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グローバル市場における日本映画をけん引するのは若手クリエイター
公開日: 2024/07/19

特集:Cannes2024 国境を越えて:日本映画のグローバル市場における可能性と展望 第1回

「第77回カンヌ国際映画祭」併設マーケット、マルシェ・ドゥ・フィルム(開催期間:5月14日~23日)にて、「Beyond Borders: The Power and Prospects of Japanese Film Content | Presented by JETRO」(開催日:5月15日)と題されたセッションが開催されました。パネリストには、同映画祭にて上映された『ぼくのお日さま』『ナミビアの砂漠』のプロデューサーと、STUDIO4℃として知られるアニメ制作を手掛ける株式会社スタジオよんどしいや日本映画の海外配給会社のトップが登壇し、海外市場における日本映画の可能性と展望について意見を交わしました。そのセッションの様子をレポートします。
第1回では、日本映画界を盛り上げる新進気鋭のクリエイターへの期待、日本映画の魅力と可能性について語られた箇所を紹介します。

※本記事で触れられている内容は2024年5月時点の情報です。

モデレーター
牧野直史
日本貿易振興機構(JETRO):ジェトロデジタルマーケティング部 主幹

スピーカー
澤田正道(Sawada Masa)
Comme des Cinémas:プロデューサー

エリック・ル・ボ(Eric Le Bot)
Art House Films:代表

小西啓介
株式会社ハピネットファントム・スタジオ:代表取締役社長

田中栄子
株式会社スタジオよんどしい、株式会社美よんどしい:代表取締役社長 / プロデューサー

サン・フ・マルタ(San Fu Maltha)
Periscoop Film, Go Anime, Fu Works:共同経営者

《目次》

 

 

カンヌでも注目を浴びる日本映画と世界を舞台に活躍する日本の若きクリエイター

本パネル冒頭、モデレーターを務める日本貿易振興機構(以降、JETRO)の牧野直史氏が、『ゴジラ-1.0』のアカデミー賞視覚効果賞受賞や、『君たちはどう生きるか』のアカデミー賞長編アニメーション賞受賞、スタジオ・ジブリの名誉パルムドール受賞など、日本映画の世界的な好調について語りました。また、本パネルが開催されたカンヌ国際映画祭では、奥山大史監督の『ぼくのお日さま』がある視点部門において、山中瑶子監督の『ナミビアの砂漠』がカンヌ国際映画祭に併設されている監督週間において上映(のちに国際映画批評家連盟賞を受賞)となっているなか、牧野氏が本パネルに登壇する両作品の関係者を紹介し、日本映画の現状と魅力について問いかけました。

左から、牧野直史氏、澤田正道氏、エリック・ル・ボ氏、通訳、小西啓介氏、通訳、田中栄子氏

まず、35年前からパリに拠点を持ち、日本とフランスの共同映画製作を行うComme des Cinémas 代表の澤田正道氏が、『ぼくのお日さま』について「東京テアトルから声がかかり共同製作した『ぼくのお日さま』は、奥山大史監督の感受性と作家性がいいバランスで出ていると思います」と紹介しました。また監督の28歳という年齢について、『大人は判ってくれない』を27歳で製作したフランソワ・トリュフォー監督の「私はこの年でなければこの作品を撮れなかったであろう」という発言を例に挙げながら、「奥山監督にとってもこの作品はそういうものであり、決して背伸びすることなく、その時にしか撮れない作品、その時にしか得られない果実を手に入れたと考えます」と語りました。

物語の内容はシンプルで、アイスホッケーでうだつの上がらない少年が、フィギュアスケートを練習する少女に心奪われ、彼女とペアでアイスダンスに挑戦するという内容。冬の訪れから春にかけて成長する少年の姿を描いていると紹介しました。「内容がシンプルであればあるほど、そこに豊かなエモーションが映えます。奥山監督のポエジーとファンタジーが根付いた作品だと思います」。

2023年にA24と独占パートナーシップ契約を結び、「アジアのクリエーターの作品を共同で作っていく」と表明した映画製作・配給会社のハピネットファントム・スタジオ代表取締役社長の小西啓介氏も、優れた作品を生み出す日本の若いクリエイターについて強調。「今回出品されている『ナミビアの砂漠』の山中瑶子監督も27歳と若く、今の世代にしか作れない作品だ」と言及しました。

 

閉鎖性が海外市場における日本映画の魅力を生み出す?

本パネルの中心テーマである日本映画の魅力についてComme des Cinémasの澤田氏は、日本特有の閉鎖性からでてくる作品のオリジナリティであるとの考えを示しました。「フランスをはじめとした欧米では、流行や文化がすぐに国境を越えていくが、日本に到着した文化は日本でストップし、国内でコピーを重ねていった結果、独自のオリジナル作品が作られてきました」。

フランスで多数の日本映画を配給しているArt House Films社の代表であるエリック・ル・ボ氏は、フランスでの日本映画の人気ぶりを語りました。「2023年のフランスにおける日本映画の市場は躍進しており、(フランス国内でのシェアは)2倍になりました。フランスではアニメはもちろん、事実に基づいた作品が日本映画の人気を高めていると考えています」。

また同時に国際映画祭で日本映画を発信する中で、日本の作品があまり知られていないことに気が付いたと語るル・ボ氏。「釜山国際映画祭で日本が出品しているような作品が、ヨーロッパでは配給されていません。一方で、『浅田家!』はフランスで26万人の観客を動員しましたし、同じく『HOKUSAI』は国際映画祭には出なかったものの、フランスでも大盛況でした。アート作品に限らず、映画祭には出されていない優秀な商業作品が多数あると思います」と日本映画の潜在的な可能性について語りました。

 

日本映画を盛り上げる新しい潮流

一方、ハピネットファントム・スタジオの小西氏は、現在の日本映画について別の視点を示しました。「国際映画祭のようなマーケットに来ると日本の実写映画の力が落ちているとよく言われていて、まずいなと考えています。90年代までは、黒澤明監督、大洲斉監督、溝口健二監督が活躍した、日本映画が一番パワーを持っていたころのブランド力でやってこれました。昨今は、日本映画全体、コンテンツの力というよりも是枝裕和監督や河瀨直美監督といった個人の力によって盛り上がっていると考えています」。

同時に新しい日本映画の流れに乗ることの重要性についても触れ、「配信サービスの普及で人々がコンテンツに触れる機会が増えたこと、世界に通用する作品を作る若いクリエイターの存在で、日本映画の新しい流れが生まれてきており、この流れに乗らなければいけない」と強調しました。また、日本映画業界全体を盛り上げるためには、若いクリエイターへの支援が必要と語る小西氏。「(世界で注目されるには)個人の力では限界があります」とし、JETROのような機関のサポートの重要性を指摘しました。

 

特集:Cannes2024 国境を越えて:日本映画の海外市場における可能性と展望