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拡大する日本アニメ市場~世界をとりこにする魅力に迫る
公開日: 2024/07/24

特集:Cannes2024 国境を越えて:日本映画のグローバル市場における可能性と展望 第2回

「第77回カンヌ国際映画祭」併設マーケット、マルシェ・ドゥ・フィルム(開催期間:5月14日~23日)にて、「Beyond Borders: The Power and Prospects of Japanese Film Content | Presented by JETRO」(開催日:5月15日)と題されたセッションが開催されました。パネリストには、同映画祭にて上映された『ぼくのお日さま』『ナミビアの砂漠』のプロデューサーと、STUDIO4℃として知られるアニメ制作を手掛ける株式会社スタジオよんどしいや日本映画の海外配給会社のトップが登壇し、グローバル市場における日本映画の可能性と展望について意見を交わしました。そのセッションの様子をレポートします。
第2回では、日本映画のなかでも特にアニメの魅力と、海外での日本アニメ流通拡大に向けた取り組みについて語られた箇所を紹介します。

※本記事で触れられている内容は2024年5月時点の情報です。

モデレーター
牧野直史
日本貿易振興機構(JETRO):ジェトロデジタルマーケティング部 主幹

スピーカー
澤田正道(Sawada Masa)
Comme des Cinémas:プロデューサー

エリック・ル・ボ(Eric Le Bot)
Art House Films:代表

小西啓介
株式会社ハピネットファントム・スタジオ:代表取締役社長

田中栄子
株式会社スタジオよんどしい、株式会社美よんどしい:代表取締役社長 / プロデューサー

サン・フ・マルタ(San Fu Maltha)
Periscoop Film, Go Anime, Fu Works:共同経営者

左から、牧野直史氏、澤田正道氏、エリック・ル・ボ氏、通訳、小西啓介氏、通訳、田中栄子氏
《目次》

 

 

STUDIO4℃ 田中代表が語る日本アニメの魅力

STUDIO4℃(株式会社スタジオよんどしい)の代表取締役社長を務める田中栄子氏が、5年以上秘密裏に制作してきた『火の鳥 エデンの花』を紹介。自身がプロデューサーを務めた作品を紹介しつつ、スタジオジブリで『となりのトトロ』『魔女の宅急便』を担当した際に、宮崎駿氏に「プロデューサーとはお金を集める人のことを言うんだ。君はラインプロデューサーだ」と言われたことを懐かし気に語りました。

同氏は、モデレーターからの日本アニメの魅力とはという問いかけに対して、3つの要因があると答えました。「1つ目は、教育的・社会的なコンテンツとしてではなく、大人向けでボーダーレスな作品として作られた点。2つ目は、ローカライズして現地の言葉に翻訳されることで、その国の人々にとって親しみやすいコンテンツになるという点。3つ目は、『となりのトトロ』が今でも愛されているようにいつまで経っても古くならない点だと考えます」。

 

幅広い層に訴求できる日本アニメをヨーロッパで広げる

Periscoop FilmやGo Animeなど、オランダでの日本映画の配給に携わる企業のトップ、サン・フ・マルタ氏は、Meteor Film Productionsで海外作品の買い付けを担当していた頃、初めて契約した日本のアニメ『AKIRA』を例に挙げながら、日本作品の魅力について語りました。「私はヨーロッパのカートゥーンで育ちましたが、映画化されるとキャラクターが原作と異なり非常にがっかりした経験があります。日本のアニメは子どもも楽しめながらも大人向けで、キャラクターが際立っており、デザインも芸術性があると感じ、好きになりました」。

一方で、日本のアニメをオランダはじめベネルクス3国で配給するうえでの、若者にアプローチする難しさを示すマルタ氏。「オランダにもCrunchyroll(クランチロール)はありますが、英語字幕があるだけです。もちろんオランダでも(海外作品の)吹き替えをしますが、子ども向けの作品に限定されており、14歳以上で英語を話さない層にはリーチできないのです」。マルタ氏は若者が継続的にアニメに触れられる環境を作りたいという考えのもと、コロナ禍以降推し進めているプロジェクトについて共有しました。

1つ目にアニメに特化したAVODプラットフォーム“GO Anime”の立ち上げについて、2つ目にオランダでは初めて展開されるサムスンのスマートチャンネルSamsung TV Plus内に開設するアニメチャンネルについて紹介。「若者はお金を払いたがらず何でもタダで観たがるので、広告収益型の無料で鑑賞できるプラットフォームにしました」。3つ目に、オランダの配信サービスVideolandにアニメを販売したことを共有。そして4つ目に、Amazonプライム・ビデオ内にGo Animeチャンネルを開設する予定だと語りました。

またマルタ氏は、今後のオランダでの日本アニメ配給の意気込みについて、独自のプラットフォームを通して多様なジャンルに対応していく旨を示しました。「フランス、イギリスといった他のヨーロッパではより多くのジャンルが観られている。オランダではまだ男性向けのアクションアニメが人気だが、女性の観客も大事にしていき、様々なジャンルを配信していきたい」。

 

日本コンテンツのグローバル進出を幅広く後押しするJETROの取り組み”Japan Street”

日本コンテンツビジネスの第一線で活躍する国内・ヨーロッパの大ベテランたちが自身の経験に基づく洞察を語ったのち、モデレーターの牧野氏から最後にJETROが推進する、「ジェトロ招待バイヤー専用 オンラインカタログ『Japan Street』」を紹介。「同サービスは、日本のコンテンツ提供者と海外のバイヤーをつなげるオンラインプラットフォームで、現在700以上の作品が登録されています」と説明し、本パネルディスカッションを締めくくりました。

 

特集:Cannes2024 国境を越えて:日本映画の海外市場における可能性と展望