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『パラサイト 半地下の家族』から学ぶヒットの萌芽
公開日: 2020/07/10

『パラサイト 半地下の家族』から学ぶヒットの萌芽 Introduction
Introduction

 

2019年11月、米国カリフォルニア州サンタモニカで開催された映画見本市アメリカン・フィルム・マーケット(AFM:American Film Market)より、“Breaking the Mold: The Innovators”をレポートします。

コロナ禍は映画・エンタテイメントビジネスに大きな変化をもたらしつつあります。カンファレンスには、製作会社、劇場チェーン、配給会社、コンテンツホルダーという異なる立場から、映画ビジネスの変革を志す先駆者が集結。昨年開催されたカンファレンスではありますが、ウィンドウ問題の本質に踏み込むなど、今の市場・鑑賞者の変化に対応、あるいは変革を実現していくうえでの示唆に富んだ内容となっています。

また当時、登壇者に名を連ねるNEON配給の『パラサイト 半地下の家族』が米国で一般公開された直後ということもあり、同作を事例として紐解きながら議論が展開する運びに。日本では46億円を超える興行収入を達成し、ヒットを続ける『パラサイト 半地下の家族』。同作のヒットの萌芽を通じて、現在の映画業界が直面する課題が浮かび上がります。

※本記事で触れられている内容は2019年11月時点の情報です

 

モデレーター:
エイミー・フリードランダー・ホフマン(Amy Friedlander Hoffman)
投資家、元Uber事業開発・経験価値マーケティング責任者

パネリスト:
エリック・フェイグ(Erik Feig)
PICTURESTART創業者兼CEO
―プラットフォームを問わずコンテンツの製作、ファイナンス、プロデュースを手掛けるメディア企業

ティム・リーグ(Tim League)
Alamo Drafthouse Cinema 創業者兼CEO
―米劇場チェーン

アロン・レヴィッツ(Aron Levitz)
Wattpad ワットパッド・スタジオ代表
―著者と読者を結ぶSNS型の小説投稿・閲覧サービス/アプリを展開

クリスチャン・パークス(Christian Parkes)
NEON 最高マーケティング責任者
――映画製作・配給会社(『パラサイト 半地下の家族』『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』等)

左からエイミー・フリードランダー・ホフマン氏、ティム・リーグ氏、エリック・フェイグ氏、アロン・レヴィッツ氏、クリスチャン・パークス氏

 

Introduction

 

モデレーター
パネリストの皆さん、ご出席ありがとうございます。今回のタイトルは「慣習を打ち破る先駆者たち」ですね。まずは、登壇者の紹介からはじめましょう。

私の経歴はIntertainerという会社から始まります。そこでは、ブロードバンドとケーブルを利用した最初の動画配信サービスを提供していました。少し前まで、インターネットの回線速度は、約256kbpsだったので、映画やテレビを実際に配信するには時期尚早でした。しかし今後、動画配信が実現することは誰もが分かっていたと思います。これは、起こりつつある波の一部でした。その後移ったAT&Tでも、「U-verse」(ブロードバンドとIPTVのセットサービス)という同様のサービスを展開しました。消費者から要求が出始めていたのです。

この5年間、私はUber(自動車配車サービス)という会社に在籍していました。みなさんがどのような印象を抱いたか分かりませんが、初めてUberを利用した時は魔法のようでした。電話を開いてボタンを押したら、7分後に車が来たんです。驚くべきことです。

市場の期待は急速に変化しています。ですから、本日は多くの議論が行われるでしょう。消費者は何を期待しているのか。どうやれば彼らとつながれるのか。この先に何が待っているのか。様々な議題が考えられますね。パネリストのご紹介の後、議論に入りましょう。

 

ティム・リーグ(Alamo Drafthouse Cinema)
こんにちは、ティム・リーグです。Alamo Drafthouse Cinemaの創設者兼CEOです。1997年にテキサス州オースティンの地で劇場チェーンを創業しました。開業時には1つのスクリーンでしたが、その後約22年をかけて成長してきました。今ではニューヨークとロサンゼルスを含めて40カ所に劇場があり、2020年のオープンに向けて8カ所が建設中です。

私はほかにも関連事業を手掛けています。まず、劇場と並行して運営しているMondoという消費財部門があります。また、私自身は配給会社NEONの共同創業者でもあります。そのほか、劇場チェーンと連携したジャンル映画祭も始めました。

 

エリック・フェイグ(PICTURESTART)
PICTURESTARTの創業者兼CEOのエリック・フェイグです。およそ1年前に立ち上げ準備にかかり、約5カ月半前に正式にローンチいたしました。その前は、Lionsgate Motion Picture Groupを運営し、またその前は、Summit Entertainmentでパートナーの一人として働いていました。

私は映画のプロデューサー、および出資者としてスタートしました。そして、その後何年もかけて成長し、多くの映画への出資や資金調達をするまでになりました。Summit Entertainmentは独立系の配給会社でしたが、Lionsgateに買収されて大きな会社になりました。その後、私はLionsgateを離れ、現在の会社「PICTURESTART」を設立することになったのです。

PICTURESTARTは、プラットフォームにとらわれず、映画やテレビ向けコンテンツ、物作りを手掛ける会社です。特にあるカテゴリーに注力しており、私たちはそれを「声の発見(Discovery of Voice)」と呼んでいます。これは若者向け、あるいは成人向け、あるいはヤングアダルトといったジャンルに関連したもので、自分自身が何者であるかを理解するものです。

実際には映画とテレビ向けコンテンツになります。あらゆる種類のスタジオや配給会社と協力し、劇場配給やSVOD配給、TV限定シリーズ作品などを手掛けています。ここ数カ月の大きな変化というと、配給を第一に据えた戦略から、テーマを第一に捉えた戦略へと転換したことでしょうか。

 

 

クリスチャン・パークス(NEON)
皆さん、こんにちは。クリスチャン・パークスです。NEONのCMOです。NEONはロサンゼルスとニューヨークに拠点を置く 独立系の映画配給会社です。約3年かけて現在までに27本の映画を公開してきました。世界中のどこからでも最高の映画を見つけることができるように努力しています。最も成功したのは数年前のクレイグ・ギレスピー監督『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』、そして最新作はポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』です。

 

アロン・レヴィッツ(Wattpad)
こんにちは、Wattpad Studiosの責任者、アロン・レヴィッツです。Wattpadは読者や作家のための世界最大のSNSです。第1章だけでもいいので、アイデアをお持ちであればサイトに投稿してください。プロである必要はありませんし、第2章のアイデアがなくても構いません。それでも読んでくれる人がいるのです。実際、毎月8000万人のユーザーが読んだり、書いたり、交流するためにサイトを訪問しています。

ユーザーからの投稿により、Wattpadのライブラリには約5億の物語が生まれました。これらは、あらゆるジャンル、サブジャンルを横断しています。あなたが聞いたこともないようなサブジャンルが、1万もあるかもしれません。

Wattpad Studiosでは、オーディエンスデータに注目しています。オーディエンスが本当に熱中しているものはなにか、どのくらいの量を読んだのか。どの程度共有したのか、再読量はどのくらいかといったものです。そして、オーディエンスの物語を作品化していくのです。そしてそれが、出版あろうと、映画であろうと、テレビであろうと媒体は問いません。場所もロサンゼルスだけでなく、世界中を対象としています。我々は今、12のパートナーシップと11の言語で映画やテレビ作品のリリースや、出版を行っています。

 

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