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Netflixが直面する映画館との対立と共存
公開日: 2020/03/31

Netflixが描く映画業界の未来
~Netflix映画部門トップ基調講演~ 第5回
Netflixが直面する映画館との対立と共存
~新エコシステムが生む業界へのメリット~

 

2019年12月にロサンゼルスで開催されたカンファレンス“Variety's INNOVATE”より、Netflix映画部門トップ、スコット・ステューバー氏による基調講演“Keynote Conversation with Netflix Films' Scott Stuber”をレポート。

連載第5回は、映画館とNetflixとの関係性に焦点を絞りました。上映期間、上映館数、配信開始時期などで対立する両者。Netflix映画部門責任者のスコット・ステューバー氏が、同社の現状を明かすとともに、課題や今後について言及しました。

 

※本記事で触れられている内容は2019年12月時点の情報です。

 

《目次》

 

配信開始が上映終了を意味する?

 

 モデレーター:クラウディア・エラー(米Variety紙編集長)
Netflixで配信を開始した作品が、まだ映画館で上映中だと言われて驚きました。以前、『アイリッシュマン』のような作品が配信されると、どのくらいの映画館で上映が終了となるのかと尋ねたら、ゼロだとおっしゃいました。なかでは上映期間を延長するケースもあり、『ROMA/ローマ』などは公開から1年経過した今でもヨーロッパの映画館で上映されているようです。世間でよく言われる、「配信サービスが開始された時に、劇場公開は終わる」という認識は間違っているでしょうか?

 

 スコット・ステューバー(Netflix映画部門責任者)
間違っています。実は、今朝もあるフィルムメイカーとその点について話をしたばかりです。新たな業態については誤解も多いので、経営者は大部分の時間をその説明に割くことになります。今、Netflixにはスポットライトがあたっています。注目を浴びる企業は、世界中の人々から様々な誤解を受けるものです。ですから、経営陣はコミュニティに赴き、協議し、批判を傾聴するとともに、そういった誤解を解く義務も課せられています。

マリッジ・ストーリー』は、5週間とお話ししましたが正確には5週間半、 Netflixでの配信開始前に映画館で上映されました。現時点では、映画館側の希望があれば上映を継続することになっています。私としては、継続の希望があることを期待しており、2月末までという話で進んでいます。クラウディアが指摘したように、『ROMA/ローマ』は公開後1年経過しているにも関わらず、ヨーロッパの映画館では今でも上映されています。

Netflixは反劇場派と目されることもありますが、それは間違いです。映画館チェーンとの協働を望んでいますし、できれば我々の作品を上映していただきたいと思っています。ありがたいことに、『アイリッシュマン』は今週2つの賞をいただいたおかげもあって上映館数が順調に増えています。また、同時にNetflixでの視聴状況も好調です。

 

 

 

ビジネルモデルの間口は広くあるべき

 

 モデレーター:クラウディア・エラー(米Variety紙編集長)
依然、Netflixに対する映画館経営者の風当たりが強いように思えます。多くの経営者がNetflixにビジネスを奪われたと感じているのではないでしょうか。壊滅させられているという方もいます。 NATO(National Association of Theatre Owners:全米劇場所有者協会)のジョン・フィシアン会長は、ニューヨーク・タイムズ紙で「大きな収益をあげているNetflixが『アイリッシュマン』を26日間しか劇場公開させなかったことは非常に残念なことだ」と発言しました。この発言に対するご意見をお聞かせください。

 

 スコット・ステューバー(Netflix映画部門責任者)
ジョンとは協会関連で頻繁に話をする機会がありますが、非常に彼らしいですね。私は発言を巡って争う必要はないと考えています。世界が今抱えている問題は、意見の異なる人々が互いに怒鳴り合っていることです。そんなことは止めるべきです。落ち着いて対策を協議することで進歩が生まれます。我々は生産的な対話を何度もしてきました。

誰にとっても有益な手法を模索しているのが、実際のところです。我々はあるビジネスを展開しており、彼らにも彼らのビジネスがあります。誰も他者のビジネスを損壊しようとはしていません。全員が機会を探してきました。関係者全員が前進を目指していたため、NATO とは有意義な討議をしてきましたし、今後も継続するつもりです。

従来型の映画館ビジネスに例えるなら、現在機能しているものが何もない状態でスタジオを運営していた時代に、我々がアニメーションスタジオを設立するようなものです。映画館ビジネスではそれが成り立ちますが、Netflix には映画館ビジネスで成功する有名キャラクターやドル箱作品はありません。そこで、我々が試みたのは、全く新しいエコシステムを構築し、新たな才能や今までにない作品にもチャンスを与え、多くの雇用を創出することでした。それは業界にとってもメリットとなります。

ご存じのように、Netflix は健全なエコシステムを実現するために継続的に視聴・鑑賞機会を拡大しています。どれだけ潤沢な資金があろうとも、一からスタートして14 もの新たなオリジナル作品を製作・公開し、黒字にすることは、誰にでもできることではないと思っています。我々はこの状況を継続したいと考えており、その目標を達成しつつあります。

様々な課題があります。映画館サイドが抱えている課題や取るべき対策については、一定の理解ができます。誰かのビジネスに侵食しようと考える者はいません。発言を巡って争うつもりはありません。私のやり方ではないからです。

 

 モデレーター:クラウディア・エラー(米Variety紙編集長)
実際に最大手のチェーンではNetflix 作品が上映されていませんので、まだ緊張関係はあると思われます。近々にも状況が変化すると考えていらっしゃいますか?

 

 スコット・ステューバー(Netflix映画部門責任者)
徐々に変化するものと思っています。ビジネスが成長し、ディズニーやワーナーなどのように、大手スタジオを始めとする企業が多様な形で配信に参入していくと変化が起こるでしょう。これまでにあまり光が当たらなかった作品も注目されるよう、ビジネスモデルの間口は広くあるべきです。

 

 

 

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