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世界映画ビジネスの復興に向けた展望とトップ企業の使命~グローバル興行会社・ハリウッドスタジオ・アカデミー賞主催団体のトップに人気ジャーナリストが切り込む~
公開日: 2024/06/12

特集:CinemaCon2024 Industry Think Tank 映画ビジネスモデルは崩壊したのか? 第3回

米ラスベガスで行われたアメリカを中心に世界中の映画興行・配給関係者が集まる「CinemaCon2024」にて、世界最大の映画興行会社AMC Entertainment、ウォルト・ディズニー・スタジオ、アカデミー賞を運営する映画芸術科学アカデミーのトップが一堂に会するパネルディスカッション“AN INDUSTRY THINK TANK: 2024”が開催されました。
本記事では改めてグローバル映画興行ビジネス復興に向けて登壇者が語った内容をレポートします。

※本記事で触れられている内容は2024年4月時点の情報です

モデレーター
マシュー・ベローニ(Matthew Belloni)
Puck News:創業パートナー、ポッドキャスト“The Town”:主催

パネリスト
アダム・アーロン(Adam Aron)
AMC Entertainment:会長兼CEO

ビル・クレイマー(Bill Kramer)
映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences、AMPAS):CEO

キャスリーン・タフ(Cathleen Taff)
ウォルト・ディズニー・スタジオ:ディストリビューション、フランチャイズ&オーディエンスインサイト プレジデント
《目次》

 

 

破産すべきか、せざるべきか

マシュー・ベローニ氏は、シンポジウム冒頭で掲げた議題「映画ビジネスモデルの崩壊」について、さらに切り込んでいく。彼の仮説では、米国内に約36,000から38,000あるスクリーン数は人口比率において供給過多であるというもの。また、AMCは現在、資金調達をしたり、事態が好転することを祈ってそのまま事業を継続しているようにみえるが、なぜほかの興行会社がやっているように、事業を大胆に再構築したり、破産手続きを踏まないのかと迫った。

対するAMCのアダム・アーロン氏は、多くの関係者に痛みをもたらす破産を避けるのが自分の職務であると回答。また、「新規で60館の映画館をオープンする一方、169か所を閉鎖。新しくオープンした60館の映画館は閉鎖した169か所よりも利益で1億ドル上回っている」と効率化に向けた企業努力の成果をアピール。そして、供給過剰かどうかは見方によるもので、興行全体の規模によって供給過多にも過小にもなりうるものであり、より重要な問いは、今後の産業の規模がどうなるか、その上で採算の悪い古い映画館を閉めつつ、より良い出店地で映画館に置き換わっていくべきだと主張。

一方、メディアでささやかれているよりもAMCの利益は改善しており、それは料金設定、多大なコスト削減努力、そして5,400万ドルのマーチャンダイジングによるものとの考えを明らかにした。パンデミック以降、AMCが82%の利益率の飲食については、値上げと購入者の増加と購入数の増加の要素によって、パンデミック前のアメリカでは一人当たり飲食収入が5ドルだったのが9ドルに上がるなど売上は右肩上がりで、上映作品が増えて観客が増えれば映画ビジネスは活況を取り戻すと反論する。

左からマシュー・ベローニ氏、AMC Entertainmentのアダム・アーロン会長兼CEO
Photo by Jerod Harris/Getty Images for CinemaCon 2024
 

テイラー・スウィフトは必要な100億ドルに満たない映画興行の救世主だったのか?

ベローニ氏は、実はコロナ前と比べて収益力が上がっていてうまくいっている多くの映画館と異なり、「規模をここまで拡大したAMCが今後存続するためには、映画興行収入が100億ドルになることが必須である」という考えを示し、今後の見通しについてさらに切り込む。CinemaConまでの数週間、アーロン氏はハリウッドのスタジオとミーティングを持っていたという。

キャスリーン・タフ 「私たちの今後の公開スケジュールを共有し、これらの作品の企画とマーケティングに関して双方の関係を深め、人々を家から連れ出し映画館へ足を向けてもらう方策を一緒に考えました。とても建設的なミーティングでした」。

アーロン 「先週のミーティングまでは、ビジネスモデルが崩壊していると考えていました。でも、次から次へとミーティングを行うに連れて、2025年、26年と急激に充実するラインナップに驚かされたのです」。

ベローニ 「大作映画は常に存在するし、映画館が消えるなんていうのはナンセンスです。映画館の需要は常にあるでしょう。問題は、これが年間80億ドルのビジネスなのか、それとも年間100億ドルのビジネスなのか、ということです。その20億ドルの差が、廃業する企業と存続する企業の違いなのだから」。

アーロン 「マット(・ベローニ)は100%正しいです。これは私が断言しないといけないと思いますが、映画市場は今後、100億ドルに近づくことは間違いないと確信しています」。

ベローニ 「テイラー・スウィフトの映画ではAMCはいくら儲けたんですか? 利益は8,000万ドルほどだという情報がありますが」。

アーロン 「テイラーとビヨンセの映画で、AMCは大儲けしました。もっと増やせるなら増やしたいですし、私たちは大歓迎です。平均座席占有率が15%から20%だとして、さらに数本のコンサート映画を追加したところで、ディズニーやワーナーやユニバーサルの売上を奪うわけではありません。実際、2023年第4四半期にテイラー・スウィフトのチケットをたくさん販売しましたが、同四半期にディズニー、ユニバーサル、ワーナー、ソニー、パラマウントのチケットをAMC以上に販売した興行会社はありませんでした。映画館にはたくさんの空席があります。座席の供給は、現在の需要よりもはるかに多いのです」。

 

映画崩壊を防ぎ、再び繁栄を目指すトップたちの意思表明

タフ 「かつての100億ドルビジネスではなく、80億ドルにとどまっている原因は2つあると思います。1つは、映画館へ行く回数が減っていること。パンデミック以前は年6回だったのが、4回ほどになっています。そして直接的な影響は、拡大公開作品が減ったままであること。(CinemaConの)ワーナーとライオンズゲートのプレゼンテーションを見て興奮しました。素晴らしいラインナップで、映画館は盛況になるでしょう。テイラー・スウィフトは、人々を映画館に連れ戻したと思います。私たちはこの4年間、映画館へ行く習慣を失っていたのです。映画は、デートや家族連れにとって最も手軽なエンターテインメントであることに変わりはありません。人々が映画館へ行き、それが定期的になれば習慣になります。私たちが本当にすべきことは、人々を映画館へ呼び込むことです。最大の問題は、どうすればそれができるかということでしょう。どうすればもっと緊密に協力し合えるのでしょうか。興行、配給、アカデミーが業界全体で協力し合い、これは素晴らしいチャンスだと言えるようになるにはどうすればいいのでしょうか」。

アーロン 「拡大公開作品を米国とカナダの3,000スクリーン以上で公開された映画と定義するならば、パンデミック前年の2019年には84本あり、2024年は64本です。あなたがどれだけ映画マーケティングに長けていても、64本の映画が84本の映画を上回ることはありません。私たちが大きな関心を持っていることの一つは、2025年には何本になっているかということです。84本にはならないかもしれないけれど、64本以上になれば、映画業界全体にとって喜ばしいことです。映画館に足を運ぶ人が1人増えるごとに、その収入の約65%が興行会社の収益(映画の興行収入とコンセッションなどの売上から)につながることを忘れないでください」。

AMCのアダム・アーロンCEO、ディズニーの劇場配給担当社長キャスリーン・タフ氏、そしてAMPASのビル・クレイマーCEOの3名と、彼らに鋭い質問を投げかけるマット・ベローニ氏の司会によるシンポジウムで、およそ1時間の白熱の討論が行われた。少なくともこの場では、興行、スタジオ、アワードと同じ業界の異なる事業に従事する3人の意見は統一されていた。人々を映画館に連れ戻し、映画館で映画を観ることを習慣づければ、崩壊寸前だった映画館ビジネスは再び盛り返すことだろう。そのためには協業が必要不可欠である、という。アーロン氏が繰り返し「あなたは手ごわいインタビュワーだ」と口にしたベローニ氏の深い業界知見、鋭い指摘を以てこのような歯に衣着せぬ討論が行われたのは、2024年のCinemaConの大きな収穫と言える。

文/アメリカ・ロサンゼルス在住、エンタテイメントジャーナリスト:平井伊都子

 

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