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アカデミー賞がグローバル映画興行復興に果たす役割とは?~グローバル興行会社・ハリウッドスタジオ・アカデミー賞主催団体のトップに人気ジャーナリストが切り込む~
公開日: 2024/06/10

特集:CinemaCon2024 Industry Think Tank 映画ビジネスモデルは崩壊したのか? 第2回

米ラスベガスで行われたアメリカを中心に世界中の映画興行・配給関係者が集まる「CinemaCon2024」にて、世界最大の映画興行会社AMC Entertainment、ウォルト・ディズニー・スタジオ、アカデミー賞を運営する映画芸術科学アカデミーのトップが一堂に会するパネルディスカッション“AN INDUSTRY THINK TANK: 2024”が開催されました。
本記事では市場とともに変化しているアカデミー賞について、米国映画芸術科学アカデミーのビル・クレイマーCEOが語った内容をレポートします。

※本記事で触れられている内容は2024年4月時点の情報です

モデレーター
マシュー・ベローニ(Matthew Belloni)
Puck News:創業パートナー、ポッドキャスト“The Town”:主催

パネリスト
アダム・アーロン(Adam Aron)
AMC Entertainment:会長兼CEO

ビル・クレイマー(Bill Kramer)
映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences、AMPAS):CEO

キャスリーン・タフ(Cathleen Taff)
ウォルト・ディズニー・スタジオ:ディストリビューション、フランチャイズ&オーディエンスインサイト プレジデント
《目次》

 

 

グローバル化が進むアカデミー賞の変化

次にマシュー・ベローニ氏が水を向けたのは、アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミー(AMPAS)のCEO、ビル・クレイマー氏。AMPASは、2025年開催の第97回アカデミー賞作品賞の候補基準を改変。2024年度内の公開日から45日以内に、連続・非連続問わず7日間以上北米10都市で劇場公開、海外作品については米国外2都市を含むことも可能、もしくは上位15の国際市場および製作国での公開が義務付けられる。

ベローニ 「これまでの全米6大都市のうち1都市で1週間劇場公開というルールから大幅に改変したのは、ストリーミング・サービスに対する牽制で、劇場で映画を上映させるためでしょうか」。

クレイマー 「作品賞候補だけです。たくさんの理由がありますが、アカデミー賞は劇場での鑑賞体験を重んじています。候補作をNYやLAだけでなく、多くの都市でたくさんの人に観ていただきたい。映画業界にとっても、興行主にとっても、映画芸術の健全性にとっても、そして勝手ながら、アカデミー賞にとっても良いことだと思います」。

ベローニ 「アカデミー賞は過去10年間、多様化という大きなプレッシャーにさらされ、たくさんの米国外会員を増やしてきました。素晴らしい変化を遂げ、アカデミー会員の映画嗜好を広げ、『落下の解剖学』や『ドライブ・マイ・カー』といった米国外の作品が作品賞にノミネートされました。ですが、これらの作品は北米劇場興行収入や、海外市場の興行収入には寄与していません。AMPASは、“バーベンハイマー”のような、観客が実際に鑑賞した作品を取り上げることで、アカデミー賞と人々を関連づけたいのでしょう。この傾向が続くと、作品賞候補の半分が外国語映画となる可能性もあるのではないでしょうか? もしそうなると、米国における映画賞としての妥当性にどのような影響を与えるのでしょうか?」。

クレイマー 「ご存知のように、ABC(ディズニー系列)とAMPASは放送契約を2028年まで延長しました。アカデミー賞授賞式は、およそ200以上の国、地域で放送されています。アカデミー賞や授賞式の未来は、国際化にあります。世界規模の映画祭としての妥当性はますます重要になってきています」。

ビル・クレイマー氏
Photo by Jerod Harris/Getty Images for CinemaCon 2024
 

映画興行市場の復活に向けてアカデミー賞が果たす役割

ベローニ 「アカデミー賞は、映画と映画鑑賞の最大の広告塔でしょうが、受賞作の興行成績は今ひとつです。年末年始に劇場公開され、賞の話題に乗って3億ドル〜5億ドルの興行収入を上げるようなアワード作品はもう生まれないのでしょうか?」

アダム・アーロン 「うまくいかなかったけれど、私は心から『トップガン:マーヴェリック』がアカデミー賞の作品賞を獲るよう応援していました。素晴らしい作品で、世界中の人々が愛し、16億ドルの興行成績を記録した作品ですから。マットの質問の答えは、そうかもしれないし、そうでないかもしれない。でも、私は信じています。なぜなら、世界中で愛されている映画がアカデミーに認められることは、映画ファンの願いでもあるからです。実際、今年は『バービー』がいくつかの賞を受賞し、『オッペンハイマー』が作品賞を受賞しました。多くの人が見た映画がたくさんノミネートされました」。

クレイマー 「アカデミーが進化していく中で、1年に1晩だけでなく、よりたくさんの観客に届くような方法で、どうすれば常に映画を祝福することができるのか、いつも話し合っています。それが映画業界のエコシステムにおける私たちの役割です」。

文/アメリカ・ロサンゼルス在住、エンタテイメントジャーナリスト:平井伊都子

 

特集:CinemaCon2024 Industry Think Tank 映画ビジネスモデルは崩壊したのか?
  • 第1回:映画ビジネスモデルは崩壊したのか?
  • 第2回:アカデミー賞がグローバル映画興行復興に果たす役割とは?
  • 第3回:世界映画ビジネスの復興に向けた展望とトップ企業の使命近日公開

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