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エンタテイメント業界におけるデータサイエンティストの活躍事例
公開日: 2016/11/10

メディアとエンタテインメント界におけるデータサイエンティストの台頭(2) - rise of data scientist in media -

昨年ロサンゼルスで開催された米Variety誌主催の映像業界関係者向けのカンファレンス"Variety's Big Data Summit"において、「メディアとエンタテインメント界におけるデータサイエンティストの台頭」というテーマで語ったセッションのレポート第2弾。

 

ビッグデータを扱う大手メディア企業のデータサイエンティストらが、マーケティングにおいて看過できないビッグデータにまつわる現状を、実例とともに語る「データサイエンティストの台頭」シリーズの第二回目は、データサイエンティストらがそれぞれの目的に合わせて、どのようにデータを取得し、解析していったか、また、その過程でどのようなことを行ったかを紹介する。

 

モデレーター:

トッド・サプリー ( PwC エンタテインメント&メディア/パートナー )

 

パネリスト:
マット・マロルダ ( レジェンダリー・エンタテインメント/チーフ・アナリティクス・オフィサー )
ジョン・コーレン ( エレクトロニック・アーツ/プリンシパル・データ・サイエンティスト )
トーマス・ブラウン ( LAギャラクシー/ビジネス・オペレーション、ディレクター )
ウェイン・ピーコック ( ウォルト・ディズニー・カンパニー/アナリティク・インサイツ&ビジネス・インテリジェンス、ヴァイス・プレジデント )
ジェリマイア・ハモン ( ABCテレビジョン/プリンシパル・データ・サイエンティスト )

『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』では何が行われたのか?

まずは映画の事例として、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を紹介する。

 

ウォルト・ディズニー・カンパニーのアナリティック・インサイツ&ビジネス・インテリジェンス ヴァイス・プレジデントであるウェイン・ピーコックは、「何をやっていないかという話をした方がいいのかもしれません。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』では、皆さんが想像し得る限りのすべてのことを分析しました。ファンの真相をより深く知るためにできる限りのことをしています。熱狂的な観客に準備を整えてもらい、チケットを買ってもらうためです。これに関わっているチームは、ソーシャルメディアにもデジタルメディアにも膨大な時間を割いています。本当に多くのエネルギーと思考、時間、努力を必要とします」。

 

スター・ウォーズの観客は、熱狂的かつ巨大なファンベース。「これほどの数の観客がいることの利点は、より多くの、より濃いデータセットを得られることです。作品の様々な要素、例えば俳優や登場人物やセットやシーン、象徴など、これまで公開された作品についてファンが語るデータは、関係性を理解する機会になりますし、将来的に他の分析や他の作品にも適用できる望みのある非構造化データやインサイトに繋がっていきます。これほどの膨大な量のデータがあることは、データサイエンスの活力となります。この作品が、これほどのエネルギーと興奮と観客の集積を持っていることはとてもエキサイティングです」。

野球観戦の事例:ビッグデータ活用で1人席チケットの売れ残りを解決

前回の記事で触れたスポーツ観戦チケットの販売におけるビッグデータ活用も興味深い。

 

現在はLAギャラクシーでビックデータを扱うトーマス・ブラウンが、AEG Sportsでプロアイスホッケーチーム「LAキングス」に在籍していた時のこと。アリーナのチケットを販売する際、1席ずつ残ってしまうことが悩みの種であったという。観客はいつでも親しい者同士数人で観戦したいものだし、できればほかのグループとは少し離れて座りたいと考えるからだ。その解決方法をトーマス・ブラウンは、ビッグデータから導き出した。

 

「私は、以前AEG Sportsで少しだけ、プロアイスホッケーチーム「LAキングス」の仕事をしていました。このロサンゼルスのチームはとても恵まれており、すべての試合でほとんどのチケットが売り切れます。ただし、1席の座席が少しずつ残ってしまう。誰も1人では座りたくありませんし、1人で試合を観に行きたくもありません。このプロジェクトに取り掛かった時は、全試合で1人席が数百余っていました。発表が売り切れだとしても、1人席は残っており、完売ではなかったのです」。

 

課題は、どうすれば人々に1席空けずに購入させるか。または一つずつ残った席を合わせて売ることができるか、ということだった。このプロジェクトに取りくんだ結果、数百あった1人席を二桁代にまで減ったという。そして収入は増加し、強固なファンベース作り、さらにはシーズンチケットの購入の基盤となっていた。機会損失を減らし、収入増加を実現する。トーマス・ブラウンは、「それは1人席だろうが広告だろうが同じです」と語った。

コンテンツ業界ではどのようなデータを収集すべきなのか?

その会社が扱う商品がなんであれ、使命は同じであり、そのために多くの会社が消費者データを直接収集して、チームを組織する。では、その使命を果たすためのデータはどこから、どのようなものを収集するのだろうか。 構造化データなのか?非構造化データなのか?

 

消費者に対してダイレクトにアクセスしていないABCテレビジョンのジェリマイア・ハモンは、「SNSが出現したばかりの頃は、消費者は自分が何を好きか、何を嫌いか、何に興味を持っているか、何を見たいか、といったことを常に語っていました。ソーシャルな空間で様々な意見が語られていても、そこからデータの本質を掘り下げるのはとても困難なことでした」と非構造化データを解析してきたことを告白する。

同社は、スタジオの持つ消費者との関係をベースとする伝統的なタイプのデータも応用し、SNS上の非構造化データの解析に務め、どうビジネスに適応させていくべきなのかを探っていった。
 

レジェンダリー・エンタテインメントのマット・マロルダも同様で、様々なプラットフォームにつながり、何十億ものツイートをサーバーに保存して、非構造化データの文脈分析を行っているという。それをどのように利用するのかというと、「我々の場合、ある映画のマーケティングプラン、または製作面でのプランのためなので、どういう観客を惹きつける必要があるかはわかっています。ですので、ソーシャルメディアでやることは、決まり文句や典型的な分析を吹き込み、観客が最も引き寄せられるのはどこかを見つけることです。

 

観客はどのグループに属するのか。我々が製作しようとしているコンテンツにどのように関係するか。そして従来のリサーチ方法とデジタルの両方でテストを行います。そうしてギャップを埋め、接続点を縮めていき、より実用的な特性を掘り下げて、本質を導き出し、クリエイティブな過程にそれをフィードバックさせます。このフィードバックが繰り返し行われます。

 

究極には、我々がやっていることは、観客のグループを作り、ネットワークの中から個人を特定し、我々のビジネスに関わる映画についてどのように会話しているのかを把握しようということ。そして我々が製作するコンテンツに夢中になってもらうのです」。

データの洪水におぼれないために他の業界のデータと知見を活用する

本質を導くためにデータの嵐をどう乗り超えていくか?
 

ABCテレビジョンのジェリマイア・ハモンは、「とても具体的な道を選んでいます。パターンを見出し、マクロのレベルでの傾向をつかみ、具体的に掘り下げます」といい、レジェンダリー・エンタテインメントのマット・マロルダもそれに賛同する。


「我々も同じことをしています。他の業界や分野からデータを借りてきています。関係性の理解という点では少し経験が長いので、何らかの具体的行動を起こさせてデータを掘り下げることができるのです。そのためグーグルなどシリコンバレーの会社にいる友人らと多くの時間を費やしました。彼らは大量のデータを扱い、そのデータから関係性や関連性を導き出すのが得意です。

 

金融企業からも学びました。この業界もまた、極小のデータから消費者行動を見極めることに長けています。またセキュリティ関係の業界にも目を向けました。彼らはデータを掘り下げノイズをふるい分けて、表面下で迫りつつあり、やがて出現する出来事を見つけるのが得意なのです。主に、こういった業界で使われる技術が我々にも適用できたので、そういった成功例や失敗例をたくさん応用しました」。たくさんの非構造化データから、見本を抽出し、行動を理解する。

 

ゲームのプラットフォームを運営するエレクトロニック・アーツのジョン・コーレンは、「我々は、データとは分布だと思っています。例えば『Star Wars バトルフロント』の何百万人ものプレイヤーを扱いながら、そこからとても簡単な方法でインサイトを引き出すことができるのです。このゲームのベータ版は、一週間で800万人がプレイしました。そこから膨大な量のデータを引き出すことができます」。

データサイエンティストの課題とは?

ではそんなデータサイエンティストはどんな問題、課題を抱えているのか?

 

LAギャラクシーのブラウンは、「データが全部一致するとは限らないことです。収集の方法の問題で、同じ顧客からのデータとは限らないからです。最も大変なことは、この人が誰なのかを絞り込むこと。入ってきた観客全員のことを知る必要があります。すべてを知ることに取り組んでいるところです」。

 

エレクトロニック・アーツのコーレンは、「私はデータの質の問題を抱えています。我々のデータは、マイクロソフトやソニー、アップル、グーグルといったサーバーのゲームの顧客から収集するのですが、そのために持っている膨大な広告源の情報が、すべて我々の中央保管庫に入ってくる。問題を発見しても、それがどこにあるのかを浮き上がらせるのは非常に困難ですし、組織的な問題として扱わなくてはなりません。責任追及をしたがる人もいますが、私はそれを超えたところで質こそが問われるべきだと主張しています。何が問題を発生させたかはどうでもよく、データの精度を上げるのみです」。

 
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次回では、ビッグデータ分析の組織における導入とデータサイエンティストチームの構成、グローバル展開の現状とともに、改めてビッグデータ分析の本質に関する各パネリストの考えをまとめる。

メディアとエンタテインメント界におけるデータサイエンティストの台頭 レポート

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