上で経験したことがあるかと思いますが、キュレーション(※)の力が大きくなってきています。私たちは作品に対して劇場の太鼓判を押すことを実施してきました。これは、「Drafthouse recommend」と呼ばれるブランドの下に行っているのですが、広告ではありません。キュレートされたものであり、どの作品を勧めるかについて真剣に取り組み、クリエイティブなプロセスを踏んだものになります。幅広い観客層が満足する作品を選び、その作品に対して、我々は情熱を持って取り組んでいます。2年ほど続けてきましたが、みなさんの信頼を得ることができました。 ※キュレーション:情報を特定のテーマに沿って収集し、整理すること。または収集した情報に新たな価値や意味を与えること。

観客層を広げるもう1つの施策も試みています。Alamo Drafthouse Cinemaは、おそらくスタジオに対して予告編上映枠を販売しない唯一の劇場チェーンではないでしょうか。そのため、予告編をキュレーション・エンジンとして活用できるのです。『アベンジャーズ』を例に挙げてみましょう。『アベンジャーズ』を鑑賞しに100万人が来場するとします。その際、我々はその鑑賞者を拡大し、興味を引く公開待機作品は一体なにかということを考えているのです。

Alamo Drafthouse Cinemaは、アートハウス志向を持ちつつ、一般的な商業劇場の側面もある奇妙な運営形態をしています。そこで、商業劇場の側面をエンジンとして用いることで、特に若年層が映画への探求を深めたくなるような興味喚起を行っています。

Drafthouse recommend
『パラサイト 半地下の家族』も「Drafthouse recommend」に選ばれている
※Alamo Drafthouse CinemaのWebサイトより

上映作品の20%を劇場主導で上映

エリック・フェイグ(PICTURESTART)
観客が望むものならなんでも、劇場公開用に製作されたかどうかに関わらず上映するということでしょうか。

ティム・リーグ(Alamo Drafthouse Cinema)
営業収益の内訳をお伝えすると、80%がブロックバスター作品、10%がインディペンデント作品、そして、私の計算が間違いでなければ、9%、もしくは11%が旧作となっています。基本的にそれら作品の20%ほどになりますが、我々が注力でき、観客を呼べる可能性がある作品があれば、上映することになります。

興味深い例として、私が非常に好きな“Raise Hell: The Life and Times of Molly Ivins“というドキュメンタリー作品があります。モリー・アイヴィンス(Molly Ivins)は、テキサスの英雄的存在です。ニューヨーク・タイムズ紙での彼女の仕事について知る人は多くないでしょうが、我々はその作品に注力し、マグノリア・ピクチャーズの配給で劇場公開を行いました。

通常、こういった作品では、大幅な収益をあげることもなく、多大なマーケティング費用を負担することもありません。しかし、その映画の興行収入の85%を得ることができます。我々の戦略に沿ったそういった作品を探し、観客を呼べる可能性があると感じたなら、劇場公開を行うのです。それが、Netflix作品であろうと、Hulu作品であろうと関係ないのです。

エリック・フェイグ(PICTURESTART)
大変驚きました。あなたが選んだ映画が観客を呼べると分かっていたのでしょうか。まさか、「私は観客を知っています。誰も注目していなかったこの旧作や、文化映画、もしくは大作が劇場で息を吹き返すのです」というわけではないですよね。どの程度、オーディエンスに対する調査を行っているのでしょうか。

ティム・リーグ(Alamo Drafthouse Cinema)
みなさんが行っている配給権の獲得と似ています。直感とデータのミックスですね。我々の手元にはたくさんのデータがあります。例えば、ホームエンターテイメント企業との取引履歴があります。そのほか、我々自身の劇場データ――Comscoreのデータから過去20年分の興行データを調べることも可能です。

類似比較作品の調査も行います。我々の劇場で好成績を収め、国内でもうまくいった作品が、ソーシャルメディア上でどのような反応を獲得したのかを調査し、まとめあげるのです。我々は計画に沿ったファイナンシャルモデルを構築し、できるだけ正確なものにしています。しかし一方で、依然ギャンブルであることは心得ています。

 

『パラサイト 半地下の家族』から学ぶヒットの萌芽