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映画館来場促進のための精緻なターゲティング~ハリウッドの手法
公開日: 2018/04/26

デジタルマーケティングによる映画鑑賞者ターゲティング最前線(4)
massive2018

 

これまで以上に精緻なターゲティングが求められているデジタルマーケティング業界。成功へと導くターゲティングのカスタマイズとそのリーチ規模のバランスとは? そして求められる対応速度とは? 2018年春、米ロサンゼルスで開催された映像業界関係者向けのカンファレンス”MASSIVE The Entertainment Marketing Summit”で行われたパネルディスカッション“Masters of Targeting and Holding the Audience”にて答えを探ります。

 

※スピーカーやセッションの概要は、連載第1回「映画ヒット×デジタルマーケティング成功事例~『ジュマンジ』」をご覧ください。

 

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なぜ劇場映画ビジネスでは、データとそれに基づくターゲティングが重要視されるのか。連載第4回ではソニー・ピクチャーズのエリアス・プリシュナー氏がその背景を解説。また、メディア・プラットフォーム事業者が映像コンテンツホルダーのマーケティングのサポートを、データ分析に基づく精緻なターゲティングによって実施したパンドラ・メディアとアマゾン・スタジオの事例にも注目です。
※本記事で触れられているサービス内容はカンファレンス開催(2018年3月)時点の情報です

 

精緻なターゲティング

 

無駄の多い“バラ撒いて祈る(spray and pray)”戦略

 

エリアス・プリシュナー(ソニー・ピクチャーズ)
我々のビジネスにとって、なぜデータとそれに基づくターゲティングが重要なのかを改めて明確にしておきたいと思います。今日の劇場映画ビジネスでそれらが重要視されるのには、明らかな理由があるのです。

その理由の1つが、「マスを狙う」ことの効率の悪さです。MPAA(アメリカ映画協会)が発表している劇場映画観賞者の調査結果によると、興行収入の大半を米国に住むひと握りの層に頼っており、他の層に対しどれだけ宣伝活動を行っても劇場に足を運ばないということが分かりました。つまり、「可能な限り幅広く宣伝活動を行う」という従来の“バラ撒いて祈る(spray and pray)”戦略では無駄が多すぎるということです。

もう1つの理由として、我々の競合は映画会社だけではないということが挙げられます。多くの競合企業がいます。私たち映画業界は「ソファと競合している」という言い方もできるかもしれません。なぜなら、私たちが意識すべき競合相手とは、ソファに寝転んでできる一切のことであり、また、ソファから重い腰を上げて劇場に足を運んでもらうまでにある、あらゆるモノやコトなのです。これらの映画以外の消費や行動について理解し、映画館でその映画を見ることの訴求をしなければならないのです。

その他、映画業界の現状として、劇場内での顧客行動も挙げられるでしょう。我々はグッズやチケットを直接顧客に販売していません。つまり、最終的な顧客との接点は、我々がコントロールできない場所にあるのです。したがって、購買に至るまでの行動に関するデータが大事になります。

最新のデータ分析・解析においては、顧客の動向(=シグナル)に注意を払うようになってきました。それらのシグナルをもとに、宣伝活動が効果を上げているのか、チケット収入やビジネスのポテンシャルはどの程度なのかを判断しています。このようにして私たちは戦略を立てているのです。今日、我々が利用するツールはますます増え、本日登壇しているグーグルをはじめ、多くのパートナーにサポートいただいています。このプロセスにおいて、パートナーの存在は非常に重要です。

 

精緻なターゲティングによる確実なアプローチ

 

スザンヌ・クンケル(モデレーター)
パンドラの事例を少しうかがいましょう。パンドラがブランドに提供しているデータについてお聞かせください。

 

エイミー・ラピック(パンドラ・メディア)
お話をうかがいながら、パンドラが精緻なターゲティングをしていることを、改めて実感しました。パンドラでは、月間7,500万人を超えるアクティブユーザーから、大量の情報を日々収集しています。

最近では、アマゾン・スタジオと組んで『The Tick / ティック~運命のスーパーヒーロー~』のプロモーションを行いました。 まず、オーディエンスがよく聴く音楽のタイプや聴取時間を基に、熱狂的なポップカルチャー層や聴き流し層といったように、ターゲットを絞りました。そして、実際に対象としたいオーディエンス、時間帯、聴取端末を細かく設定したキャンペーンを展開しました。起床の時間帯にはモバイルで、車に乗っていそうな時には車載機器からなど、時間帯に応じたアプローチをしたのです。

この宣伝によって、『The Tick / ティック~運命のスーパーヒーロー~』の認知は約43% に、意欲は約60%にもなり、大成功を収めました。なぜなら精緻なターゲティングを行えたからです。そこが非常に重要であり、まさにキーとなる要素だと思います。

 

<「(5)精緻なターゲティングが可能にした顧客との”対話“~グーグルの事例」に続く>

 

 

レポート・データ解説