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テレビは見なくなっている?デジタルVSテレビの議論に意味はあるか
公開日: 2017/06/23

ハリウッドマーケティングリーダーが語る「映画公開の最新理論と実践」 (3)

<連載>ハリウッドマーケティングリーダーが語る「映画公開の最新理論と実践」

 “Studio Roundtable: The Art and Science of Opening a Film”

ハリウッドマーケティングリーダーが語る「映画公開の最新理論と実践」の3回目。スピーカーやセッションの概要は連載1回目(大ヒットを生み出す「イベント化」と「ライフサイクルマーケティング」)をご覧ください。

テレビ放送は観客を失っているとは思わないが、どこに顧客がいるのかがわかりにくくなっている

サラ・チャザン(モデレーター)

このパネルディスカッションの概要には「映画会社のマーケターはいかにしてテレビとデジタルの配分を決定しているのか」とあります。いま、消費者がどんどん放送からオンデマンド型にシフトし、テレビもこれまでの在り方から根本的に変わろうとしている中、将来的な変化の見通しはどのようなものでしょうか。宣材クリップのあり方はどのように変わると思われますか?またクリエイティブ戦略上の好機となるとお考えでしょうか?
 

デボラ・ブレット(バイアコム)

(ケーブルテレビ局向けチャンネル事業を営む)我々は、実際には視聴者を失ってはいないということがわかってきています。人々にはいまでも娯楽が必要です。ただ、我々が学んだことは“人々が娯楽を探す場所に境界はないということです。人々はリモコンボタンを押しているかもしれないし、マウスでクリックしているかもしれないし、スマホをスワイプしているかもしれない。

こういったプラットフォームに関わらず、彼らが望む時にダイレクトに娯楽を提供するにはどうすればよいのでしょう?そして宣伝活動を両面から実施できているでしょうか?自身のメッセージをいかに伝えるかも大切ですが、いかにTV局、デジタル事業者、SNS、SNS上の有名人の力を借りて、作品を話題にしサイクルを完結することも重要です。

映画マーケティングで最も重要な要素は、ワンツーパンチを繰り出すことだという考え方がありますよね?

例えばある意味映画会社は非常にラッキーで、映画クリップが広告素材になります。しかし同時にそれらの資産は非常に限られていて、出し過ぎると本編への興味を削ぐことになりかねません。これらの会社はどのようにして素晴らしいマーケティングを始めたのでしょうか?今を映すコンテンツはどうやって生まれるのでしょう?競争する代わりに、どこであなたの話をしてストーリーを完結させるのでしょう?こういったこと視点が大切になっていると思います。

「テレビVSデジタル」の対比よりも本質的な変化は、「枠を買う」から「顧客プロファイルを買う」へのシフト

ジョナサン・ヘルフゴット(オープン・ロード・フィルムズ)

メディアバイイングに関して、テレビかデジタルかという議論は、25年前にあったネットワーク系かケーブルかという話に似ています。5年も経てば両者を区別することすらなくなると思っています。

私にとって本当の違いは、大まかに言うと、デジタルでは番組枠を買うのではなく顧客層、または顧客のプロファイルを買います。YouTubeであれSNSであれプログラマティック広告であれ、特定のプロファイルに属する映画好きに対してアプローチするのですから、「ロマンティックコメディだから『バチェラー』でCMを打とう」よりも格段に効率が上がります。

もちろん作品ごとに違ってきます。宣材と映画やコンテンツを適切なオーディエンスに、今どこにいるかに関わらず届けることに尽きるのです。

顧客プロファイルをさらに行動ベースで掘り下げる。その映画を観たいと思っている人と、観たい映画がなくて週末どうしようかと考えている人では施策は異なるべき

ポール・ヤノーバー(ファンダンゴ)

テレビの場合には顧客はリビングにいますが、今では他のプラットフォームを片手にテレビを観ます。週末に何をするかをプランするモードか、または、映画クリップを観て何かを発見するモードなのかもしれません。

週末の予定を今立てているのは誰で、映画に行く予定があるのは誰か?映画に行こうと思っている人は大勢いても、どの映画を観るかは決まっていません。作品を決めていないけれど映画に行こうとしている人と、二週間後に映画に行こうとしている人では、伝えるべきメッセージが違うはずです。こういった行動ベースのアクションはテレビだけを利用した宣伝ではなかなか困難です。

タッチポイントは「あらゆる場所」であり、「デジタルなのか放送なのか」ではなく、互いに盛り上げるべく両者を組み合わせてイベント化していく必要がある

デビット・オコナー(ユニバーサル・ピクチャーズ)

パネリストの皆さんがこれまでおっしゃったとおりだと思います。

我々にとっては二者択一ではなく、様々なマーケティング領域をコラボレーションさせるということです。そして、『ワイルド・スピード』の予告編の公開と、フェイスブックLiveでも配信する「Sunday Night Football(全米規模で放送するスポーツ中継番組)」のオンエアを開始したばかりですが、出演者のSNSアカウントを巻き込んだ一大キャンペーンを実施し、インスタグラムでも展開しました。

すべての分野のアクションを連動させてイベント化し、視聴者にアピールしたのです。現代はこれまで以上にアクションの連動と、それらをいかに戦略的に統合するかが重要になる時代だと思います。
 

JP・リチャーズ(ワーナー・ブラザース ピクチャーズ)

私はデジタルマーケターなので、いろいろな人に「テレビをお払い箱にしたいのでしょう」と言われますが、それは誤解です。ワーナー・ブラザース特有の点のひとつは、リニアなテレビとデジタルなテレビが完璧に一体化し協働していることです。それを成功させるには、非常に戦略的な両者の活用が不可欠です。

テレビの生放送にはデジタルを盛り上げる効果が期待できます。宣伝活動の中で効果的とされている要素のうち、大きな影響があるものの一つだと考えています。我々はテレビの生放送で目の前で起こっているものやデジタルを盛り上げ、またその逆も同様です。

それからミーガン(CAAのスピーカー)はこうも言っていました。「データや情報の多くをデジタルなパイプラインやキャンペーンから引っ張ってくる」と。オーディエンスが本当に我々の想定どおりの層だと示した場合、その情報がテレビキャンペーンに活用され、どのタイムやスペースを購入するのかに反映されます。

また、ジョナサン(オープン・ロード・フィルムズのスピーカー)の地上波とケーブルテレビのたとえ話は、すべてのメディアに対して言えることだと思います。タッチポイントはあらゆる場所なのです。

作品のためにできる限りのインパクトを作ろうと思えば協働は必須ですし、ターゲットのプロファイルや自分たちの意図、機会、季節性、または利用可能なミックスによってはテレビを多用するべき映画もあります。

そして、デジタルの方がより適切とされるケースもあります。もしターゲット顧客がスナップチャットやインスタグラムにいるのであれば、そのメディアのその層だけに向けた宣材の作りこみをするわけです。これが賢いメディア戦略ということです。

< (4)ヒットを生み出す宣伝コンテンツ:つながりある世界観と「タイミング」 に続く >

 ハリウッドマーケティングリーダーが語る「映画公開の最新理論と実践」シリーズ