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2023年アニメ産業市場規模が史上最高値を更新・スペシャルセッション「日本のアニメーションの海外展開、未来への展望」レポート
公開日: 2024/11/01

特集:TIFFCOM 2024 第2回

東京国際映画祭(TIFF)併催のビジネス・コンテンツマーケット「TIFFCOM」にて10月31日、スペシャルセッション「日本のアニメーションの海外展開、未来への展望」が開催されました。同セッションでは、株式会社ビデオマーケットから2023年の日本アニメの海外売上についての発表・解説が行われ、そのうえでシンエイ動画株式会社、株式会社トムス・エンタテインメントが取り組んでいる海外展開と今後の展望についてディスカッションが行われました。セッションの様子をレポートします。

※本記事で触れられている内容は2024年10月時点の情報です。


モデレーター
小野打 恵
株式会社ヒューマンメディア:代表取締役社長

プレゼンター
増田弘道
株式会社ビデオマーケット:代表取締役社長

梅澤道彦
シンエイ動画株式会社:代表取締役社長

吉川広太郎
株式会社トムス・エンタテインメント:取締役 上席執行役員

まずモデレーターの小野打氏が、今年の6月に「新たなクールジャパン戦略」が発表され、日本のコンテンツ産業における海外市場を、2033年に20兆円規模にまで成長させるという目標が設定されたことについて紹介し、本セッションの前提を明らかにしました。

《目次》

 

 

2023年のアニメ産業市場は国内外合わせて、3兆3,465億円

増田弘道氏
© TIFFCOM 2024

上記の海外展開目標を受けて、株式会社ビデオマーケットの顧問を務める増田氏が登壇し、日本動画協会が行ったアンケートなどをもとにしたアニメ産業規模についての詳しいデータを発表しました。2023年のアニメ産業市場は国内外合わせて、3兆3,465億円を記録。これは前年比114.3%の4,188億円増となり、史上最高値を更新したことを明らかにしました。

さらに、アニメ産業の内訳を「商品化」「遊興」「配信」「ライブ」「TV」「映画」「ビデオ」「音楽」「海外(展開)」で分類したところ、そのなかで「海外」が最大の割合を占めていることを示しました。そして、国内市場が1兆6,243億円(49.5%)、海外市場が1兆7,222億円(51.5%)と、海外市場が国内を上回ったことを発表。国内・海外市場が逆転するのは、2020年以来2度目となります。

一方で、アニメ産業は年々成長しているものの、2033年に20兆円を達成するためには、売り上げの急拡大が必要と語る増田氏。「単純に計算すると、年間5,000億円超の売り上げアップが必要になります。これは、毎年海外に1つディズニーランドを建てるほどの金額に匹敵します」。同氏は売り上げ増加の戦略について、シンエイ動画社とトムス・エンタテインメント社から語られることを期待しながら締めくくりました。

 

『化け猫あんずちゃん』をはじめとした海外共同制作や既存IPの海外配信に取り組むシンエイ動画

左から、小野打恵氏、吉川広太郎氏、梅澤道彦氏
© TIFFCOM 2024

続いてシンエイ動画株式会社の梅澤代表取締役社長と、株式会社トムス・エンタテインメント(以下、TMS)の吉川取締役 上席執行役員が登壇して、日本のアニメ制作会社として取り組む海外展開について紹介しました。

まず梅澤氏が、フランスの制作会社Miyu Productionsと共同で制作した『化け猫あんずちゃん』を紹介しました。同作品はフランスで昨年8月に公開され、192スクリーンで上映されました。またカンヌ国際映画祭「監督週間」に選出されたほか、数々の映画祭で上映され、優秀な結果を残しており、今後も各国の映画祭を回る予定であることを語りました。ほかにも韓国の人気キャラクター『MUZIKTIGER』を、韓国のアニメ制作スタジオ大元メディアと共同でアニメ化することを発表しました。

また梅澤氏は、新規制作のほかに、既存IPの海外展開にも注力していることを明かしました。『あたしンち』をYouTubeに展開し、字幕の多言語化を行なった結果、台湾、韓国をメインに海外から人気を博し、公開から4カ月でチャンネル登録者数が9万人増加。また、『PUI PUI モルカー』の1期、2期をアジア・欧米で展開したところ、米ニューヨーク・タイムズ紙をはじめとして各国のメディアで取り上げられ衆目を集めたといいます。今年11月には劇場版『PUI PUI モルカー ザ・ムービー MOLMAX』が公開される予定で、2025年には台湾、香港での上映も決定していることを明かしました。

 

劇場版『名探偵コナン』の中国興収約60億円など、海外ライセンス領域が拡大するトムス・エンタテインメント

TMSの吉川氏は海外展開における自社の強みを、海外拠点による広いサービスエリア、各国主要クライアントとのネットワークがあるからこそ実現できる積極的な営業活動、世界各国での映画配給ノウハウとそれによる国と地域にあった宣伝プランニングであると強調しました。

また、グローバル配信プラットフォームの普及や上映ビジネスの拡大を追い風に、年平均成長率約30%と海外ライセンス領域が大きく成長していることを明らかにしました。今年8月に中国で『名探偵コナン』劇場版シリーズ最新作『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』が公開され、興行収入2.8億元(約60億円)を突破し、劇場版シリーズの興行成績を更新。加えて、『範馬刃牙』がNetflix週間グローバルTOP10(非英語シリーズ)にて2位を獲得したことを自負しました。ほかにも『Dr.STONE SCIENCE FUTURE』『SAKAMOTO DAYS』『ハニーレモンソーダ』といった人気作品のTVアニメ化が決まっており、海外展開も視野に入れていると語りました。

 

今後の課題と制作会社としての役割

セッションの終盤に差し掛かりモデレーターの小野打氏が、2033年までに20兆円に規模拡大させるために、アニメ制作会社として解決するべき課題と今後の展望について問いました。

まずTMSの吉川氏からは、「インドや中南米、アフリカなど展開できていないエリアを開拓していきたいと思います。同時にそれぞれの国や地域で異なるニーズを見極めて、楽しめる作品を提供する必要があります」と、営業エリアの拡大、作品力の向上が挙げられました。

シンエイ動画の梅澤氏も同様に、海外営業エリアを拡張していくことに同意しながら、一方で、アジアをメインに市場拡大していくメリットについて言及しました。「海外と一言でいえども、政治的・宗教的な理由で展開が制限されてしまう地域もあります。アジアを中心に、日本と感覚が近い国や地域でマーケットの拡大を目指していくのも良いでしょう」。

同時に、梅澤氏は1作品あたりのコストが上昇するなかで、期待される国益のために、また会社の収益のために、今後どのように売り上げを伸ばしていくのかが課題であると語りました。「売り上げを3倍にするとして、現状制作本数を3倍にすることはできません。人材あっての制作なので、今ある資源を利用して最大限売り上げを伸ばしていくことが重要です。そのためにはより質の高い作品を作り、作品の単価を上げていく必要があります」と締めくくりました。

セッションの最後に行われた質疑応答で、会場からコスト削減のためにAI生成をどのように活用するかについて質問が上がりました。TMSの吉川氏は、本格導入の見通しこそは立っていないものの、既存のIPを使って実験を行っていると回答。またシンエイ動画の梅澤氏も部分的な活用はできると踏んで研究していると回答しつつ、現段階では作品をローカライズする上で翻訳する際に活用するのが有効であると語りました。

 

取材・構成:李 錦香

特集:TIFFCOM 2024