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ヒットを生み出す宣伝コンテンツ:つながりある世界観と「タイミング」
公開日: 2017/06/30

ハリウッドマーケティングリーダーが語る「映画公開の最新理論と実践」 (4)

<連載>ハリウッドマーケティングリーダーが語る「映画公開の最新理論と実践」

 “Studio Roundtable: The Art and Science of Opening a Film”

ハリウッドマーケティングリーダーが語る「映画公開の最新理論と実践」の4回目。スピーカーやセッションの概要は連載1回目(大ヒットを生み出す「イベント化」と「ライフサイクルマーケティング」)をご覧ください。

宣伝コンテンツは映画と情緒的つながりがあり、そして「続きを観たい」と思わせる「パズルのピース」を伝えることが大切

サラ・チャザン(モデレーター)

宣伝用の素材コンテンツの話をしましょう。映画の公開に際してターゲットごと、プラットフォームごとに用意するカスタム仕様のコンテンツを用意する際に、どのような問題をお感じになりますか?また、最近これは見事だと思われたものや、ご自身が最近関わられたものをご紹介ください。
 

ジョナサン・ヘルフゴット(オープン・ロード・フィルムズ)

「映画を観に行こう」と決める行動は、本質的には情緒的決定です。人は、作品との間に情緒的なつながりを感じるからこそ、その作品を観るのであって、それがなければ観ようとはしません。これまで我々は、その作品にある“何が観客の感情に訴える要素なのかを深掘りしてアプローチしてきました。そして、映画のシーンそのものでない素材からコンテンツを作る場合には、必ず本編と同じ情緒的つながりのあるものにすることが重要です。

実は10年に一度くらいしかないことなので例として使いたくないのですが、例えば『デッドプール』です。『デッドプール』のコンテンツは、すべて本編と同じ情緒的なつながりを想起させ、本編を観た時にコンテンツの延長線上にある世界観を感じられるようにできています。

一方で具体名を省いて悪い例をお話しますと、数年前、ホラー映画の宣伝でバイラルビデオによりドッキリ広告が流行ったことがありました。しかし、人がホラー映画を観に行くのは怖がらせてほしいからです。おバカだったり笑えたり間抜けだったりするコンテンツを作れば、6000万回も再生されて「トゥディ(米NBC系列のニュース番組)」でとりあげられ、バイラルビデオのいろいろな記録を塗り替えることになるでしょう。しかし、忘れてはならないのは、最終的にそれは我々の仕事ではないということです。我々の仕事は“映画を公開することです。

昨年の事例で特筆すべきものと言えば、『セントラル・インテリジェンス』です。ケビン(・ハート)とドウェイン(・ジョンソン)を起用して、アクションとコメディをテーマにしたコンテンツを用意したのです。「映画館で2時間、こいつらを観てみたいね」と思わせるパーフェクトな事例でした。これこそマーケターのやるべき仕事です。
 

ミーガン・クロフォード(CAA)

『セントラル・インテリジェンス』の素晴らしかった点は、二人をフィーチャーした宣伝のすべてが“映画で続きを観たいと思わせる出来だったことです。「あの二人の絡みは見逃せないから映画館に足を運ばなければ」と思わせたのです。普通は、なかなかこうはいきません。バイラルコンテンツを考える際に重要なのは、継続的に“パズルのピース”を伝えなければなりませんが、決して全体像は伝えず、本編を観たいと思う気持ちをキープさせることです。

ターゲットごと、プラットフォーム、メディアごと、広告フォーマットごとにカスタムした宣伝コンテンツを作りこみ、オーディエンスの心に響かせる

JP・リチャーズ(ワーナー・ブラザース ピクチャーズ)

ワーナー・ブラザースが得意にしてきたのは、すべての映画についてターゲットごと、プラットフォームごとにカスタムしたコンテンツを用意することです。キャストを使えるからというだけでカスタムしたコンテンツを用意しても意味はありません。

重要なのは、効果的なコンテンツを作るにはどうすればいいか、プラットフォームはどう利用するかです。地上波で流すのと、視聴者の特性をフルに反映したコンテンツを出せるブラボーやUSAネットワークなどのケーブルで流すのでは大きく違います。

たとえば、スワイプするたびに出演者との間に親和性を醸成できる、スナップチャットの面白くてクリエイティブな活用です。

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』では、ターゲットが非常に広く、10代や20代から老人ホームにいる人々にまでアピールしなければならない点を重視しました。そのため、宣伝をかける場では必ず「オーディエンスの心に響くものを」と心がけました。主要キャストを登場させられたので、映画の魅力を伝えて関心を喚起する素晴らしくイノベーティブなスナップチャット施策ができました。親和性が醸成されたのです。私は親和性の醸成こそが、カスタム仕様のコンテンツを用意する上で最大かつ最重要な目的だと思っています。この施策は非常に効果的でした。

我々の戦略の一部は「ハリー・ポッター」の魔法の世界を感じさせ、『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』を新たなオーディエンスに向けて訴求することでした。彼らに合わせた宣材と、ふさわしいクリエイティビティな仕掛けを用意することが成功の秘訣でした。

 

デボラ・ブレット(バイアコム)

いずれも非常に大事なポイントで、それを常に実感させられます。

ツイッターやフェイスブックでうまくいく施策をスナップチャットで展開してもうまくいきません。戦略的にプラットフォームごとに展開を変えていく必要があるということですね。スナップチャットとディスカバーのフィードは別物だと考える必要がありますし、スマホに入っているひとつのアプリを考えても、場合によって適切なコンテンツは変わります。

『レゴバットマン ザ・ムービー』では誰も予想しなかった施策を行いました。ワーナーと協働したのですが、彼らはレゴバットマンが自分のアジトであるバットケイブを案内してくれるコンテンツを制作したのです。「MTVクリブス(芸能人の豪邸を訪問するMTVの人気番組)」の昔の映像を交えてディスカバー用のコンテンツを作りました。よく耳にする“既存の枠組みを飛び越えた”施策ですが、伝えているのは映画の本編と同じ世界観です。同じ遊び心や楽しさがあり、奇をてらわない方法で情緒的なつながりを醸成することに成功しました。

カルチャーとして今何が起こっているのかを常に確認し、自然な形でそれに乗ることが重要

デビッド・オコナー(ユニバーサル・ピクチャーズ)

私はカスタム仕様のコンテンツを用意するのに大賛成です。しかし、市場や競合状況に目を配り、特定の年の、特にバーチャルIP に関する動きはどうかを見極めてそこで突出しなければなりません。

たとえばオリンピックを考えた時、我々はアニメキャラクターがその中に登場しても大して関心を喚起できるとは思いませんでしたし、前提としてネットワークでオンエアされるものでした。そこで、キャラクターが「スポーツアンセム(ハーフタイム等にスタジアムで流れる曲)」を車の中で歌っているだけのコンテンツを特別に制作し、オリンピックの数週間前から閉会まで流しつづけました。この結果、我々の映画は認知ゼロから超有名作品となりました。オリンピックムードにもふさわしかったはずです。

カルチャーとして今何が起こっているのかを常に確認し、それに乗ることが重要です。押しつけては逆効果ですが、ある程度自然に見えて、キャラクターや映画とのマッチングが良ければ、成功する可能性は十分あるはずです。

タイミングが非常に大事で、イベント化して期待値を盛り上げていく中で「今の瞬間」何を見せるべきかがポイントになる

ポール・ヤノーバー(ファンダンゴ)

重要なのはタイミングだということには皆さん賛成していただけるものと思います。情緒的なつながりを感じられるコンテンツがあるだけではダメで、映画をイベント化するというポイントに立ち返る必要があります。

様々な事例から、皆さんが実に見事なタイミングで実施されたことがわかります。また、いろいろなことがわかってきたのではないでしょうか?宣伝コンテンツを観せるべきタイミングや、関心や興奮を煽って最高潮にもっていき「この映画を観なければ」と思わせる方策など。
 
我々のアクションはすべてイベントカーブをつくるためにあります。イベントカーブなしにターゲットごと、プラットフォームごとのコンテンツを用意しても、うまくいけばいいですが、それは運の問題に過ぎません。

< (5)人はなぜ「今」映画館で映画を観るのか に続く >

 ハリウッドマーケティングリーダーが語る「映画公開の最新理論と実践」シリーズ